[連載・馬主は語る]Next time, Kids!(シーズン2-15)

エコロテッチャンの馬体重の上昇と共に、僕たちの士気もだだ上がりになったのも束の間、ハーベストカップには出走することができないことがレースの3日前に確定しました。思っていたよりも出走登録馬が多く、エコロテッチャンは補欠の2番目という扱いになってしまい、順番が回ってこなかったのです。僕たちだけで競馬をやっているわけではありませんし、ハーベストカップに出走したい馬たちはたくさんいるのですから、あと2頭回避してくれたらなんて願うことは野暮なのでしょう。そうは言っても、本音としては、何としても出たかったなあという悔しい気持ちで一杯です。

「Next time, Kids!」

上手く行かずに失敗してしまって辛いとき、僕は映画「ハスラー2」中のセリフを口ずさむことにしています。トム・クルーズ演じる主人公のヴィンセントが賭けビリヤードで騙されて、大金を巻き上げられてしまったあとの車中のシーンです。調子に乗りすぎて、冷静さを失ってしまったことを悔いて、後部座席で頭を抱えるヴィンセントに対し、ポール・ニューマンが演じるエディ(初代ハスラー)は、自らも同じような経験をしてきたので気持ちが痛いほど分かりつつも、負けを引きずって事態を深刻に捉えすぎても仕方ないので、楽観的に行こうぜという気持ちを込めて上の3語を発します。ヴィンセントもエディの意図をすぐに察し、ふたりは大きく笑い合う、とても素敵なワンシーンです。エコロテッチャンが調子の良い時期に、条件の合ったレースで走ることができない悔しさを抱えつつも、僕たちも次を目指すしかありません。

ただ、次といっても、歯車が一度噛み合わなくなると、競走馬のローテーションはとことん噛み合わなくなります。そもそもローテーションというのは最適な形でつくられているため、一旦そのレールから外れてしまうと、再び戻ってくるのはなかなか難しいのです。

9月13日のハーベストカップを除外されたエコロテッチャンは、翌週の自己条件の芝1600m戦に出走することになりました。個人的には、エコロテッチャンは芝のマイル戦はベストな距離だと思っているのですが、さすがに1000mのレースを2回続けて走ってきましたので、スタートしてから一気に突っ走るリズムがついてしまっていることは心配です。また、中間でカイ葉食いが落ちて、馬体を立て直しての緒戦だけに、スタミナ面で少し不安が残ります。不安材料の多いレースになりますが、弾丸娘のエコロテッチャンなら全てを跳ね返してくれる気もします。

そして、今回はまだしも、この先のローテーションが問題です。OROスプリントカップにも出走できなくなり、僕たちは目標を完全に失ってしまいました。盛岡開催が終われば、寒い時期は放牧に出してあげたいと考えていますので、何とか11月末までは走ってもらいたいところです。そこで次の目標として挙がってきたのは、10月23日に行われるダート1200m牝馬限定戦のヴィーナススプリントです。盛岡競馬場は芝のコースがあるので、芝路線が充実しているかといえば決してそうではなく、今回のように道を外れてしまうと芝を諦めてダートに軌道修正しなければならないほど、芝レースの選択肢がプア(貧しい)なのです。

さすがにオープン戦のダートで活躍しているような牡馬は、エコロテッチャンの2倍ぐらい体がありそうなゴツい馬ばかりですが、牝馬限定戦ならばまだましです。そうはいっても、ご覧のとおりエコロテッチャンは筋骨隆々のダート馬の馬体とは正反対のそれですから、純粋なスピードを生かすことができる芝の方が良いのは間違いありません。エコロテッチャンは調教でも速いタイムが出るタイプですから、決してダートが苦手というわけではなく、むしろダート戦でもスムーズに走れたらぶっちぎるぐらいのスピードを秘めています。ただそう上手く行かないのが実戦というもので、他馬と一緒に走ることで、ぶつけられたり、はさまれたり、自分のペースで走らせてもらえなかったりして、馬格のないテッチャンは消耗してしまうのです。

10月23日のヴィーナススプリントを目標にする以上、その前にもうひとつレースを使う必要があります。このあたりは中央競馬と感覚が違うところですが、地方競馬は月に2回程度はレースを走るペースでローテーションを組んでいきます。2週間に1回は走るということですね。それは出走手当の問題でもありますし、レースにおける消耗の違いという面もあるでしょうが、何よりも他の馬たちも同じようなサイクルで走っているとそれが基準というか普通になるということです。エコロテッチャンは目標がダート戦に切り替わったことで、ステップレースはダートを使うことにしました。芝のマイル戦→ダート戦→ヴィーナススプリント(ダート1200m)です。一度、ローテーションの階段を踏み外してしまうと、とんでもなく異なる路線に行かざるを得ないことがお分かりいただけるでしょう(笑)。これが岩手競馬の芝戦線の現実であり、いかに勝つべきところで勝って賞金を稼いでおくことが大切かを今回は教えてもらいました。

(次回へ続く→)

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