[連載・馬主は語る]試金石(シーズン2-12)

俄然、勢いづいたチーム・エコロテッチャンの代表馬主から、OROターフスプリントオープンに挑戦したいという提案がありました。9月26日(日)に行われる芝1000m戦の全国交流競走です。1着賞金は300万円。オープンクラスのレース賞金にしてはお世辞にも決して高いとは言えませんが、岩手競馬で馬を走らせていると、300万円の賞金は高額に思えるのが不思議です(笑)。僕は4分の1馬主ですから、いろいろと差し引かれたとしても、単純計算で60万円ぐらいは懐に入ってくることになります。決して少ない金額ではありません。

芝の1000m戦であれだけ良い走りができ、しかも好タイムで勝利したのですから、さらに上を目指そうとするのは当然です。やはり目標のレースがあるからこそ、厩舎関係者はもちろん、馬主も気持ちが盛り上がるもの。勝算はともかくとして、競馬のレースは何が起こるか分からない以上、エコロテッチャンとチームの面々と口取りをしている光景が目に浮かんでしまいます。馬主としての経験が浅いながらも想像力を駆使して、ポジティブなイメージを拡げていきます。

ただ現実問題として、エコロテッチャンがOROターフスプリントオープンに出走するためには、賞金を加算しなければいけません。北海道(門別)や南関東、金沢など他の競馬場からもトップスプリンターたちがこぞって出走してくるため、フルゲート14頭の中に入るためには相応の賞金が必要になるのです。そのためには、その2週間前に行われるステップレースとしてのハーベストカップに出走し、賞金を加算する必要があります。さらに言うと、そのハーベストカップに出走するためにも賞金が必要になります。賞金の逆算です。

岩手競馬は今年の9月から、直近の12レースの賞金を基準として、クラス編成の組み換えが行われることになりました。netkeiba.comやJBISで検索して、エコロテッチャンの個別ページを見てみると、右端に賞金欄があります。その賞金を直近の12レース分を足していった金額が、今のエコロテッチャンの賞金額となります。細かいことを言うと、中央競馬で獲得した賞金は8割カット、つまり2掛け(20%)として算出されるため、エコロテッチャンが2020年10月18日に東京競馬場で行われた未勝利戦で稼いだ77万円の賞金は、15.4万円としてカウントされるということになります。

ハーベストカップに出走してくるであろう岩手競馬のA級の馬たちの直近12走の賞金を計算することで、14頭の枠の中に入れるのかどうか、おおよその見当がつきます。もちろん、今後、賞金を加算してくる馬もいますし、十分な賞金を持っていても回避する馬も出てくるかもしれません。レースの直前になり、出走登録した馬が出揃って初めて、出走できそうか難しそうかが正確に分かるということです。エコロテッチャンの場合は、8月7日に行われるグリーンマーブル賞に勝利して賞金を積み上げ、それでもハーベストカップに出走できるかどうかは微妙という現状です。結局のところ、目の前のレースできっちりと結果を出していくしか未来は開けないのですね。

そうした人間の皮算用や計算とは全く関係なく、エコロテッチャンは走ります。大雨が降って馬場が軽くなったことで、時計が1秒程度速くなってしまったそうですが、3F 48.4-31.1-15.1(17.3-16.0-15.1)という好時計で調教を駆け抜けました。中間の時計的には申し分ないのですが、志村厩務員から「手前を替えずにややモタれ気味でした。トモにやや疲労感が残っているためでしょう。中一週続きできついのですが、ここを乗り切れば、しばらくレース間隔が開くので頑張ってほしいですね」とLINEが入ってきました。

上手獣医師も「やはり左後肢に辛さが出ていますね。前走後トモにかなり疲れが出ており、走りにも影響していそうなことが分かり辻褄が色々合いました」と返信。馬は生き物であり、激しいレースをすると肉体が消耗し、弱いところに悪いところが出てしまうのですね。

エコロテッチャンには古傷があります。2020年の11月15日の東京競馬場でのレース中、右前橈骨遠位端骨折を発症してしまい、半年の休養を余儀なくされました。その影響が残っているのか、右前肢を気にする素振りがあり、骨膜炎を疑われていました。サラブレッドオークションで取引された際の説明文にもそう書いてありました。ところが、上手獣医が多硫酸グリコサミノグリカンを予防的に筋肉内投与する処置をしてくれていることによって、今のところ全く症状が出ていないようです。

今回は、右前肢をかばって左後肢に疲れが出てしまっているのか、それとも単に激しいレースをした肉体的な消耗が左トモに出ただけなのか、僕には分かりませんが、サラブレッドにはどこかしら痛いところがあるのですね。僕たちの目には見えなくても、アスリートは満身創痍なのです。

そんな僕の不安をよそに、エコロテッチャンは当日、単勝1.4倍の1番人気に推されています。戦力評価欄のコメントには「エコロテッチャン【盛芝好き】」とあり、思わず笑ってしまいました。競馬新聞の印を見ると、隣の枠のリンシャンカイホウとの一騎打ちムード。リンシャンカイホウの戦力評価コメントは【適性高い】です。なるほど、リンシャンカイホウは昨年のハーベストカップの勝ち馬であり、その後、マイル戦を中心に使われて勝ち切れずにいますが、盛岡芝1000mのトップクラスの馬であることは間違いありません。エコロテッチャンにとって強敵であり、また今後のスプリント路線でどの程度通用するのかを見極めるための試金石にもなりますね。

(次回に続く→)

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