大魔神の愛が生み出した偉大な馬。シュヴァルグランが勝利した2017年のジャパンカップを振り返る
■馬主という大きな存在

競馬を予想する際に、馬主を予想の根拠とする手法はあまり聞いたことがない。筆者も馬柱で馬主の名前には目を通すが、それを予想にまで絡めるかというと、そうでもない。しかし、馬主といえば競馬において非常に重要な存在である。

馬主は競走馬のオーナーであり、馬の購入、育成、調教師や厩舎への預託、レースの出走決定など、多岐にわたる役割を担っている。馬主の存在によって競馬産業は成り立っており、それこそ馬主からの投資が優秀な競走馬の誕生と育成に繋がっている。

競馬界において、著名人が馬主として参加することはファンにとって大きな話題となる。著名人が所有する競走馬は多くの注目を集め、しばしば特別な意味やエピソードを持つことが多い。そんな中でも重賞、GIまで制する馬主となった例は少ない。ましてGIの中でも最高峰と呼べる国際GIジャパンカップを有名人馬主の馬が制することがあればとんでもないことであると、2016年までは思っていた。

ところが演歌会の大御所である北島三郎氏が所有するキタサンブラックが2016年のジャパンカップを勝利し、その思い込みは払拭された。そしてさらに翌年、もう1人の有名人馬主の馬がその連覇を阻む存在になるとは夢にも思わなかった。

それが元プロ野球選手の佐々木主浩氏が所有するシュヴァルグランだ。

クラブ馬主の馬が大きなレースを制するのが当たり前と言っても過言ではない時代に突入している。個人馬主が──しかも誰もが知っている北島三郎氏や佐々木主浩氏の馬が、G1戦線で活躍している時代は今思うと非常に特別であり、振り返ると競馬の舞台で面白いドラマが展開されていたと感じる。

■大魔神によるハルーワスウィートへの愛

筆者の野球知識はかなり乏しいが、それでも彼が押さえ投手として一時代を築き、「大魔神」という愛称で呼ばれ名を馳せた名手であることは知っていた。

「アドマイヤ」の馬主としてお馴染みの近藤利一氏からの勧めでJRAの馬主となり、アドマイヤマジンを共有で所有し馬主デビューした際は、大きな話題となったのをよく覚えている。

その後、マジンプロスパーが重賞勝利し、ついにはヴィルシーナでヴィクトリアマイルを2連覇する等、馬主としても成功者としての地位を築きつつあった。

さて、そんな佐々木主浩氏だがハルーワスウィートという牝馬を現役時代から好きな馬としてインタビュー等で挙げている。同馬は生まれつき尻尾がないというハンデを背負った馬だったが、それでも5勝を挙げた頑張り屋さんで、佐々木氏はその産駒を全て欲しいと語っていた。

ハルーワスウィートはすでに繁殖牝馬を引退していることから、結果として全ての産駒を佐々木氏が所有したことになる。そのハルーワスウィートから2番仔のヴィルシーナがヴィクトリアマイルを連覇(2013年、2014年)、5番仔ヴィブロスが秋華賞(2016年)やドバイターフ(2017年)を制覇する等など活躍。一方で4番仔シュヴァルグランも重賞戦線で実績を積み、G1まであと一歩の位置にまで成長していた。

2014年ヴィクトリアマイルを承知したヴィルシーナ
■最強を決めるにふさわしい舞台となったジャパンカップ

1981年に創設されたジャパンカップと言えば、日本初の国際GIとしてその地位を確立しているが、2005年のアルカセットを最後に外国馬の勝利がない(2024年ジャパンカップ終了までの時点)。2017年時点もその真っ只中にあり、その年も4頭の外国馬の出走があったものの、いずれも伏兵扱いの評価だった。

一方で日本馬は当時のトップ級の馬が揃っており、中でも最有力視されていたのが先述のキタサンブラック(オーナー:北島三郎氏)であった。前年のジャパンカップで逃げ切り圧勝しただけでなく、年が明けてからも大阪杯、天皇賞・春を勝利、さらには前走悪天候下の天皇賞・秋では出遅れながらも道中早め進出で押し切る新たな強さをみせており、弱点はもはやないだろうと見られていた。鞍上にはもちろん武豊騎手。

しかし一強の様相かといえばそうでもなく、新興勢力にはその年のダービー馬でありさらに神戸新聞杯も圧勝、そして菊花賞でも天皇賞・秋でもなくジャパンカップに照準を合わせてきていたのがレイデオロだった。鞍上にはルメール騎手で、2番人気。 さらには宝塚記念でキタサンブラックを破り、天皇賞・秋では僅差の2着に敗れていたが、十分に逆転の目があるとみられていたサトノクラウンとMデムーロ騎手が3番人気だった。さらに春にオークスを制し、毎日王冠と天皇賞・秋では着順が大きくなっていたものの、53キロの恵量でオークスと同じ芝2400mで良馬場になれば復活が期待されるソウルスターリングに騎乗するCデムーロ騎手が4番人気。

前年のジャパンカップ3着や天皇賞・春2着などの実績はあったものの、前走京都大賞典で3着に敗れたりとやや物足りなさのあったシュヴァルグランは、5番人気だった。

鞍上にはオーストラリア出身で香港ではワーザーとのコンビで香港ダービーやクイーンエリザベス2世C等を制し、オーストラリアではウィンクスとのコンビでG125勝を達成していたヒュー・ボウマン。さらには1枠1番という並びが、馬券的に無視できない存在感を醸し出していた。

