特別登録の段階からフルゲート割れとなった2024年の秋華賞。その後2頭が回避し、最終的に15頭がゲートインの時を迎えた。
グレード制が導入された1984年以降、15頭で争われた3歳限定GⅠは、わずか4レース。いずれも皐月賞か菊花賞で、3歳牝馬の限定GⅠとしては最も少ない頭数となった。それでも、春のクラシックを制した2頭を筆頭に、トライアルの勝ち馬や上位入着馬が数多く出走。15頭立てでもメンバーレベルが低いということはまるでなかった。ただ、人気に関しては大方の予想どおり3頭に集まり、その中でチェルヴィニアが1番人気に推された。
この世代で最もレベルが高いとされた新馬戦で2着に惜敗するも、未勝利戦とアルテミスSを連勝したチェルヴィニア。5ヶ月半の休み明けとなった桜花賞こそ13着と崩れたものの、続くオークスはレース史上最高レベルの巻き返しで見事に勝利した。
今回もおよそ5ヶ月の休養明けとはいえ、近年の秋華賞で結果を出しているのは、むしろオークスからの直行組。二冠制覇が期待されていた。
僅かの差で2番人気となったのがステレンボッシュ。阪神ジュベナイルフィリーズで2着に惜敗するも、世代トップクラスの実力を証明したステレンボッシュは、その時、先着を許したアスコリピチェーノに雪辱する形で桜花賞を快勝。オークスでも接戦の2着と好走した。
こちらもオークスからの直行で、デビュー以来6戦すべて連対と安定感抜群。同じく二冠制覇が懸かっていた。
そして、これら2頭に続いたのがクイーンズウォーク。半兄にGⅠ馬グレナディアガーズがいる良血のクイーンズウォークは、未勝利戦とクイーンSを連勝。その後、桜花賞は8着、オークスは4着と敗れるも、秋初戦のローズSを完勝し、2つ目のタイトルを獲得した。
主戦の川田将雅騎手、管理する中内田充正調教師、所有するサンデーレーシングは、2023年に牝馬三冠を達成したリバティアイランドと同じ。自身は念願のGⅠ制覇、チームとしては連覇が懸かる一戦だった。
以下、紫苑S2着のミアネーロ。同3着で、チェルヴィニアにデビュー戦で勝利した実績があるボンドガールの順で人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、つまずいたクイーンズウォークが後方からの競馬。ステレンボッシュも僅かに出遅れてしまった。
一方、前は予想どおりセキトバイーストが逃げ、2番手にクリスマスパレード。以下、タガノエルピーダ、ラヴァンダ、コガネノソラと続き、チェルヴィニアは、アドマイヤベルとランスオブクイーンを挟んだちょうど中団8番手に位置していた。
これに対し、出遅れを挽回したステレンボッシュはチェルヴィニアの2馬身後方につけ、同馬をマークするような格好でミアネーロと併走。そして、出遅れたクイーンズウォークは800m通過地点から一気にポジションを上げ、最終的にチェルヴィニアとステレンボッシュの間に収まった。
逃げ争いが決着した後もペースを落とさなかったセキトバイーストは、1000mを57秒1で通過。2番手クリスマスパレードとの差は13、4馬身あり、そこから3番手のタガノエルピーダまでが、さらに8馬身。離れた最後方を追走していたラビットアイと先頭までは70m近い差があった。
その後、3、4コーナー中間を過ぎたところでようやく前がペースダウンし、後続はスパートを開始。すると、全体は18馬身ほどに凝縮したものの、セキトバイーストは2番手に5馬身ほどの差をつけ直線勝負を迎えた。
直線に入るとすぐ、クリスマスパレードとタガノエルピーダが一気に差を詰め、残り200mで先頭に立った。ところが、それも束の間。馬場の中央から鋭い決め手を発揮したチェルヴィニアがこれら2頭を並ぶ間もなく交わすと、内に進路を見出したステレンボッシュ、大外から素晴らしい末脚を繰り出したボンドガールを引き連れるように1着でゴールイン。1馬身3/4差でボンドガールが2着となり、1/2馬身差でステレンボッシュが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分57秒1。懸念された右回りや休み明けをものともしなかったチェルヴィニアがオークスに続いてGⅠ連勝。二冠を達成した。
各馬短評
1着 チェルヴィニア
ちょうど中団を追走するも勝負所で進路がなく、前との差をあまり詰めることができなかった。
しかし、そこからがクリストフ・ルメール騎手の真骨頂で、落ち着いて追い出しを開始すると、馬もそれに応えて一瞬で加速。直線半ば、再び前が詰まりそうになる場面はあったものの、僅かなスペースを見逃さずに突き、一気に勝負を決めた。
