[アイドルホース列伝]川崎競馬場で目撃した、2024年の日本ダービー(朱鷺野真一郎さん)

2024年9月25日に発売開始した競馬書籍『アイドルホース列伝 超 1949ー2024』(星海社新書)。
昭和の名馬から現役の名馬まで156頭が紹介される一冊で、リバティアイランドやドウデュースといった現役馬、クロフネやヒシミラクルといったゼロ年代の名馬、シンザンやスピードシンボリといった昭和の名馬など1949年〜2024年の長期にわたる名馬たちが取り上げられる。

今回は、その著者の一人である朱鷺野真一郎さんに、川崎競馬場で観戦した2024年の日本ダービーを振り返っていただいた。※本記事は『アイドルホース列伝 超 1949ー2024』には収録されていないオリジナル原稿となります


とある休日、私は川崎駅を出て、徒歩10分の道のりを歩いていた。
川崎競馬場の開放日を利用して、日本ダービーを観戦しようとしていたのだ。
しかしその道中、ダービー出走予定の1頭が頭から離れなかった。

皐月賞を競走除外となった、ダノンデサイルである。

皐月賞の際はスタート直前に競走除外となり、心にポッカリと穴が空くような思いをした。
…と同時に、出走回避は英断だったはずだ、と納得もしていた。
さらには、結果的にもプラスになったはずだ、と。

結果的に──と言うのは、その皐月賞のペースによるもの。
先頭のメイショウタバルが1000mを57秒と、パンサラッサも真っ青のハイペースで逃げた。
後方集団も、そこそこのペースでメイショウタバルを追いかける。
結果、皐月賞はジャスティンミラノがレコードを更新する走りを見せたのだった。

皐月賞を見ていた私は、レース後に思わず肝が冷えた。

「ダノンデサイルが出走を強行したら、このハイペースに巻き込まれていたのでは?」

あの皐月賞をそれから何度も振り返ったが、私は「あの出走回避は、正解だったのだろう」と結論付けていた。

──川崎競馬場に到着し、場内をブラブラと散策したが、やはりダノンデサイルの事が頭から離れない。
もう私にとって、ダノンデサイルは『気になるあの子』になっていたのだ。言い換えると、自分にとっての『アイドル』である。

皐月賞は彼を応援したのだから、今日も応援しよう。
川崎競馬のドリームビジョンの前で、どっしりと芝生に腰をおろし、ダービーのスタートを、今か今かと待つ。

そしてその時間がやってくる
東京競馬場でゲートが開き、川崎競馬場のドリームビジョンにもレースが投影される。
私も集中して観戦していたつもりだったが、1000mを通過した辺りで、ダノンデサイルを見失っていた。

府中の最終直線が近づいていると言うのに、推しを見失った私は、アタフタとしていた。
その時だった──。

「ノリさん! ノリさんがインから来た!」

川崎競馬にファンの声が響き渡った。それを頼りに内埒に目をやると、馬群の中から、ニュッとダノンデサイルが現れる。
横山典騎手は、馬群の最内で静かに息を潜め、進出の機会を伺っていたのだろう。

ゴールが近づいてくる。ダノンデサイルは最内からエコロヴァルツをスルスルッと抜き去り、先頭集団に食いつく。
いや、一気に抜き去る。そして先頭に出る。
最終直線でのダノンデサイルの走りっぷりに、私は魅了されていた。

残り100mを切り、ゴールは目の前。
2番手のジャスティンミラノに2馬身差を着け、彼は先頭でゴール板を駆け抜ける。
ダービー馬、ダノンデサイル誕生の瞬間だ。

川崎競馬場も盛り上がっていた。
予想があたったのか、ダノンデサイルのファンなのか、鞍上・横山典騎手のファンなのか──一緒に見に来ていた仲間三人で肩を組み喜ぶ人や、両手でガッツポーズをしている人がいた。その顔は晴れやかだった。

