![[重賞回顧]新世代躍動! 再び歓喜の”フェスティバル”を~2025年・有馬記念~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/12/IMG_5611.jpeg)
2025年のJRA開催も、いよいよ最終日を迎えた12月28日。
中山競馬場には、事前の抽選を勝ち抜いた約5万5000人のファンが集い、出走16頭の勇姿を見届けようとスタンドを埋め尽くした。
前週は冬の雨に見舞われ、冷え込みの厳しい開催となったが、この日の中山競馬場は快晴。
芝コースは使い込まれ、ところどころ芝がめくれる状態で、2500mを走り切るにはスピードだけでなく、力強さも求められる馬場コンディションとなった。
今年の有馬記念は、3歳馬2頭、4歳馬7頭、5歳馬3頭、6歳のジャスティンパレス、7歳のシュヴァリエローズとミステリーウェイ、そして最年長8歳のアラタが参戦。6世代が顔を揃えながらも、比較的フレッシュな顔ぶれが集った印象もあるメンバーである。
3歳世代からは、皐月賞馬ミュージアムマイルが高い支持を集める。
昨年の朝日杯フューチュリティステークスでは2着に敗れたものの、マイルより長い距離で本領を発揮。
春は無敗のクロワデュノールを差し切って皐月賞を制し、秋はセントライト記念を勝利、続く天皇賞(秋)でも2着に好走した。
この秋3戦目で挑むのは、初の2500m戦という未知の舞台だ。
もう1頭の3歳馬、エキサイトバイオは菊花賞3着からの参戦。
母アニメイトバイオの半弟には、長距離と道悪を得意とした天皇賞馬レインボーラインがいる。
距離適性と荒れた馬場への対応力、さらに繰り上がり参戦ながら1枠を引き当てた運も味方に、好走を狙う。
4歳世代は、昨年の覇者レガレイラを筆頭に、個性豊かなメンバーが揃った。
同世代のダービー馬ダノンデサイルは、春のドバイシーマクラシック以来となるG1勝利を目指す。
鞍上の戸崎騎手は、主戦を務めてきたレガレイラと悩んだ末にダノンデサイルを選択。
レガレイラは3歳秋まで手綱を取っていたルメール騎手との再コンビで臨むことになった。
最終的に、ダノンデサイルは3番人気、レガレイラは昨年の勝ち馬でありファン投票1位の支持を集め、1番人気で本番を迎えた。
2歳時のホープフルステークスで上位に入ったレガレイラ、シンエンペラー、サンライズジパングの3頭が、2年ぶりに暮れの中山で再会。
特にダート路線を歩んできたサンライズジパングが、久々の芝でどのような走りを見せるのか注目が集まる。
宝塚記念を制したメイショウタバルは、松本好雄前オーナーの「有馬記念を勝ちたい」という願いを背負い、武豊騎手とのコンビで参戦。
前走の天皇賞(秋)ではスローペースに落としてレースを作る経験を積んだが、その引き出しをここで活かせるか。後続を振り切る逃げ切りを、ファンも陣営も夢見ている。
5歳世代の中心はタスティエーラ。
3歳時の日本ダービーに加え、香港のクイーンエリザベス2世カップを制しG1競走2勝目を挙げた実力馬だ。
このレースを最後に引退し、種牡馬入りすることが発表されており、ジャパンカップに続く大外枠の克服が勝負の鍵を握る。
また、6歳のジャスティンパレスもタスティエーラと同様、秋古馬三冠を走り切っての引退が決まっている。天皇賞(秋)で手綱を取った団野騎手と再びコンビを組み、有終の美を目指す。
連覇か、悲願の達成か、初制覇か。
傾き始めた夕日を背に、各馬は静かにゲートへと歩を進めていった。
レース概況
宝塚記念を逃げ切ったメイショウタバルと、アルゼンチン共和国杯を逃げ切ったミステリーウェイ。
