[重賞回顧]感動すら覚える末脚を披露したリバティアイランドが、まず一冠を獲得。~2023年・桜花賞~

JRAでおこなわれるGIは26。その中で最も華やかなレースといえば、やはり桜花賞ではないだろうか。近年は全国的に桜の開花が早まっており、散り始めの時期におこなわれることも少なくないが、向正面の桜の樹はなんとか持ち堪え、クラシックの開幕に彩りを加えてくれる。

そんな中、迎えた2023年の桜花賞は一強ムード。定番化しつつある直行ローテで臨む2歳女王が、今季初戦の桜花賞でどういった走りを見せるか──。これが最大の見所となり、最終的に18頭中3頭が単勝10倍を切ったものの、その2歳女王リバティアイランドが抜けた1番人気に推された。

7月におこなわれた新馬戦で、直千競馬以外では史上最速となる上がり3ハロン31秒4の豪脚を披露。早くから世代トップクラスの実力と噂されていた本馬。続くアルテミスSは直線で前が詰まり2着に敗れるも、阪神ジュベナイルフィリーズでは鬱憤を晴らすように完勝してみせた。今回は、それ以来4ヶ月ぶりの実戦となるものの、特に不安はないと見られ、非常に大きな注目を集めていた。

2番人気に推されたのがライトクオンタム。国内に6頭しかいないディープインパクト産駒最終世代の1頭で、ここまで2戦2勝。前走のシンザン記念はスタートでやや出遅れるも、直線で素晴らしい末脚を発揮し快勝した。父の主戦を務めた武豊騎手が騎乗し、管理するのは弟の武幸四郎調教師で、昨年2着のウォーターナビレラもこのコンビ。グレード制導入後初となる、兄弟タッグでのGI制覇。さらには、ディープインパクト産駒13世代連続のクラシック制覇も懸かっていた。

わずかの差で3番人気となったのがハーパー。デビュー戦はクビ差2着に惜敗するも、そこから未勝利戦とクイーンCを連勝。重賞ウイナーの仲間入りを果たした。今回、川田将雅騎手から乗り替わりになるとはいえ、ルメール騎手との新コンビで不安なし。桜花賞でなかなか結果が出ていなかった前走クイーンC組から2年連続勝ち馬が誕生するか。注目を集めていた。

レース概況

ゲートが開くと、ドゥーラが出遅れ。リバティアイランドも、少しふわっとしたようなスタートで、後方からの競馬となった。

一方、前はチューリップ賞を逃げ切ったモズメイメイがハナを切り、同2着のコナコーストが2番手。さらに、大外枠のトーセンローリエもここに加わり、シングザットソングと合わせて4頭が先行集団を形成した。

その後ろにペリファーニアとブトンドールが続き、さらに1馬身差でライトクオンタム、ハーパー、ドゥアイズと奇しくも2、3、4番人気馬が中団に位置。対して、人気のリバティアイランドは、後ろから3番手に控えていた。

前半600m通過は34秒0で、同800mは45秒9と平均ペース。先頭から最後方に位置するキタウイングとジューンオレンジまでは17、8馬身ほどの差で、縦長の隊列となった。

その後、3、4コーナー中間で、出遅れたドゥーラが馬群の外を通ってスパートを開始すると、これを追うようにして、外に持ち出されたリバティアイランドも上昇を開始。しかし、後方3番手のポジションは変わらないまま直線の攻防を迎えた。

直線に向くと、逃げるモズメイメイが突き放そうとするところ、残り300m地点でコナコーストが並びかけ、その後、単独先頭に。追ってきたのはペリファーニアで、チューリップ賞の上位3頭による争いとなった。一方、その後ろにいたシングザットソングとハーパーは、懸命に前を追うも差を詰めることができない。

すると、大外から末脚を爆発させたリバティアイランドがこれらをまとめてかわし、さらにモズメイメイも捕らえて3番手に上がると、残り100mでもう一段加速。ついには、ゴール前で粘るコナコーストとペリファーニアも差し切り1着でゴールイン。早目先頭から懸命に粘り込んだコナコーストが3/4馬身差で2着を死守し、クビ差3着にペリファーニアが入った。

良馬場の勝ちタイムは1分32秒1。桁違いの末脚を披露したリバティアイランドが、人気に応えて最初の一冠を獲得。ドゥラメンテ産駒は2年連続の桜花賞制覇で、騎乗した川田将雅騎手も、レース史上6人目の連覇を達成した。

各馬短評

1着 リバティアイランド

もともと前にいくタイプではないが、今回はふわっとしたスタートから後方を追走。川田騎手によると、今回は「全然進んでいく気がなかった」とのことで、極端な位置でのレースを強いられたが、次元の違う脚で直線15頭をごぼう抜き。感動すら覚える末脚だった。