応援した馬が勝つ…これ程うれしい事はない。
勝利後の、インタビュー。3度目のダービージョッキーとなった横山典騎手は、皐月賞の出走回避を振り返り、こう答えた。

「皐月賞のあの時の決断は、間違っていなかった」

さらに横山典騎手は、こう続ける。

「ああいう事があっても、ちゃんと大事にしていれば、馬は応えてくれる」

ベテランに愛され、導かれたダービー馬、ダノンデサイル。
彼は多くのファンの夢を、叶えたのだった。


永遠に色褪せない名馬たちの記憶を綴った新書

無傷の10連勝でダービーを制し、その17日後に急死した「幻の馬」トキノミノルから70余年。

父譲りの美しい栗毛をなびかせ大レースに挑み続けたナリタトップロード、人気薄から何度も勝利を重ねた"奇跡"のステイヤー・ヒシミラクル、爆発的な末脚で二冠を達成して引退すると、わずか5年の種牡馬生活で活躍馬を輩出、早すぎる死が惜しまれるドゥラメンテ、世界ランク1位を獲得した新時代の史上最強馬イクイノックス、名手との絆で不運と挫折を乗り越えた現役トップのドウデュースなど。

昭和の名馬から現役世代まで、時代を超えて愛される156頭の名馬たちの蹄跡をこの1冊に!

書籍名アイドルホース列伝 超 1949ー2024
著者名著・編:小川隆行+ウマフリ
発売日2024年09月25日
価格定価:1,350円(税別)
ページ数320ページ
シリーズ星海社新書

紙面構成 - ドウデュースにリバティアイランド、メロディーレーンにキズナにドゥラメンテ。昭和の名馬シンザン・トキノミノルから現代の名馬まで156頭を紹介

第1章 その走りが伝説になる 2020年代

パンサラッサ 比類なき大逃走、二刀流の国際GⅠ馬
イクイノックス 三冠牝馬すら寄せ付けない衝撃の歴代最強馬
ドウデュース 夢に照らされる、競馬の「主人公」
ミックファイア 期待を背にひた走る、22年ぶりの南関三冠馬 
リバティアイランド 一体どれほど強いのか、完全無欠の三冠牝馬 など25頭

第2章 忘れたくないあのときの夢 2010年代

ヴィクトワールピサ 勇気を与える胴白、青縦縞、袖赤、青一本輪
キズナ 逆境に打ち勝つ希望の末脚 
モーリス 落札価格は約160万円、砂漠で見つけた宝石
ドゥラメンテ “d u r a m e n t e” に走りぬけた、早逝の二冠馬 
メロディーレーン 小さな体に満つ、父母のくれたスタミナ など42頭

第3章 色褪せない新時代の記憶 2000年代

クロフネ 日本競馬の眠りをさました白い〝黒船〟 
ヒシミラクル 駆けだしたら決して止まらない穴馬ステイヤー 
ネオユニヴァース 熱いハートとクレバーな頭脳、魅惑の二冠馬 
スティルインラブ 勝負強さと反骨心で手にした17年ぶりの偉業
ドリームジャーニー 父の血を感じる、愛すべき不器用なアイドル など35頭

第4章 黄金時代のスターたち 1990年代

ダイイチルビー 1頭に焦がれた、輝けるお嬢様
ヤマニンゼファー 良い意味で期待を裏切り続けた不屈の挑戦者 
サクラローレル 度重なる故障を乗り越え摑んだ年度代表馬 
メイセイオペラ 史上唯一、中央GⅠを制した岩手の伝説的王者
ナリタトップロード 強豪相手に惜敗続きも人に愛された実力派 など28頭

第5章 遙かなる伝説の蹄音 昭和の名馬

トキノミノル 「幻の馬」の記録が伝える凄み
シンザン 類稀なる生命力を示した、伝説の三冠馬
カブトシロー 69戦を走り抜いた古武士は小柄な万能タイプ
スピードシンボリ 未踏の地を求め続けた偉大なチャレンジャー など26頭

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