2022年12月12日、引退競走馬のセカンドキャリアを支援する活動認定NPO法人サラブリトレーニング・ジャパン (以下、サラブリトレーニング)に、5000万円もの寄付をした会社がある。AI技術による競馬予想を提供している、株式会社AlphaImpactだ。『回収型人工知能』『的中型人工知能』など、大手競馬サイトでの予想提供で目にした競馬ファンも少なくないだろう。そうしたサービスを提供している新進気鋭の会社が、なぜ引退馬支援の団体に多額の寄付をしたのか──。今回は、代表の貫井駿さんにお話を伺ってきた。
「社会問題の解決に貢献を…」
「元々、引退馬支援には興味を持っていました。競馬に携わる事業に従事している身として、"馬に食べさせてもらっている"という気持ちもありましたので。社会貢献という意味でも、普段から競馬を予測するという価値を社会に提供してきた想いはありますが、社会問題へのアプローチという意味では『まだ、あまりできていないな……』とも考えていました」
AI技術による競馬予想をする仕事に従事しているという意味でも、競走馬が身近な存在だった貫井さん。社会貢献について考える上で、そうした身近な存在が思い浮かぶのは自然なことかもしれない。貫井さんは、いつしか「常々、競走馬への支援について考える」ようになっていたという。
「弊社の大元が前職のドワンゴで参画していた競馬予測AI『Mamba』による募金プロジェクトでも寄付していた経緯もあり、サラブリトレーニングの名前は知っていました。自分も寄付を…と思っていたところ、たまたまふるさと納税のサイトでサラブリトレーニングの名前を見かけたんです。調べていると法人からの寄付も受け付けていることを知って『じゃあ、寄付してみようかな』と」
寄付のことを会社の仲間に相談したところ「社会的な価値を考えれば素晴らしいこと」と快く賛同してくれたという。インターネットで振込の窓口を調べ、事前にメールで連絡を入れつつ、組織として5000万円の寄付をした。
「金額に、理事の角居さんが驚いてくださったようで『せっかくなら直接お礼を』と仰ってくださったんです。ウオッカ直撃世代なので、新聞でよく目にしていた先生にお会いできると聞いたときは、恐れ多いと感じましたね。実際に会ってみると、すごく物腰の柔らかい方で、同時にオーラがすごかったです! 調教師時代に使用していた"チーム角居"のゼッケンや帽子を、サイン入りで頂きました。事務所で大切に飾っています!」
衝撃を受けた、2005年の有馬記念
貫井さんと競馬の出会いは、2005年まで遡る。
きっかけは、年末の大一番・有馬記念だった。
「父がディープインパクトとハーツクライの馬連を買っていたので、電気屋さんで見ていたんですよ。衝撃的なレースでした。父の馬券が当たったというのもありましたが、それよりも、電気屋にある数々の大画面テレビにハーツクライが映し出されていたことに感銘を受けたんです。最強と言われたディープインパクトを撃破する走りに『競馬って、すげー!』と(笑)」
そしてハーツクライのファンとなった貫井さん。
ハーツクライが出走するレースを追いかけるようになり、いつしか競馬場へ通うようになっていたという。ダービーやジャパンCも現地観戦するようになり、多くの名レースに立ち会った。
「それこそ、角居先生が管理していたウオッカが制したダービーも現地で見ていましたし、ダイワスカーレットVSウオッカの天皇賞・秋も現地で見ていました。当時から『これは歴史に残るな…』と思うレースでしたね」
史上3頭目となる牝馬のダービー馬、ウオッカ。
64年ぶりの大偉業を達成した名牝が繰り広げた数々の名勝負を目に焼き付けた貫井さんは、それ以降、さらに競馬の魅力に取りつかれていったという。
「一度きりで支援は終わりません」
「角居先生が引退馬支援に取り組まれていることは、先生が出された『さらば愛しき競馬』を拝読して知っていましたが、具体的にどんな活動をやっているかまでは知りませんでした。世間でも引退馬支援という言葉が認知され始めていますが、まだまだスタートラインに立ったところなのかもしれません。今回、角居先生とお会いできることになってから、引退馬支援についてインターネットで調べていたものの、先生と実際に話すと生々しい話も多かったのが事実です。競走馬として登録された馬の多くが引退後どこへ行くか…という話など、ショッキングな話もありました」
サラブリトレーニングの活動は、公式HPで下記のようにまとめられている。
馬のセカンドキャリアを創出するために「吉備中央町」「岡山乗馬倶楽部」「TCCFANS」「Thanks Horse project」などの大きなグループ全体で、1頭でも多くの引退馬をセカンドキャリアへ繋げるとともに、馬の多様な利活用を創出することで受け皿拡大を促進し、もっと気軽で身近な馬事文化の普及を目指しています。
──サラブリトレーニング・ジャパン 公式HPより引用
馬たちのセカンドキャリアを創出する為には、リトレーニング・キャリアパス・キャリアマネジメントと大きな枠組みがあり、その中でも多くの過程があります。その中でも、サラブリトレーニングは「リトレーニング」の過程を請け負っています。
リトレーニング期間中は飼育費用はもちろん、輸送費や去勢費、治療費等、様々な費用が大きな 負担となり、競走馬引退後のキャリアパスにおけるボトルネックとなっています。このリトレーニング期間をサポートする事により、1頭でも多くの馬をセカンドキャリアに繋げることができます。
「サラブリトレーニングの活動で魅力的に感じる点は、競走馬の余生でも社会に価値を再提供しているところです。小学校の教育やホースセラピーなどは非常に有効的ですし、そのためえにリトレーニングをするというのは持続可能性が高いと感じます。そして頑張ってきた馬が余生を過ごすための養老施設もありますし、引退した競走馬を一生サポートしていけるのは素晴らしいと思います。また、競馬界のタブーとも言えるテーマに対して、その熱い思いから率先して切り込んでいった角居さんの人柄と熱意にもとても共感しています。もちろん簡単なことではないでしょうし、年間でも4000万以上の維持費がかかるという大変な事業ですが、私たちも寄付を今回の一度きりにするつもりはありませんし、継続的に応援していければと思っています!」
参考:https://alphaimpact.co.jp/2022/12/21/donate-to-thanks-horse-platform/
写真:Horse Memorys、AlphaImpact公式HP、サラブリトレーニング・ジャパン公式HP