同じく右回りで関西へ遠征となった桜花賞こそ大敗を喫したが、当時はルメール騎手が負傷療養中で騎乗できず、18頭立ての18番枠を引いてしまうなど不運も重なった。そのため、再びの遠征や右回りが懸念されたが、難なくこなし完勝。次走はジャパンCを視野に入れているとのことで、メンバーレベルは一気に上がるものの、得意の左回りで直線が長いコースだけに、古馬相手でも好走が期待される。
2着 ボンドガール
超高速馬場で先行勢が止まらず、3着に敗れた前走は展開不利。それでも、2走前から実践しはじめた後方待機策がしっかりと板につき、またしても栄光には手が届かなかったものの、上がり最速で追い込み2着を確保した。
皐月賞を制した父ダイワメジャーが、3歳時に喘鳴症を患っていたとはいえ、その後もう一段階成長したのが5歳秋。ボンドガール自身も、デビュー戦でチェルヴィニアに勝利するなど、早い時期から世代トップクラスの実力を示しており、さらにもう一つ上のレベルへいくだけの成長力が備わっていれば、マイル前後の距離でトップに立つ可能性はある。
3着 ステレンボッシュ
僅かに出遅れたことで道中はオークスと逆の並びになり、チェルヴィニアの2馬身後方に位置。しかし、そのチェルヴィニアと同じく勝負所で前が詰まり、直線に入ってもしばらく進路がなく、追えたのは正味200mほど。負けて強しの内容だった。
これまで、エピファネイア産駒特有の気難しさを見せる場面はほとんどなく、折り合いに関しては今回もスムーズ。ただ、僅かではあってもスタートの出遅れが今後クセにならないか。重箱の隅をつつくようなことだが、それさえクリアすれば、たとえGⅠで牡馬相手でも好勝負する可能性は十分にある。
レース総評
1000m通過は57秒1のハイペースも、2番手のクリスマスパレードは、そこからおよそ2秒差。チェルヴィニアは、さらにそこから1秒近く後方を追走していた。
勝ちタイムの1分57秒1から逆算すると、チェルヴィニアは後半1000mを57秒前後で走破していることになり、瞬発力はもちろん持久力も問われるレースとなった。
内回りの京都芝2000mでおこなわれる秋華賞。レース後、ルメール騎手も語っていたとおりトリッキーなコース形態ではあるものの、秋華賞に関しては差し、追込みが利きやすい。阪神でおこなわれた2021、22年を除けば、三冠達成が叶わなかった二冠馬はブエナビスタだけである。
また、戦後、ダービーと菊花賞の二冠を達成したのがタケホープだけなのに対し(三冠馬を除く。他、戦時中の1943年に牝馬クリフジが達成)、オークスと秋華賞の二冠達成は、今回のチェルヴィニアで5頭目と多い。
同馬がこれまで大敗を喫したのは、休み明けで関西遠征、かつ右回りの桜花賞だけだが、今回も同じく関西への遠征で右回りの競馬。得意の東京とは真逆といってもよいコース形態で、それらの課題を克服できるかが焦点だった。
しかし、そんな心配をよそに、チェルヴィニアとルメール騎手は盤石の競馬で完勝。勝負所や直線半ばで前が詰まる不利がなければ、さらに着差は広がっていただろう。
そのチェルヴィニアは、ハービンジャーの産駒。改装前も後もハービンジャー産駒は京都芝2000mが得意で、2017年の秋華賞ではディアドラが1着、モズカッチャンが3着と好走している。
一方、母チェッキーノは現役時、2016年のフローラSを勝利し、オークスでも2着に好走。同馬の2代母ハッピートレイルズを祖とする一族からは、1993年のマイルCSを制したシンコウラブリイをはじめ、これまで10頭以上のJRA重賞勝ち馬が誕生するなど日本を代表する名牝系で、チェルヴィニアはもちろん、その半兄で2023年の新潟記念を制したノッキングポイントも含まれている。
また、チェルヴィニアと同じ父ハービンジャー×母父キングカメハメハの組み合わせは成功パターンで、ブラストワンピースとモズカッチャンがGⅠを勝利し、ローシャムパークも2024年の大阪杯で2着と好走。ちなみに、このレースを制したベラジオオペラは、母父がハービンジャーで、2代父はキングカメハメハという組み合わせ。間違いなく、相性の良い配合(ニックス)といえる。
前述したとおり、チェルヴィニアの今後について、所有するサンデーレーシングの吉田俊介代表から、次走はジャパンCを目標にすることが明かされている。そうなれば強豪古馬が相手となり、これまでより大幅にメンバーレベルは上がるものの、東京芝2400mはオークスを制した得意舞台。ひと夏を越して成長した部分が今回のレースの至るところに現われており、1ヶ月後、秋晴れの府中で3つ目のティアラを手にし掲げることができるか。壮大な挑戦の行方を、しっかりと見守りたい。
写真:@nanashi_keiba_7