皐月賞馬の出走は6年ぶり、GⅠウイナーが2頭出走するのはグレード制導入以降初。話題満載となった、2023年のセントライト記念。他にも、ラジオNIKKEI賞の2、3着馬や、前走古馬を撃破して2勝クラスを突破した、いわゆる「夏の上がり馬」も複数出走。3日間開催を締めくくるに相応しい好メンバーが顔を揃えた。
それでも人気は2頭に集中。とりわけ、ソールオリエンスが単勝オッズ1.6倍と圧倒的な支持を集めた。
前走のダービーは2着と惜敗したものの、今回と同じ中山でおこなわれた京成杯と皐月賞で、素晴らしい末脚を披露した本馬。中でも、皐月賞はハイペースに乗じたとはいえ、重い馬場をものともせず4コーナー17番手からの追込み勝ち。レース史上最高レベルと言ってもよいパフォーマンスだった。父キタサンブラックは現役時にセントライト記念と菊花賞を連勝しており、同じ軌跡を辿っての二冠制覇へ、内容と結果、両方が問われる一戦だった。
これに続いたのがレーベンスティール。デビュー戦でソールオリエンスとクビ差の接戦を演じた本馬は、そこから3戦して2勝。さらに、重賞初挑戦となった前走のラジオNIKKEI賞でも3着に好走した。ただ、その前走は福島の短い直線でやや脚を余した格好。距離延長となる今回、皐月賞馬となったライバルに雪辱を果たし、重賞初制覇と菊花賞の優先出走権獲得なるか、注目を集めていた。
以下、リステッドすみれS勝ちの実績があり、母にGⅠ馬クイーンズリングを持つ良血シャザーン。GⅠのホープフルSで3着の実績があるキングズレイン。そのホープフルSを勝利したドゥラエレーデの順で人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、アームブランシュが僅かに出遅れたものの、ほぼ揃ったスタート。その中からハナを切ったのはドゥラエレーデで、ウィズユアドリームが2番手。コレオグラファーの外にグリューネグリーンがつけ、1馬身差でシルトホルンが続いてここまでが先団。そこから2馬身差の6番手にレーベンスティールとシャザーンが並び、ソールオリエンスはさらに5馬身差。後ろから5頭目に控えていた。
1000m通過は1分0秒1で、比較的ゆったりとした流れ。それでも、先頭から最後方のキングズレインまでは13、4馬身ほどの差で、やや縦長の隊列となった。
その後、勝負所の3、4コーナー中間で馬群は凝縮。最後方にいたキングズレインが内を突いて中団まで上昇し、4コーナーで全体はおよそ8馬身とほぼ一団。一方、ソールオリエンスは、外へ振られながらも前との差を懸命に詰めようとする中、直線勝負を迎えた。
直線に入っても、逃げるドゥラエレーデのリードは変わらず1馬身半。馬場の中央から勢いよく伸びてきたのがシャザーンとレーベンスティールで、もう一段ギアをあげたレーベンスティールが坂下で単独先頭に立ち、後続との差を開きにかかる。
焦点は2着争いとなり、坂の途中からようやくエンジン全開となったソールオリエンスがシャザーンを交わすも、前との差はそれ以上詰まらず、レーベンスティールがそのまま押し切って先頭ゴールイン。1馬身3/4差でソールオリエンスが続き、さらに1馬身1/4差3着にシャザーンが入った。
良馬場の勝ちタイムは2分11秒4。素晴らしい瞬発力を繰り出したレーベンスティールが重賞初制覇。デビュー戦以来、10ヶ月ぶりに再戦したソールオリエンスに雪辱を果たし、菊花賞の優先出走権を獲得した。
各馬短評
1着 レーベンスティール
道中は、中団やや前のインでじっと我慢。その後、外に持ち出されると、直線では素晴らしい瞬発力を繰り出し、やや消化不良となった前走からは一転して突き抜けた。
近年の菊花賞はディープインパクト産駒が圧倒的に強いものの、2023年は出走しない可能性が高い。そのため、本馬のようなリアルスティール産駒やキズナ産駒など、後継種牡馬の産駒に期待がかかる。また、リアルスティールは2015年の菊花賞でキタサンブラックにクビ差及ばず涙を呑んだだけに、7年越しのリベンジもかかっている。
2着 ソールオリエンス
遅い流れになったものの、後方からの競馬。さらに、4コーナーでやや外に振られてしまうなど、不利が重なった。