この「全然進んでいく気がなかった」という点は少し気になるものの、2、3、4着はいずれも先行馬。それでも勝ち切るあたり、やはり抜けた実力の持ち主だったと言わざるを得ない。

こういった脚質ゆえ、アルテミスSのように進路がなくなる。もしくは、外を回った結果、最後は届かないといったリスクと常に隣り合わせだが、さらに直線の長い東京がマイナスになるとは思えず、もはや二冠は通過点で、目指すはその先か――。ますますの活躍が期待される。

2着 コナコースト

早目先頭から粘り、一度は前に出られたペリファーニアを父譲りのド根性で差し返し、やった!と思ったところ、最後は勝ち馬の鬼脚に屈してしまった。

言い換えれば、この頑張りがあったからこそリバティアイランドの末脚がより際立ったわけで、今回のMVP(馬だからMVH)を選ぶとするなら、この馬ではないだろうか。

父キタサンブラックも管理した清水久詞厩舎の所属で、これぞ競馬といえるようなドラマチックな血統。キタサンブラック産駒は、2023年4月9日現在、現4歳世代の牝馬から3勝クラス以上のレースを制した馬は出ていないものの、この2世代目からは、ラヴェルがアルテミスSを勝利し、コナコーストも重賞で連続2着。さらに、ヒップホップソウルがフラワーC2着と健闘が目立つ。

3着 ペリファーニア

コナコーストが父と同じ厩舎なら、こちらは半兄エフフォーリアと同じ鹿戸雄一厩舎の所属。この馬の頑張りも2着馬と同様に讃えられるべきで、リバティアイランドを最後まで苦しめた。

父モーリス、母父ハーツクライともやや晩成なだけに、わずかキャリア3戦で今回のパフォーマンスと考えると、ポテンシャルは計り知れない。オークスや秋華賞はもちろんのこと、古馬になってから最も成長するのは、もしかするとこの馬かもしれない。

レース総評

前半800m通過が45秒9で、同後半は46秒2とイーブンで=勝ち時計は1分32秒1。近年の桜花賞は非常に速いタイムでの決着が続いており、先行かつ内枠の馬が有利。

もちろん、2023年の桜花賞もそういったレースとなり、その中で唯一、後方から次元の違う脚で追込み、なおかつ勝ち切ったリバティアイランドの実力は、頭一つ以上抜けていたと言える。

自身の上がり3ハロンは32秒9で、レース上がりの34秒5より1秒6も速い(2位はキタウイングの33秒6)。これは、桜花賞を勝った馬がマークした上がりの史上最速タイ(2着以下を含めると、19年シゲルピンクダイヤの32秒7)で、もう1頭が14年の勝ち馬ハープスター。こちらもまた、騎乗していたのは川田騎手だった。

このコンビで思い出深いのが、2013年の阪神ジュベナイルフィリーズ。圧倒的1番人気に推されたハープスターは直線で馬群を割って追い込んできたものの、レッドリヴェールの前に、わずかハナ差及ばず2着と惜敗してしまった。

管理する松田博資調教師が、なぜ外を回さないのかと激怒したことは有名だが、その教訓が活かされたか、桜花賞では大外から驚異的な追い込みを決め、見事レッドリヴェールに雪辱。今回も、そのときの経験が活かされた気がしてならない。

それにしても、川田騎手のここ数年の活躍は尋常ではない。あくまで筆者の推測でしかないが、そのきっかけとなったのは、ラヴズオンリーユーで制した2021年のブリーダーズCフィリー&メアターフのように思う。

このとき、直線がわずか249mしかないデルマー競馬場でも、川田騎手はまるで焦ることなくパートナーを信頼。ゴール前で逃げ込みを図るマイシスターナットをものの見事に捕らえ、日本調教馬としては初となるブリーダーズC制覇の快挙を成し遂げた。

さらに、2022年には念願の全国リーディングに輝き、騎手大賞も受賞。そして、まだ記憶にも新しいドバイワールドCでも、序盤ついていけないかに見えたウシュバテソーロに寄り添い、信頼し、冷静でいれたからこそ最後に素晴らしい末脚を引き出して、日本調教馬としては2頭目となる同レース制覇を達成した。

そんな、名実ともにトップジョッキーとなった川田騎手でも、まだ巡り会っていないのが三冠馬。武豊騎手やルメール騎手、福永祐一元騎手ら、関西のトップジョッキーは同じ馬で三冠レースを勝利し、川田騎手も、後の三冠馬という意味ではオークスでジェンティルドンナに代打騎乗。勝利しているものの、不思議なことに三冠全戦を同じ馬で制した経験はない。

言うまでもなくリバティアイランドにはその可能性が十分にあり、この先、牝馬三冠が達成されたとき、川田騎手は凄みを増している現在よりも、さらに高いステージへと到達するのではないだろうか。

写真:RINOT

あなたにおすすめの記事