史上初めてメルボルンCを制覇した女性騎手の半生。映画『ライド・ライク・ア・ガール』

『シービスケット』、『セクレタリアト/奇跡のサラブレッド』、『優駿 ORACION』。
数ある「競馬」をテーマにした名作映画に、また一本新しい名作が加わった。

「ライド・ライク・ア・ガール」。
2020年7月17日(金)公開の、オーストラリア映画だ。
女性騎手として初めてオーストラリアG1・メルボルンCを制覇したミシェル・ペインさんの半生を描く。

©2019 100 to 1 Films Pty Ltd

女性騎手ミシェル・ペインが栄冠を手にする奇跡の実話

10人兄弟の末っ子。
母は物心がつく前に他界。
兄弟は10人中8人が騎手になるという「競馬一族」。

──冒頭で語られる、この物語の主人公ミシェル・ペインさんの生い立ち。
まるで出来すぎた物語のようなドラマチックさを感じるが、この映画は「真実の物語」だ。

そして流れ始めた古いビデオテープの映像で、幼きペインさんは語った。
「騎手になりたい」
「メルボルンカップを勝利するような騎手に」
しかしそれを達成するには、非常に多くの困難を乗り越える必要があった。

©2019 100 to 1 Films Pty Ltd

そこには「女性騎手」であるがゆえの困難も多い。

時には家族にまで、笑いながら「女はメルボルンカップにでない」と言われる。
「隙間に入って負けたら女には技術がないと言われる」というのも、騎手をやっている家族から出た、厳しい現実を示す言葉。
一流のジョッキーを目指すにあたり、ミシェル・ペインさんはそうした女性差別的な社会とも戦うことになる。

ジョッキーになってからも、もちろんそうした困難は続く。
レース前に騎手控え室に入ろうとすると「君はあっちだ」「女は別室さ」と男性陣に指示をされるシーンが印象的だ。ちゃんとしたスペースを与えられている男性騎手と違い、女性騎手用の控え室は屋台の倉庫だったのだ。

そうした困難を前に、努力と挫折を重ねた彼女の生き様を、克明に描く。

馬に囲まれた大家族のストーリー

この映画のテーマとして感じるのは「競馬」「女性差別」と、もうひとつは「家族愛」だ。
オーストラリア競馬最高の栄冠とも言われるメルボルンカップを勝利するまでの道のりは、決して彼女1人のものではなかった。

そもそも、10人もの兄弟がいる大家族。アドバイスを受けることもあれば、称え合うこともあるし、さらには衝突もある。競馬関係者から「またペイン家か」「ギネスブック級だ」と言われるほどの競馬家族だからこそ、騎手業の楽しさと恐ろしさを何度も目の当たりにしてきた。落馬の恐ろしさ、生命の危険を伴う仕事、そして勝利することの難しさ──。
しかしより大きな壁と向き合う時、そばにいてくれるのは家族なのだと感じさせられる。

©2019 100 to 1 Films Pty Ltd
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競馬一家だけに、暮らしは馬と密接なものになっている。
重厚な家族愛のストーリーを引き立てるように、随所で馬が登場する。
海岸での調教シーンをはじめ、オーストラリアの雄大な自然を楽しめるシーンが盛り沢山だ。
そして家族が牧場から、バーから、家から、みんながレース中継を見守るその瞬間に「家族の絆」を強く感じさせられるのだ。

競馬ファンなら興奮するシーンの数々

劇中で「オーストラリア競馬の最高峰」とされているメルボルンカップ。
実際、オーストラリアでは「国を止めるレース」として親しまれる大一番だ。

ミシェル・ペインさんが勝利した2015年のメルボルンカップで1番人気馬は、日本のフェイムゲーム。
劇中でも名前が呼ばれるシーンが何度かあるので、ファンの方はお楽しみにしていただきたい。

そのほかにも「デットーリには勝てない」というセリフや、2017年に来日したこともあるケリン・マカヴォイ騎手の結婚式のシーンなどもあり、競馬ファンは思わずニヤリとすることだろう。

©2019 100 to 1 Films Pty Ltd

さらに2015年のメルボルンカップにはレーン騎手やモレイラ騎手、ボウマン騎手、ビュイック騎手、ムーア騎手、オドノヒュー騎手など、日本でもおなじみの騎手が多数参戦していた。出番はほとんどないが、レースで着ている勝負服は2015年当時と同じものなので、彼らの役をどんな俳優が演じているのかはチェック可能だ。

また、レースシーンもかなりの臨場感。
荒々しさをダイレクトに感じさせる演出に、まるで自分自身がレースに出ているかのような感覚になる。
調教のシーンなども含めて、様々な「オーストラリアの競馬」が楽しめる作品に仕上がっている。

公開は2020年7月17日(金)。

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