そのため、直線に向いたときは、勝ち負けはもちろん3着もひょっとすると……という位置だったが、最後の伸び脚はさすがの一言。坂の途中でエンジン全開になると、あっという間にシャザーンを交わし、勝ち馬には及ばなかったが、格好はつけた。
ただ、菊花賞は追込みが利きにくいレース。ダンスインザダークやソングオブウインドなど、かつては神がかり的な脚を繰り出して勝利した馬もいるが、それは例外。ダービーのときと同じように今度は位置を取りにいくはずで、大幅に距離延長となる次走でも再び末脚を繰り出せるか。そこが勝負の分かれ目となるだろう。
3着 シャザーン
レーベンスティールとほぼ同じ位置につけ、併せ馬のかたちで抜け出すも、決め手の差で敗れてしまった。
菊花賞出走は未定のようだが、京都でおこなわれる菊花賞は、キングカメハメハ系種牡馬の産駒にとってあまり相性が良くない。ただ、本馬の母父マンハッタンカフェは2001年の菊花賞馬。母クイーンズリングも京都のGⅠエリザベス女王杯を制しているため、適性はありそう。
管理する友道康夫調教師も、2017年から2019年の菊花賞で3年連続3着内馬を送り出しており、人気を落とすようであれば相手には加えたい。
レース総評
前半1000m通過が1分0秒1で、6ハロン目12秒5をはさみ、同後半が58秒8=2分11秒4と、やや後傾ラップ。データが残っている1986年以降のセントライト記念(中山開催に限定)で、今回の上がり34秒4を上回ったのは、2017年の34秒0だけ(1着ミッキースワロー)。このコースでは珍しい瞬発力勝負となった。
レーベンスティールの父はリアルスティールで、この世代が初年度産駒。重賞勝ちは、デイリー杯2歳Sを制したオールパルフェに次ぐ2頭目で2勝目。今のところ、産駒は大舞台で実績を残せていないものの素質馬は多く、自身のGⅠ初制覇が4歳春(2016年のドバイターフ)だったように、これからパフォーマンスをあげてくる可能性は高い。
一方、母トウカイライフはトウカイテイオーを父に持ち、母の父がリアルシャダイ。さらに母母父はターゴワイス(1992年の天皇賞(秋)を制したレッツゴーターキン。1983年の凱旋門賞馬オールアロングらの父)。昭和の終わりから平成初期にかけて日本競馬を彩った馬の名前が散りばめられた、オールドファンが泣いて喜びそうな血統。
とりわけ、リアルシャダイの長距離適性と底力は菊花賞で最後の一押しをもたらしそう。重要な役割を果たすかもしれない。
レーベンスティールに話を戻すと、キャロットファームの所有馬ではあるものの、日高町、広富牧場の生産馬。2021年のセプテンバーセールで、ノーザンファームが税込2,090万円で購入した。
また、半姉のルーチェデラヴィタは、2018年の北海道サマーセールでJRAが購入。2019年のブリーズアップセールにおいて税込1,512万円で落札された。
すると、早速6月9日の新馬戦を勝利。これが、キズナ産駒および同年デビューした新種牡馬の産駒のJRA初勝利に。さらに、続くコスモス賞も連勝するなど活躍し、通算24戦2勝の成績で2022年8月に引退。その後、ジェイエス繁殖馬セールに上場され、岡田スタッドが税込440万円で購入している。
三冠レース最後の菊花賞は、既存勢力と夏の上がり馬が激突する舞台。デビュー戦で一騎打ちを展開したレーベンスティールとソールオリエンスが、今回10ヶ月ぶりの再戦を果たしたことに運命めいたものを感じるが、それぞれの父リアルスティールとキタサンブラックも2012年生まれの同世代。両馬は、計6度対戦している。中でも、キタサンブラックが僅かクビ差リアルスティールに先着しGⅠ初制覇を成し遂げた2015年の菊花賞は、レース史上屈指の好勝負だった。
あれから8年。運命に導かれるように、互いの産駒が淀の舞台で三度決戦の時を迎えようとしている。9月24日に神戸新聞杯が控えているものの、このまま出走が叶えば、ともに上位人気は間違いないだろう。
同じ舞台で、8年越しのリベンジは成し遂げられるのか。それとも、皐月賞馬が返り討ちで二冠を達成するのか。はたまた、ダービー馬タスティエーラが間に割って入るのか。そして、タスティエーラの父サトノクラウンもまた、2012年生まれ世代である。
競馬が人々の心を惹きつけてやまないのは、こうした血統のドラマが連綿と受け継がれているからだろう。
写真:かぼす