[重賞回顧]秋風を味方に、人馬逃げ切り重賞初制覇!~2025年・紫苑ステークス~

9月第1週。台風一過で気温は上がっているものの、朝晩の風には確かな涼しさが混じる。
札幌開催も今週で幕を閉じ、舞台は秋競馬へと移り変わろうとしている。

その開幕を告げる中山芝2000mのG2紫苑ステークスは、秋華賞トライアルの位置付けにとどまらず、後に大舞台で活躍する馬を数多く送り出してきた。過去10年を振り返るだけでも、

  • 2016年2着:ヴィブロス(秋華賞、ドバイターフ制覇)
  • 2017年1着:ディアドラ(秋華賞、ナッソーステークス制覇)
  • 2018年1着:ノームコア(ヴィクトリアマイル、香港カップ制覇)
  • 2019年3着:カレンブーケドール(秋華賞2着、ジャパンカップ2着)
  • 2021年1着:ファインルージュ(秋華賞2着、ヴィクトリアマイル2着)
  • 2021年2着:スルーセブンシーズ(宝塚記念2着、凱旋門賞4着)
  • 2022年1着:スタニングローズ(秋華賞、エリザベス女王杯制覇)
  • 2024年3着:ボンドガール(秋華賞2着)

と、錚々たる顔ぶれが並ぶ。直近では、2023年の3着馬シランケドが新潟記念を制している。前日の京成杯オータムハンデキャップでは、2021年の紫苑ステークスで7着に敗れたホウオウラスカーズが最内一気を決め、13番人気の大波乱を演じた。「紫苑ステークス組」の活躍は後を絶たない。

今年は、桜花賞3着・オークス5着の実績馬リンクスティップ、年度代表馬エフフォーリアの全妹ジョスラン、32秒台の末脚を持つエストゥペンダ、開幕週の馬場を味方にしたいダノンフェアレディが上位人気を形成。なお、エストゥペンダは田辺騎手の負傷により、菅原明良騎手が急遽騎乗することとなった。

秋華賞への優先出走権、そしてその先の飛躍を懸けて、13頭の3歳牝馬がゲートへと向かった。

レース概況

各馬まちまちのスタートから、エストゥペンダ、マイスターヴェルク、キューティーリップの3頭は後方からの競馬となった。一方で好発を決めた馬たちは前へ殺到し、西塚洸二騎手が果敢に押してケリフレッドアスクがハナを主張。ダノンフェアレディとサヴォンリンナが折り合いをつけながらこれに続き、リンクスティップは控えて内の5番手を確保した。セイキュート、ジョスラン、テリオスララまでが先行集団を形成。中団の最内にサタデーサンライズ、その後ろにドマーネ、キューティーリップ、ロートホルン、マイスターヴェルク、最後方にエストゥペンダがつける展開で1コーナーへと入っていった。

1コーナーに入る直前、西塚騎手が後ろを振り返りつつケリフレッドアスクをさらに前へ導き、サヴォンリンナと2頭で後続を引き離す。3番手のダノンフェアレディは無理に追わず、テリオスララ、リンクスティップ、ジョスランが並んで追走。その後ろにキューティーリップが進出し、マイスターヴェルク、サタデーサンライズ、エストゥペンダらは依然として後方から脚を温存。

1000m通過は60.1秒。マイペースの逃げを打つケリフレッドアスクに、サヴォンリンナとテリオスララが接近するが、残り400mで鞭を受けた逃げ馬が二枚腰を発揮。直線では内からダノンフェアレディ、外からジョスランが追い詰めるも、坂を上がってもケリフレッドアスクの脚色は衰えず。最後まで伸びたジョスランの猛追をクビ差凌ぎ切り、西塚洸二騎手とケリフレッドアスクが嬉しい重賞初制覇を飾った。

3着は最内から抜け出したダノンフェアレディ。4着は後方からじわじわ脚を使ったキューティーリップ、5着には上がり最速で追い込んだエストゥペンダが入ったが、前を捕らえるには至らなかった。なお、最終コーナーから直線に入ったところで、ロートホルンが競走中止、横山典弘騎手が馬を止める場面も。無事を願いたい。

各馬短評

1着 ケリフレッドアスク 西塚洸二騎手

母ディープインアスクは優秀な繁殖牝馬で、すでに3頭の重賞馬を送り出している。

  • 第3仔 ファンタジスト(小倉2歳S、京王杯2歳S、朝日杯FS2着、スプリングS2着)
  • 第4仔 ボンボヤージ(北九州記念)
  • 第7仔 アスクワンタイム(小倉2歳S ※ファンタジストときょうだい制覇)

今回勝利したケリフレッドアスクは、その第8仔にあたり、母にとって4頭目の重賞馬となった。

父がロードカナロアだったきょうだいたちと異なり、この馬はドゥラメンテ産駒。
ストライドの大きい走りで直線でもうひと伸びを見せ、迫るジョスランをクビ差振り切って逃げ切った。

1000m通過60秒1から、3コーナーでは13.1秒のラップを刻み後続を引きつけ、最後は上がり3ハロン34.0秒でまとめる、西塚洸二騎手の馬場読みとペース判断が冴えた勝利だった。
ここまで、きょうだいたちも含め「1番人気での勝利」がなかった血統だが、秋華賞で今回の逃げ切りが「運」か「実力」かを問う舞台が待っている。

