パンサラッサの引退式で颯爽と現れ『パンサラッサの歌』を披露した"アフロの人"。
競馬を愛し、音楽を愛する若きアーティストは、大観衆の前で何を感じたのか──。
今回は、今を時めくミュージシャンのブルーノ・ユウキさんにお話を伺ってきた。
きっかけは食事会での会話
「パンサラッサの引退式で歌わせていただけることになってからは、プレッシャーで口内炎だらけの日々でした。前日まで、変なニキビが出来ていたくらいです(笑)」
ブルーノさんに正式なオファーがあったのは、12月に入ってからのこと。
その吉報が舞い込んだ際には、思わず声をあげたという。電話を切って思い出したのは、約1年前の会話だった。
「以前、矢作先生とご飯を食べていた際に、真面目な話になったタイミングがあって。そこで矢作先生に『夢は?』と聞かれたので『競馬場で歌うことです』と即答しました。矢作先生もそれを受けて『そうだよな。俺は、パンサラッサを引退式ができるような馬にする。ブルーノも準備しておきなよ』と仰っていたのですが、まさか本当に実現するとは…」
以前からライブやイベントで「競馬場で歌いたい」と公言していたブルーノさん。
普段は「大きく見せようとして色々なことを考えてしまう」という一面もあるそうだが、矢作調教師から問われた瞬間、自分の内側から素直な台詞が飛び出した。そんな自分の行動を振り返り、「かなりお酒が入っていたのに即答できたのは、本当に心から思っていたからでしょうね」と笑う。
「あの時、夢を即答できてよかったなと思っています。妻にも言われました。本当に歌えるようになるとは思っていなかったんですが、それでも1年間頑張ってきました。(パンサラッサの元厩務員である)池田さんもとても喜んでくださって、頑張ってきた甲斐があったな、と。
『パンサラッサのために』と切り替えられた、父の一言
ブルーノさんは毎年12月に「父と朝から晩までWINSに行く」という恒例行事があるという。パンサラッサの引退式で歌うことも、そのタイミングで報告した。これほどの大観衆の前で歌うのは初めてであるブルーノさんが「これで、いろんな人に聴いてもらえるかも」と言うと、厳しい表情で言葉が返ってきたという。
「父が『自分のためじゃなく、パンサラッサのために歌うんじゃないの?。今後のことを考えて歌うのは聴いてくれる人にもパンサラッサにも失礼だ』と言ったんです。歌うのが決まってからは有頂天な日々でしたが、父に言われたことで『なるほど』と落ち着きました。舞い上がる気持ちがあったんでしょうね。それからは『パンサラッサのためにいつも通り歌えばいいんだな』と思えるようになりました。父に感謝ですね。まあ、当の本人は、その次の瞬間に負けた馬券の話に戻っていましたけど(笑)」
そんなブルーノさんが現地のリハーサルを行ったのは、年が明けて1月5日のこと。
音響などの確認を目的としたものだったが、かなり調整に苦戦した。
「JRAの職員さんに聞いても『中山競馬場で歌ったのは北島三郎さんくらいしか思いつかないですね』というレベルのレアケースらしく…。特にギターの弾き語りというのは初の試みで、調整のために色々な方にお世話になりました。歌うタイミングとカラオケがズレたりとか…。僕自身も、あんなに大きな会場は初めてだったため想像がつかなかったのでリハーサルがあって助かりました」
当日は10時くらいに競馬場に来たというブルーノさん。マイクスタンドやギターは自前とのことで、来賓室に向かうまでの道すがら、様々な視線を感じたという。ただ、集まるのは視線ばかり。「まだまだ"ブルーノさんですよね!?"と声をかけてくれる人はいませんね。あくまで"なんだ、あのデカい荷物を持ったアフロの奴は…"といった具合です」と笑う。
「最終レース前に係の方が呼びにきてくださるということで、それまでは割と自由に過ごしていました。途中、パンサラッサのグッズを買いにターフィーショップに向かった池田さんから連絡があったので迎えに行ったら、50人くらいの列ができていて…。さながら、池田さんの即席サイン会となっていました。職員の人も『サイン会、ここで中止しますー!』叫んでいましたね(笑)」
来賓席では、パンサラッサの生産者である木村さんと話していたブルーノさん。
牧場時代のパンサラッサは賢くておとなしい馬のイメージだったそうで「いつからやんちゃになったんだろうなぁ? 競走馬としての訓練を積んでいく間に本能が出てきたんだろうなぁ。まぁ、お母さんは気性の激しいタイプの馬だったから…」というセリフが印象に残った。
「今度は僕の歌で多くの人に知ってもらえるような馬が現れたら」
そして迎えた本番。
パンサラッサが奥で待機している状態で、大観衆の前に姿を現した。
