![[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]ダートムーアの最高傑作(シーズン1-77)](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/12/S__83959810_0.jpg)
福ちゃんの移動を前に、碧雲牧場では念のため事前に馬運車に乗る練習をしてくれたそうです。お姉さんのルリモハリモもそうでしたが、ダートムーアの仔は臆病な面がありますので(競走馬として必要な資質だと僕は思います)、移動当日に馬運車に乗らなかったり、中で暴れたりすると大変だからです。
案の定、初めて馬運車に乗せようとしたとき、福ちゃんは頑として乗ろうとしなかったとのこと。馬運車の中に足を踏み入れることを拒否し、その場で立ち止まって一歩も動かなかったそうです。後ろから見せ鞭をして追い立てたところ、暴れて周りの木の柵を蹴り破ってしまいました。乗るのを嫌がって、いきなり後ろ向きに凄い勢いでバックしてみたりと、やはりこの一族は普段は大人しいのですが、スイッチが入るとパニックになり手が付けられなくなります。昨年のオータムセールで立ち上がって、後ろ向きにひっくり返ったルリモハリモの姿が思い浮かびます。
マンちゃんを連れてきて先に乗せ、後から福ちゃんも乗せたところ、なんとか乗ることはできたそうですが、今度は車内でクルっと一回転したときにお尻が車体に触れて、それに驚いて再びスイッチが入ったり…。馬運車から出るときには、前向きで降りるため、前向きに入っても、どこかのタイミングで馬運車の中で一回転しなければならないのです。ところが、馬運車の幅はそれほど広くないため、よほど綺麗に回らない限り、お尻が壁にぶつかって(触れて)しまうのは避けられません。馬運車に乗って、降りるだけでも、初めての馬にとっては大ごとなのです。
碧雲牧場からエクワインレーシングまでは約30分の道のりですが、無事に送り届けるためには、軽い鎮静剤を飲ませるしかないと慈さんは考えているようです。そうすると、意識がボーっとするので、暴れることなく、安全に送り届けることだけを考えると妥当な選択かなとは思えます。しかし、ボーっとした状態で馬運車に乗ってそのまま出て行ってしまうことになるため、映像的にはどうだろうと撮れ高まで心配してくれています。碧雲牧場から出て行きたくないと立ち止まってみたり、また馬運車の中でごねて暴れてみたり、嘶いてみたりした方が、YouTubeチャンネル的には良いのではと、そこまで考えてくれているようです(笑)。
「もう一度練習してみましょうか」との提案で、僕も福ちゃんの馬運車乗りの練習に付き合うことにしました。福ちゃんの後ろでカメラを構え、暴れ出したらいつでも避難できるように身構えていました。すると今日は意外にもすんなりと馬運車に乗り、理恵さんたちに褒められているじゃないですか! 福ちゃんは初めてのことが怖いだけで、一度体験して理解すると安心するのでしょうか。「やっぱり練習って大事ですね」と慈さんも言います。車内での一回転も問題なく、慎重に馬運車から降りて、練習は終わりました。拍子抜けしてしまった面はありますが、本番を明日に控えて最後の練習ですから、上手く行ったことは喜ばしい限り。「最後の旅立ちのシーンは、プレミアムライブ配信をして、視聴者の皆と一緒に見送るのもいいかもしれませんね」なんていう提案も慈さんから出たほどです。
それでも念には念を入れ、当日は軽い鎮静を打つことにしました。無事に乗り込めたとしても、道中の30分間で暴れない保証はありません。馬運車が動いているときは、馬もバランスを崩さないように四肢に力を入れて踏ん張ることに集中しますが、信号などで車が止まったときに暴れる馬もいるそうです。福ちゃんに万が一のことがあって、怪我をしたりして、エクワインレーシングに無事に送り届けられなくなるのだけは避けたいところです。さすがに碧雲牧場におけるラストシーンは、YouTube映えよりも安全・安心を優先することにしました。
福ちゃんのウォーキング動画も自主撮影しました。慈さんに歩かせてもらい、僕が横からついて行って撮るという原始的な方法です。カメラを平行に保ちながら、馬の歩くスピードについて歩くのは意外と大変です。この日の北海道は日中の気温が30度を超え、しかも蒸し暑さもあって、僕も慈さんも汗だく。次は僕がカメラを構えて前に立っていて、慈さんと福ちゃんが歩いてくるシーンを正面から撮影します。その次は後ろから僕が付いていって、福ちゃんたちのウォーキングを真後ろから撮りました。セリ用の動画らしく撮影してみたつもりですが、果たして上手く撮れているのでしょうか。ブレブレになっている気がします。
福ちゃんはセリに出ないので、もちろん歩く練習をしておらず、慈さんいわく「真っすぐに歩かない」とのこと。首を曲げてしまっているのが画面越しにも分かります。ウォーキング動画は人間と馬が平行に並んで歩くのが美しいのですが、後躯が流れてしまって、外に開いて行ってしまいます。これも福ちゃんにとって初めての経験です。よそ見をせずに真っ直ぐ歩けるようになるためには、もっと練習が必要ですね。

そんなことよりも、間近で福ちゃんの馬体の大きさや筋肉の付き方を見ると、とても牝馬とは思えません。胸板が厚く、胸前の筋肉は盛り上がり、典型的なパワータイプの馬体です。芝の中距離ではスピード不足でしょうが、ダート戦ではパワーが存分に生かせるはず。トモにも十分な大きさと深さがあります。簡易的に測尺もしてもらうと、体高が157㎝、胸囲が183㎝、管囲が20㎝でした。ちょうど同じ時期の姉(ルリモハリモ)が体高157㎝、胸囲179㎝、管囲19cmでしたから、数字上もひと回り大きい感じです。いや、実際に目の前にしてみると、明らかに福ちゃんの方が全体的な大きさを感じさせます。大げさではなく、ふた回りは違うのではないでしょうか。
スパツィアーレの23が体高159㎝、胸囲182㎝、管囲は22㎝でしたから、それに近いぐらいの大きさはあると感じました。ちなみに、スパツィアーレの23はサマーセール直前で500kg以上の馬体重でしたから、現在の福ちゃんも450kgは優にあるはずです。将来的には500kgを超える馬体にまで成長してくれるのでは、と期待は高まりますね。
福ちゃんはダートムーアの最高傑作かもしれない。
福ちゃんを間近で感じてみて、素直に思いました。
(次回へ続く→)
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