この日は非常に天気が良く、晩秋の東京競馬場はジャパンカップを迎える頃には西日が差しており、馬たちが黄金色に輝いているように見えた。芝はもちろん良馬場で、日に照らされたコースは絨毯のように美しく整えられ、現役最強馬を決めるのにふさわしい舞台と化していた。

本馬場入場するキタサンブラック
2017年ジャパンカップのファンファーレ
■キタサンブラックvsシュヴァルグランの激闘

ファンファーレが鳴り、東京芝2400mといえばスタンド前からのスタート。当時はまだ主催者側からのアナウンスもない時代で、ゲート入り後からスタートまでの合間も大歓声が響く。その大歓声に驚くことなくゲートが開くと4番枠からスーッと当然のようにキタサンブラックがハナに立った。特に前走は出遅れていただけに若干心配の声もあったが、さすがに武豊騎手、きれいなフォームでそのまま馬群を先導した。追いかけていきたい馬はおらず、ギニョール、ワンアンドオンリー、ディサイファが続き、シュヴァルグランが5番手のインにピタリとつけた。

ゆったりとしたペースで1コーナーから2コーナーをカーブしていき、シュヴァルグランの後ろにソウルスターリング。中団グループのインにレイデオロがつけ、中団やや後方にサトノクラウンが構えた。

武豊騎手が逃げると注目されるのはそのペースだが、1000m通過で表示されたのは「1.00.2」という絶妙なペース。後ろに脚を溜めさせるわけでもなく自分が苦しくなるわけでもないミドルペースでキタサンブラックと武豊騎手が後続を引っ張っていくシーンに観客たちは息を飲んだ。

ちなみにこの年の日本ダービーではスローペース(1000m通過が1.03.2)を見越してレイデオロのルメール騎手が向こう正面で後方集団から先団までポジションを一気に上げる奇襲に出たが、このペースではそのような策も発動せず、隊列が崩れることなくそのまま3コーナー、4コーナーへと進んでいく。

最後の直線に入ると、先頭のキタサンブラックが武豊騎手のGOサインに応えてスパートを開始し、突き放す。他馬はこのまま置き去りにされるのかと思ったが、必死に食い下がったのが白い帽子の2頭だった。

インでじっくりと脚を溜めていたシュヴァルグランはボウマン騎手の仕掛けと鞭で末脚を炸裂させると、キタサンブラックを射程圏にとらえる。そしてもう1頭の白い帽子レイデオロは馬場の真ん中から馬群をかき分けて前を走る2頭をまとめて差し切ろうと切れ味を発揮した。

坂を登ったあたりでキタサンブラックとシュヴァルグランが並んだと思ったら、そこからはあっという間にシュヴァルグランが先頭に立つ。

レイデオロが必死にシュヴァルグランをとらえようと突っ込んできたが、時すでに遅し。シュヴァルグランが1と1/4馬身のリードを保ってゴールイン。

ボウマン騎手はゴール後に右手を挙げてスタンド側に大きくガッツポーズをして勝利をアピールした。

ウイニングランで帰ってくるシュヴァルグランとボウマン騎手は、晩秋の夕日に照らされてひと際まぶしく輝いていた。そして、表彰式に登壇したオーナーの佐々木主浩氏は遠目に観ても目立つ大きな身体で、ターフビジョンに映し出されたその笑顔は大魔神という言葉が似合わないほどの微笑ましい光景だった。

勝利したシュヴァルグランとボウマン騎手
■「偉大な馬」が誕生する未来

シュヴァルグランはその後海外レースへの挑戦、そして2回目の制覇を狙うジャパンカップ出走等を経て、7歳となる2019年に競走馬生活を引退。

ジャパンカップを制したことが評価されたこともあり、種牡馬入りが決定した。まだ大きな活躍馬が出ていないものの、順調に勝ち上がり馬も登場し、シュヴァルグランと同じような晩成型の成長曲線を期待し大物の登場が待たれる。

そして佐々木主浩氏所有のハルーワスウィート産駒は第7仔となるグランヴィノス、第8仔となるエヴァンスウィートが現役を続けている(2025年11月現在)。グランヴィノスは3勝クラスを勝ち上がり、チャレンジCでも2着に入りこれから重賞戦線での活躍が期待される。エヴァンスウィートも2勝クラスを勝ち上がりそれぞれが兄や姉たちの走りを追いかけるように1歩ずつ階段を登っている。どちらも、これからのさらなる活躍が楽しみである。

世界に誇る国際G1ジャパンカップは、近年、日本馬の連勝が続いている。そんな中で東京競馬場には海外遠征馬が滞在するための入厩施設が新設され、再び強豪馬が来日するようになった。シュヴァルグランはジャパンカップを制し、その由来の通り「偉大な馬」になったわけだが、今後ますますジャパンカップのメンバーが豪華になるほど、ジャパンカップも偉大なレースとなり、勝ち馬は偉大な馬として称えられる。そのような馬の誕生に向けて日本の、いや世界各国の馬主たちが夢を抱き、競馬の未来に新たな物語を紡ぎ続け、我々競馬ファンはそれに魅了されていくのである。

表彰式に臨む佐々木主浩氏

写真:ムラマシ

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