[連載・馬主は語る]ストームキャットの血を借りる(シーズン3-22)

日本軽種馬協会(JBBA)から届いた、「JBBA種牡馬配合取りまとめについて」という書類を慈さんからもらいました。日本軽種馬協会は、どこのスタリオンよりも来年度の取りまとめが早く、11月6日までにどの繁殖牝馬にどの種牡馬を配合したいかという配合申込書を提出しなければいけません。慈さんは「うちは配合の予定はないので」とのんびり構えていましたが、僕の中ではカラヴァッジオが候補の1頭に挙がっていましたので、締め切りが迫っているということになります。

書類を良く読んでみると、来年度から種付け料の支払いの時期が変わったようで、これまでの殿様商売的な前払いから、受胎確認後の支払いになっているではありませんか!これは朗報です。受胎確認後となればずいぶんお金の流れが良くなります。申し込みをしておいて、タイミングが合わなかったり、受胎率が悪かったりすれば、種付けをすることなくお金を払うこともないのです。前払いしているという、変なプレッシャーはなくなるということです。

その分、予約も増えるはずですから、審査に通るかどうかも難しくなるかもしれません(日本軽種馬協会は先着順ではなく、配合申込み頭数が配合頭数を超えた場合、選定が行われます)。誰でも彼でも種付けしてもらえる、というわけではないのです。

日本軽種馬協会からの今年の新種牡馬として、シャープアステカがカタログと共に紹介されていました。パッと馬体を見た感じ、前後のバランスも良く、それほどゴツさはありません。アメリカのダート馬らしからぬ、まさに名は体を表すということで、シャープな体つきをしているではないですか。馬体を見るだけで、軽快なスピードを武器として現役時代は活躍しただろうことが想像されます。

実際のレース振りを、映像をとおして観てみると、思ったとおりの優れた先行力で逃げ、もしくは外の2、3番手を奪い、そのまま粘り込みを図るという、アメリカ競馬にマッチした走りをしています。後ろから脚を伸ばす競馬をしていたウィルテイクチャージやオナーコードは前半のスピードが心配なのに対し、シャープアステカはスタートから一気にトップスピードに達する素早さがあって、種牡馬としてはより安定感がありそうです。

さらにシャープアステカは、すでにアメリカの残してきた産駒たちが活躍し、2歳リーディング(しかも新種牡馬の初年度産駒2歳リーディングではなく全体としての2歳リーディング!)に輝いているぐらいですから、現代競馬で求められている早熟性も伝えていることになります。しかも種付け料が150万円ということで、ずいぶんと割安感がありますね。

なぜ2歳リーディングを獲るような種牡馬を日本に導入できたのか(父はマイナーで母系もブラックタイプが薄い血統背景だからでしょうか)、種付け料も安すぎて半信半疑な気持ちはありますが、食指が動きそうになる種牡馬がまた1頭登場したことは間違いありません。

もうひとつ、シャープアステカが種牡馬として良いと思った点は、ストームキャット系であることです。父フロイドは無名ですが全兄がジャイアンツコーズウェイであり、シャープアステカは現役時代の走りを観る限り、祖父ストームキャットからスピードとパワーを受け継いで、ストームキャットらしさが前面に出ている馬という印象を受けました。

今さらストームキャットが素晴らしいということが言いたいわけではなく、これからもストームキャットの血は日本の競馬にますます必要とされていくのではと考えています。日本競馬の馬場が整備され、高速化されていくにつれて、競走馬の大型化・スピード化は進み、特にストームキャットの血は馬体の大きさとスピードの両方を同時に分かりやすく伝えることができるのです。

東京に戻ってしばらく考えてから、今年は日本軽種馬協会への申し込みはしないことを決めました。カラヴァッジオはやはり受胎率の問題が心配で、シャープアステカは種牡馬としての未来には期待しつつも、まだ無名で売りにくいという理由で、今回はやめておくことにしました。とはいえ、そろそろ来年度の種付けの予約も始まりますから、種牡馬の候補を絞り込まなければいけません。

丸1年間、考え続けた挙句、ダートムーアとスパツィアーレに足りないのはスピードであるという結論に至りました。先日、盛岡競馬場にて上手獣医師と話したとき、「遺伝の性質上、スピード因子は劣化しやすい」という主旨の話をされていましたし、大狩部牧場の下村社長もスピードの血を入れていくことの重要性をYouTubeにて熱く語っていました。生産・育成・競走の世界の真ん中にいるプレイヤーたちにとって、現代の日本競馬においてスピードが足りない=走らないということを痛感しているのでしょう。

ダートムーアは母の父にスピード豊富なクロフネが入っていますが、母系はダイナカールからバロクサイドに至る欧州の血統であり、純粋なスピード持続競馬には対応できなくなりつつあるはずです。スパツィアーレはステラマドリッド牝系ではありますが、ハーツクライとシンボリクリスエスという重厚な血が重ねられてきており、スピードが劣化してきても不思議ではありません。どちらにもストームキャットの血を入れて、スピードを補強したいと思います。

4代前や5代前にいるよりも、せめて3代目にストームキャットがいる種牡馬を探すと、日本では母の父にストームキャットを持つ種牡馬が何頭かいます。その筆頭はロードカナロアでありキズナであり、その他、リアルスティール、ダノンキングリー、サトノアラジン、ダノンレジェンドなどが挙げられます。どの種牡馬もストームキャット譲りのパワーとスピードを存分に産駒に伝えているように、ストームキャットは3代を経ても影響力を及ぼしていることが分かりますね。

さすがに種付け料が高額なロードカナロアとキズナは対象外として、リアルスティール以下は候補として面白いのではないでしょうか。それらの中でも、ダノンキングリーとダノンレジェンドの異父兄弟は小柄で、産駒も小さく出てしまう心配があるため、馬格の大きいスパツィアーレに限って配合してみたい種牡馬です。そうなると、ダートムーアにはリアルスティールかサトノアラジンということになりますが、ダートムーアは背が高いタイプなので、横幅の出やすいリアルスティールの方が良さそう(サトノアラジンは背が高い)。実績的にも、リアルスティールはレーベンスティールなどの大物も誕生しており(この頃はまだフォーエバーヤングは世に出てきていませんでした)、種牡馬としての未来は明るいはずです。

ダートムーアにはリアルスティールを第一候補として、スパツィアーレにはダノンキングリーかダノンレジェンドを配合していくことで、ストームキャットの血を借りて、中央の芝のレースでも活躍できるようなスピード豊富な産駒を誕生させることができるのではないでしょうか。架空血統表に当てはめてみると、ダートムーア×リアルスティールはノーザンダンサーの5×5があるのみで、サンデーサイレンスやヘイルトゥリーズンの血も薄いです。

スパツィアーレ×ダノンキングリーは、サンデーサイレンスの3×4のインクロスになりますが、ノーザンダンサーとヘイルトゥリーズンの血のバランスも悪くなく、スピードを補う配合になっています。産駒は芝も走れるスピードがありそうです。

スパツィアーレ×ダノンレジェンドは、5代目までインクロスが1本も存在せず、完全なアウトクロスであることにまず好感が持てます。産駒はダートで走ることは間違いなく、スピード負けすることもなさそうです。ダノンレジェンドはヒムヤー系の希少な血を継ぐ役割も担っており、もしスパツィアーレ×ダノンレジェンドが走って、種牡馬になるようなことがあればといった夢も広がりますね。

(次回へ続く→)

あなたにおすすめの記事