[重賞回顧]雨の府中から、夜明けへ駆けだせ! ~2025年・サウジアラビアロイヤルカップ~

先週から開幕した東京開催。
例年なら、開幕週の毎日王冠・京都大賞典を終えるといよいよG1戦線が幕を開ける時期だが、今年は2週目もG1のない、新たな番組構成となった。

今週の注目は、2歳マイル重賞のG3サウジアラビアロイヤルカップ。
牝馬限定の新設G2・アイルランドトロフィー(旧・府中牝馬S)、そして本来は京都開催4週目に行われていたG2スワンステークスがマイルチャンピオンシップの前哨戦としてこの週に組まれ、3日間開催は秋競馬らしい豪華なラインナップとなった。

ただ、空模様は前週とは一転。好天続きだった先週から一転して、冷たい雨が府中を包み込む。
それでも芝コースは良馬場を維持し、柔らかくも速い馬場でレースを迎えた。

人気を集めたのはモーリス産駒のゾロアストロ。
毎年ノーザンファーム生産馬が好成績を残すこのレースで、鞍上にはルメール騎手。
この日も掲示板を外さない安定した騎乗を続け、期待は高まった。
対するはエコロアルバ。父は府中で芝の安田記念とダートのフェブラリーステークスを制したモズアスコット。新潟1400mの新馬戦で見せた末脚を再び発揮できるかが注目された。

この2頭の“瞬発力対決”を軸に、他の6頭は逃げ、あるいは先行から抜け出しを狙う形。
中でも注目を集めたのが、ゾロアストロと同じモーリス産駒のチュウワカーネギー。
世代最初の新馬戦を1番人気に応えて逃げ切り勝ちを収め、夏場は成長を促すために休養へ。
満を持して迎えた秋初戦で、持ち前のスピードをどこまで発揮できるかが焦点となった。

ペースは1200mを経験した馬が引き上げるのか、それともマイル組がスローに落ち着かせるのか。
少頭数ながら、展開ひとつで着順が大きく入れ替わる気配を感じさせる一戦となった。

レース概況

ゲートでは大きな出遅れはなく、8頭がほぼ揃ったスタート。
しかし、人気のゾロアストロとエコロアルバは、騎手が促すも行き脚がつかず後方へ下がる形となった。

これまで1200m戦を経験してきたユウファラオと、中山マイルで逃げ切り勝ちを収めたマーゴットブローの2頭が序盤からハナを主張。
荻野極騎手が押してマーゴットブローが先頭に立ち、1番枠のガリレアがそれをマークするように2番手へ。
外にユウファラオ、ニシノエースサマは三浦騎手が手綱を抑えて4番手、アスクエジンバラがその内で5番手を追走。
人気のチュウワカーネギーとゾロアストロは後方2頭の位置取り、さらにその少し後ろ、坂井騎手に押されながらエコロアルバが最後方からレースを進める。これで8頭の隊列が整い、最初のコーナーを回った。

中山での逃げを活かしてマイペースを刻むマーゴットブローを、ユウファラオがピタリとマーク。
その内でガリレアが脚を溜め、ニシノエースサマとチュウワカーネギーは外目から徐々に進出を開始。
馬群後方ではゾロアストロとアスクエジンバラが末脚に懸ける構えを見せ、さらに後方のエコロアルバは懸命に食らいついていく。

迎えた直線、隊列はほとんど崩れず、残り400mを通過。
外から青鹿毛のチュウワカーネギーが抜け出しを狙うも、前がしぶとく止まらない。
その後方、ゾロアストロが満を持して追い出しを開始した矢先、最後方のエコロアルバの手前が変わった。
そこから一気に加速、見る間に脚が回転を増し、残り200mで前の7頭を一気に飲み込む。

たった7秒の間に馬群を切り裂き、雨に濡れた府中の芝を真っすぐ駆け抜けたエコロアルバが堂々の1着。
内埒沿いで粘ったガリレアが2着、鋭い末脚を繰り出したゾロアストロはわずかに届かず3着。
逃げ粘ったマーゴットブローが4着を死守し、チュウワカーネギーとユウファラオが5着争いの接戦。
アスクエジンバラは末脚勝負に屈し7着、残り200mまで懸命に先行集団に食らいついたニシノエースサマが8着でゴールを駆け抜けた。

