[重賞回顧]春の鬱憤を晴らす豪脚で突き抜けたアーバンシックが重賞初制覇~2024年・セントライト記念~

3日間開催を締めくくるセントライト記念は、3着までに菊花賞の優先出走権が与えられるトライアルレース。かつては本番で苦戦が目立ったものの、過去5年の成績は神戸新聞杯組を勝率、複勝率ともに上回り、2021年から2年連続優勝馬を送り出すなど、最も重要な前哨戦といっても過言ではない。

今回も、例年どおり春の既存勢力と新興勢力の対決が焦点となるも、人気を集めたのは春のクラシックに出走した馬たち。その中でコスモキュランダが1番人気に推された。

未勝利脱出までに4戦を要すも、弥生賞ディープインパクト記念をレースレコードで制したコスモキュランダは、皐月賞でもジャスティンミラノとタイム差なしの2着に好走。さらに、ダービーでは遅い流れを見越してレース中盤から動き6着に敗れたものの、しっかりと見せ場を作った。

今回はメンバー唯一の重賞勝ち馬で、GⅠでも2着と実績は最上位。2つ目のタイトル獲得が懸かっていた。

これに続いたのがアーバンシック。ホープフルS勝ち馬レガレイラとほぼ「同血」(父が同じで、母同士が全姉妹)のアーバンシックは、今季初戦の京成杯で後のダービー馬ダノンデサイルと接戦を演じ2着。3ヶ月の休養を挟んだ皐月賞でも4着と健闘した。

前走のダービーこそ展開が向かず11着に敗れたものの、中山の重賞で連対実績があるのは自身とコスモキュランダだけ。重賞初制覇と本番の出走権獲得なるか注目を集めていた。

そして、3番人気となったのがエコロヴァルツ。2歳オープンのコスモス賞を6馬身差で圧勝し、朝日杯フューチュリティSでも2着に好走するなど、早くから頭角を現わしていたエコロヴァルツは、今季3戦して3着内こそないものの、皐月賞は追い込んで7着。一転して逃げたダービーも8着と、掲示板にこそ載れなかったものの、決して悲観するような内容ではなかった。

父ブラックタイドの代表産駒キタサンブラックは、2015年の当レースと菊花賞を連勝。偉大な先輩に続くことができるか、注目を集めていた。

以下、GⅢのラジオNIKKEI賞で3着に好走したヤマニンアドホック。武豊騎手と初めてコンビを組む良血馬スティンガーグラスの順で、人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ややバラついたスタートも大きく出遅れた馬はいなかった。その中からエコロヴァルツがスッと先手を取り、ヤマニンアドホックがこれに続くも、1、2コーナー中間で先頭が入れ替わった。

3番手につけたのはタンゴバイラリンで、タガノデュード、エコロレイズと続いて、アーバンシックが6番手に位置。一方、コスモキュランダは中団8番手につけ、スティンガーグラスは後ろから2頭目に控えていた。

1000m通過は1分0秒5と遅く、それでも先頭から最後方のアスクハッピーモアまでは17、8馬身ほどの差。かなり縦長の隊列となった。

その後、残り1000mの標識を過ぎたところで、コスモキュランダやスティンガーグラスなど、中団以下に位置していた馬が上昇開始。さらに、4コーナーでもう一段階加速したコスモキュランダが3番手まで上がり、前10頭、後ろ4頭に集団が分かれる中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入るとすぐコスモキュランダがヤマニンアドホックに並びかけ、坂下で単独先頭に立つも、追ってきたアーバンシックが坂の途中から一気に加速。すると、残り50mで前を楽々と交わし、最後は1馬身3/4突き抜け1着でゴールイン。コスモキュランダが2着となり、2馬身1/2離れた3着にエコロヴァルツが続いた。

良馬場の勝ち時計は2分11秒6。春の中山で惜敗続きだったアーバンシックが、鬱憤を晴らすように突き抜け完勝。本番に向け視界良好といえる内容で、重賞初制覇を成し遂げた。

各馬短評

1着 アーバンシック

あまりスタートが得意ではなく、多頭数となった前3走はいずれも4コーナーを10番手以下で回って差し届かないレースが続き、今回も僅かに出遅れた。

それでも、好枠を生かして序盤から徐々に進出し6番手につけると、4コーナーで前が詰まりかけたものの、進路が開くと末脚一閃。最後は、着差以上の完勝だった。

京成杯や皐月賞と違い外回りを使うレースだったとはいえ、器用な競馬ができたことは収穫。

鞍上のクリストフ・ルメール騎手はレース後「距離が伸びても大丈夫」とコメントしており、本番が楽しみになった。

2着 コスモキュランダ

勝負所から捲りにかかる得意パターンも、内で脚を溜めた勝ち馬に目標にされた分、最後は先着を許した。

ただ、外を捲った距離損や先に動いた分の差もあり、勝てなかったことだけを除けば、秋初戦としては十分すぎる内容。父のアルアイン同様、3000mを克服できるか、瞬発力勝負になったときに対応できるか。このあたりが課題となるだろう。

3着 エコロヴァルツ

2番手追走から早目に前との差を詰めるも、エンジンがかかるまでに時間を要し、勢いがついた頃には勝負が決していた。

逆に、後方待機策から追い込みにかけたとしても朝日杯フューチュリティSのように届かないという結果になりそうで、なんとも難しいところ。よどみない流れになることが大前提で、コスモキュランダと同じく中団待機策から徐々にポジションを上げていくのがベストの戦法か。

レース総評

前半1000m通過が1分0秒5で、12秒2をはさみ、同後半58秒9と後傾ラップ=2分11秒6で決着した。

着順を見ると、1、2着以外、6着までは人気順に入線しており、ほぼ実力どおりの結果。また5、6着もそれぞれ2、1馬身とやや着差がつき、現時点では上位3頭、とりわけ上位2頭の実力は抜けており、新興勢力が台頭するまでには至らなかった。

勝ったアーバンシックはスワーヴリチャード産駒で、これが世代5頭目の重賞ウイナー。一方、二代母ランズエッジは、レガレイラだけでなく桜花賞馬ステレンボッシュの二代母で、ブラックタイド、ディープインパクト兄弟の半妹。さらに、2017年のダービー馬レイデオロも同じ一族という、名門一族の出身である。

管理する武井亮調教師によると、本当にわがままだったのが、ダービーで2歳馬くらい、現在は3歳馬との中間で、精神面は着実に成長しているそう。もし、次走が菊花賞であれば800mの距離延長となるため、さらなる成長が必要になるものの、暑さが得意ではなく状態面ではまだ上があるとのこと。また、今回は抜け出してから少しフワフワしていたそうで、余裕たっぷりの勝ち方だけに本番でも期待が膨らむ。

一方、敗れた馬の中で触れておきたいのが4着のヤマニンアドホック。こちらは先行して長く良い脚を使うタイプで、父ノヴェリストに母父ダイワメジャーと、決して派手な血統ではない。

あと僅かのところで出走権を獲得できず、菊花賞出走は極めて厳しい状況となったが、この馬が能力全開となるのは、おそらく小回りや直線が短いコースの1800mから2200mだろう。

今回こそ4着に敗れたものの、過去5戦すべて3着内と堅実でありながらいずれも4番人気以下と、人気以上の走り。次走が自己条件の2勝クラスだと、さすがに人気上位は避けられないものの、この先、再び重賞に出走してきた際は、そこまで人気にならなさそう。今後の動向を注意深く見守りたい。

写真:shin 1

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