2着 ジョスラン ルメール騎手

鞍上ルメール騎手、そして全兄は皐月賞・天皇賞(秋)・有馬記念を制し、3歳時に年度代表馬となったエフフォーリア。素晴らしい血統背景もあり、2番人気に推された。兄が大舞台を制した中山競馬場で、この馬も堂々とした立ち回りを見せた。

序盤から無理に前へ行かず、人気のリンクスティップやダノンフェアレディの動きを見ながら、ルメール騎手のエスコートで先行集団の外目を確保。直線では上がり2位タイとなる33.6秒の末脚で猛追したが、逃げたケリフレッドアスクが34.0秒でまとめており、クビ差届かずの惜しい2着。タイム差なしの敗戦は「勝っていてもおかしくない」内容で、100点に近い競馬だったと言える。

5月のカーネーションC以来となる実戦だったが、休み明けを感じさせない走り。
これでまだ4戦目とキャリアも浅く、フレッシュな状態で秋を迎えられるのは大きな強みだろう。

3着 ダノンフェアレディ 戸崎圭太騎手

追い切りから好調だった一頭。レースでは戸崎騎手が開幕週の中山らしく、馬場のきれいなインを狙った立ち回りを選択した。

新馬戦では逃げ切り、夏の小倉では2番手抜け出しと前々の競馬で結果を残してきたが、今回は馬群の中で我慢を利かせ、最後に脚を使えたのは大きな収穫だった。直線では、粘るサヴォンリンナと逃げるケリフレッドアスクの間を狙い、最内から進路をこじ開ける形。ゴール前はジョスランに交わされたものの、クビ+1馬身差の3着と健闘を見せた。

自在性を身につけつつある点は大きな武器。重賞の舞台でも立ち回り次第でチャンスを広げられる存在だ。

5着 エストゥペンダ 菅原明良騎手

夏の新潟では上がり32秒4の豪脚で1勝クラスを突破。今回は前走でコンビを組んだ戸崎騎手がダノンフェアレディに騎乗するため、田辺騎手との新コンビを予定していたが、前日の負傷により菅原明良騎手の代打騎乗でレースに臨むこととなった。

上位3頭がいずれも逃げ・先行馬だった上に、直線の短い中山コース。向こう正面ではやや行きたがる仕草も見せたが、菅原騎手はうまく宥め、末脚を引き出すタイミングを図りながら直線へ。

直線入り口では後方3番手の位置から、上がり最速タイとなる33秒3の脚を繰り出し、大外から豪快に追い込んだ。その切れ味は父サートゥルナーリアを思わせるもの。馬場と展開に泣かされながらも、先行勢を差し切っての5着は胸を張れる内容だった。

一瞬のキレを生かすタイプだけに、引き続き末脚勝負の場面で注目していきたい一頭だ。

8着 リンクスティップ 北村友一騎手

エストゥペンダとは対照的に、速い瞬発力よりも持続力で勝負するタイプ。今回はケリフレッドアスクのマイペース逃げの中で、直線に入っても抜け出すことができず、各馬の切れ味に屈してしまった。

ただし、桜花賞では雨の中を最後方から力強く追い込み3着、オークスでも長く脚を使って0.5秒差の5着と実績は十分。今回は「開幕週・前残り」という馬場傾向が力を発揮できなかった要因だろう。

むしろ、この馬の真価が問われるのはスピードだけでなく持続力が要求される条件。開催が進んだ冬の中山や京都、あるいはG1でハイペースになり先行勢が苦しくなる展開なら、持ち前のスタミナで上位進出を果たす可能性は高い。ここでの敗戦を悲観する必要はない。

レース総評

紫苑ステークスを制したのは、果敢に逃げて最後までしぶとさを発揮したケリフレッドアスク。
西塚洸二騎手にとっても嬉しい重賞初制覇となり、開幕週の中山を彩る鮮やかな逃げ切り勝ちだった。

この馬の母ディープインアスクからはすでに3頭の重賞馬が誕生しているが、半兄ファンタジストの朝日杯フューチュリティステークス2着が最高で、まだきょうだいの誰もG1タイトルには届いていない。
今回の勝利で秋華賞の切符を手にしたケリフレッドアスクが、ついに“きょうだいの悲願”を叶える存在となるかどうか──その視線はますます熱を帯びていくだろう。

また、2着ジョスランはエフフォーリアの全妹という血統に恥じない走りを披露。休み明けながら堂々と好位から差し込んだ内容は、秋華賞に向けて大きな収穫だった。
3着ダノンフェアレディも、自在性を見せつつインを突いての好走で優先出走権を獲得。それぞれが異なるスタイルで秋華賞の舞台に駒を進め、トライアルらしい多彩な勢力図を示した一戦だった。

権利を逃した中にも光るものは多い。大外から豪脚を伸ばしたエストゥペンダは、展開次第で一発を秘める存在。持続力勝負でこそ真価を発揮するリンクスティップも、馬場や展開が噛み合えば再浮上が期待できる。
紫苑ステークスはこれまでも秋華賞やその先の古馬戦線につながる出世レースとして数々の名馬を送り出してきた。今年もまた、この舞台から未来へ羽ばたく馬が現れることは間違いない。

写真:よるぼん

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