「お客さんは、みんなパンサラッサを待っているわけです。そんな状況でパンサラッサよりも前に登場するというのは、怖かったですね。お客さんの近くを通るとき"なんだあいつ!?"となるだろうと思って、心の耳を閉じながら、なるべく目立たないようについて行きました。大観衆の前に立つイメージはしていたつもりだったのですが、実際にお客さんを目の当たりにすると、足がすくみましたね…」
ブルーノさんが自分を取り戻したのは、場内アナウンスが流れたタイミング。
「パンサラッサの歌の披露がございます」という紹介に対して、場内から笑いが起きた。
「その時の雰囲気を見て"あ、いけるな"と。あとは、幸せな気持ちで歌えました。コールアンドレスポンス(観客への呼びかけとその応答)をやるかどうか迷っていたんですが、場内の空気から手応えを感じたのでチャレンジしてみました。元々抱いていた"競馬場で歌う"という夢は、競馬場で僕ひとりが歌うというわけではなく、みんなで楽しく歌うイメージでしたから、そちらの夢も叶えてもらいましたね」
コールアンドレスポンス中にはスタンドから「知らないよー!」という温かなツッコミや笑いも起きた。ブルーノさんは、それが何より楽しかったという。特に2回目に歌った際に、多くの観客が一緒になって歌ってくれたことが心に残っていた。
「錯覚ではあるんですが、途中からはスタンドの人たちを物理的にも近く感じたんですよね。思わずマイクを外して、地声で叫んでしまったほどです。そして、その時が一番レスポンスを大きく感じました。緊張よりは楽しい、遠いというよりは一緒の部屋にいてワイワイやっているような雰囲気。暗くなって寒くなっても競馬場に残っていた人たちは、全員が『パンサラッサ、ありがとう!』と感じていたはずです。だからこそ、強い一体感があったんじゃないでしょうか」
夢のような時間を終えたブルーノさん。
ライブ後には、X(旧Twitter)やLINEの通知が鳴り止まなかった。
なかでも嬉しかったコメントは『本当にパンサラッサが好きじゃないと作れない』というもの。「パンサラッサへの想いが通い合っていたと思います。きっと他の馬じゃできなかったと思うくらいです。彼の個性的な魅力と、その個性を応援する人たちの絆ですね」と分析する。
「(盛り上がったのは)パンサラッサの歌は曲調が愉快だったから、それも後押しになったと思います。結果論ですが、バラードとかにしていなくてよかったですね(笑) 作曲時には、まさか引退式で歌わせていただけるとは思ってもいなかったですから…」
引退式のあと、北海道への見送りなど多忙を極めた矢作調教師とコミュニケーションをとる時間を作れなかったというブルーノさん。しばらくしてから「お疲れ様」と労いの電話があったという。その際、本当は2回目に歌うときにパンサラッサを馬場に残しておいて、一緒にいる時間を作りたかった…というサプライズが計画されていたことを知った。パンサラッサが暴れたため実現しなかったが、改めて矢作調教師の粋な計らいに感激したという。
「矢作先生のおかげでここまで来られました。同時に、引退式のあとに(パンサラッサの生産である)木村さんから『あそこまで盛り上がったのはブルーノさんだからだよ』とご連絡をいただいたように、手応えも感じた時間でした。パンサラッサのような馬とまた出会って、また色々な方に聴いていただいて…そして今度はもっと競馬界に貢献できるようになりたいですね。それこそ今はパンサラッサのおかげで僕を知ってもらえた状況ですが、今度は僕の歌で多くの人に知ってもらえるような馬が現れるようなレベルを目指したいです。僕の活動を僕だけのためにしてしまわないように、これからも精進していきます!」
ライブ情報
パンサラッサ引退式で一躍脚光を浴びたブルーノさんの次なるライブが近づいている。
東京ライブは配信チケットでの遠隔参加も可能なため、ぜひ多くの人にお集まりいただきたい。詳細は下記の通り。
第6回 馬歌賞
2月24日(土) ※SOLD OUT
東京・高円寺 Rinqride (なで厩 別館)
17:30開場 18:00開演
¥3,000+1d
※配信チケット↓¥1,000
https://brunoyuuki.base.shop/items/81837805
馬歌遠足2024
3月2日(土)
大阪・谷町九丁目 cafe&bar Legato
16:30開場 17:00開演
¥3,000+2d
上記2公演のご予約は、X(https://twitter.com/bruno_yuuki)DMまたは公式LINE(http://lin.ee/0Klj8Vn)に希望枚数をお送りください。
馬産地 LIVE TOUR 2024 春
5/16(木) 静内 KAVACH
5/18(土) 札幌 CLUB ANiMA
チケット販売中↓
https://tiget.net/events/297400(静内)
https://tiget.net/events/297401(札幌)
第7回 馬歌賞
6月15日(土) 東京・下北沢 ニュー風知空知
※詳細は後日お知らせ
写真:ありま(arima.)、ひょーどる