各馬短評

1着 エコロアルバ 坂井瑠星騎手

最後方から鮮やかに差し切り、デビュー2連勝で重賞制覇。
押しても進まず後方に控える形となったが、直線で進路が開くと一瞬で加速。わずか200メートルで前の7頭をまとめて飲み込んだ末脚は、まさに「夜明け(Alba)」の名にふさわしい輝きだった。

血統を見れば、いかにも“府中向き”の構成だ。
父モズアスコットは東京芝1600mの安田記念とダートのフェブラリーステークスを制した二刀流のG1馬。
そして母系には、93年日本ダービー馬ウイニングチケットの全妹スカラシップの名が並ぶ。
広い東京の直線を力強く駆け抜ける姿に、その血を重ねたファンも多かっただろう。

陣営にとっても想定外の“爆発力”だったに違いない。
距離適性を1400m前後と見ていた中で、この末脚が発揮されたのだから驚きも大きい。
末脚が生きる阪神の朝日杯か、あるいは距離をさらに延ばして中山のホープフルステークスか。
どちらの舞台を選んでも期待できる、多彩な才能を秘めた新星として注目したい。

2着 ガリレア 杉原誠人騎手

7番人気の低評価を覆す激走を披露。
1番枠を利して内埒沿いをロスなく立ち回り、直線でも最短距離を突いて逃げ馬を交わし2着を確保した。
馬群の中でも怯まず、抜群の折り合いで脚を温存できたのは、杉原騎手の冷静な判断あってこそ。
勝ち馬の末脚には屈したものの、レース運びとしては完璧だった。

まだ馬体は442kgと牡馬にしては小柄な方だが、これが完成途上なら先々が楽しみだ。
府中マイルで見せたこの安定感なら、次走以降も上位争いに顔を出せるだろう。

3着 ゾロアストロ ルメール騎手

母アルミレーナもサンデーレーシングのクラブ馬で、1400〜2000mを主戦場にした血統背景。
ゾロアストロ自身は新潟の未勝利戦では上がり3ハロン32秒9という圧巻の末脚で初勝利を飾った。
追い切りでも最後までしっかり脚を伸ばす動きを見せており、1番人気に支持されたのも納得の一戦だった。

今回は直線で安全な進路を確保するため、ルメール騎手が追い出しを待ったことが結果的に誤算に。
思った以上に先行勢が粘り、外へ持ち出すまでの一瞬の“間”で、エコロアルバが抜群の加速を見せ、内からはガリレアが抜け出した。
それでもエコロアルバに次ぐ上がり33秒8の末脚を繰り出し、懸命に前を追う姿は力強かった。

展開とタイミングに泣いたが、ポテンシャルの高さは疑いようがない。
東京開催はまだ続く。舞台が再び整えば、今度こそ新潟で見せたあの切れ味が解き放たれるだろう。
ルメール騎手がレース後に語っていたように、距離が延びればよりストライドを活かせるはずだ。

レース総評

雨に煙る府中の直線を、鮮やかな末脚が切り裂いた。
大味な展開の中で最後方から一気に差し切ったエコロアルバの走りは、まさに“夜明け”の名の通り新時代の到来を告げるものだった。
インを立ち回って脚を温存し、最後に抜け出したガリレアと”モズアスコット産駒”でのワンツー決着。
父譲りのスピードと持続力が、雨上がりの東京マイルで見事に開花した。

3着ゾロアストロもまた、鋭い末脚を繰り出して力を示した一頭。
仕掛けのタイミングが噛み合えば、この世代のマイル~中距離路線を引っ張る存在になっていくはずだ。

雨の府中に射し込んだ一筋の光。
その名が示す通り、エコロアルバは“夜明け”を告げる新星として、2歳マイル戦線を明るく照らし始めた。

写真:s1nihs

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