どちらがハナを切るのか注目されたスタートだったが、まず前に出ようとしたのはミステリーウェイ。しかしその内からコスモキュランダ、大外からタスティエーラが競りかけ、最序盤から激しい位置取り争いとなった。
メイショウタバルは最初のコーナーで折り合いをつけようとするが、直後にエルトンバローズ、アドマイヤテラ、マイネルエンペラーが迫っており、控えることもかなわない。結果としてコーナーを使い、馬群の外へ持ち出す選択を取った。
前の各馬がポジション確保とけん制のつばぜり合いを演じる中、中団にはシンエンペラー、ダノンデサイル、エキサイトバイオが続く。
数馬身後ろの後方集団には、同じ勝負服のレガレイラとミュージアムマイル。その後ろにジャスティンパレスとサンライズジパング、さらにステイヤーのシュヴァリエローズと8歳馬アラタが最後方でじっくりと構え、スタンド前を通過する。
ミステリーウェイが松本騎手とともに逃げ、その直後を横山武史騎手の積極策でコスモキュランダが追走。
メイショウタバルはこの2頭より外を回りながら前の位置を取りに行く。父ゴールドシップを思わせるように観客席の歓声を気にする仕草を見せつつ、スタンドに別れを告げて1コーナーへ向かった。
1000m通過は60秒3。荒れた馬場を考えれば、まずまず流れたペースで向こう正面へ入る。
向こう正面でミステリーウェイを交わし、メイショウタバルが先頭へ。ビジョンに映し出されたその姿に、スタンドから大きな歓声が上がり、レースはいよいよ後半戦へと突入する。
残り1000m地点では、前の3頭と後続の各馬との差は5馬身以上。
ここから最後方にいたジャスティンパレスがロングスパートを開始し、他の各馬も残り800mを迎えるあたりで徐々に前との差を詰めていく。
マイネルエンペラーの動き出しに合わせてダノンデサイルが追走し、さらにそのダノンデサイルをマークしていたミュージアムマイルも後方からスパートを開始した。
一方前では、逃げ馬たちに挑んでいたコスモキュランダがスパート。残り400mでメイショウタバルに並びかけると、これを競り落として先頭に立つ。直後にはタスティエーラの姿も見える。
後方から仕掛けた馬たちが外を回ってくる中、スパートが一瞬遅れたレガレイラはインを選択し、直線の攻防へと持ち込んだ。
迎えた直線、先頭はコスモキュランダ。先行馬群を振り切って粘り込みを狙うが、後続から次々と蹄音が迫る。それでも残り200mを過ぎても、まだ2馬身ほどのリードがあり、このまま初のG1制覇かと思われた。
その瞬間、外から黒い馬体が一気にピッチを上げて飛んできた。
内には雄大なストライドを伸ばすダノンデサイル、さらに空いたスペースへレガレイラも突っ込み、前との差を詰める。
粘るコスモキュランダか、差し馬たちか。
最後は、測ったかのようにゴール前で半馬身差し切ったミュージアムマイルが勝利。皐月賞以来となるG1タイトルを、再び中山競馬場で手にした。
コスモキュランダは本当に惜しい2着。こちらも4歳世代の皐月賞2着馬であり、得意の中山で力を出し切った。
追い込んできたダノンデサイルが3着、一瞬仕掛けが遅れたもののレガレイラも前年女王の実力を示して4着。
5着には最後方から追い込んだサンライズジパングが激走し、果敢に先行したタスティエーラは6着。
ジャスティンパレスはロングスパートが届かず7着、メイショウタバルは13着、ミステリーウェイは16着でレースを終えた。

各馬短評
1着 ミュージアムマイル Cデムーロ騎手
未知の2500m、荒れた中山の馬場という条件を、見事に克服してみせた。
中団後ろで脚を溜め、勝負どころで迷わず外へ持ち出した判断は、さすがCデムーロ騎手の手腕と言える。
皐月賞馬としての地力に加え、回転の速いピッチ走法による操縦性の高さ、そして長く脚を使える持続力が、この舞台で最大限に活きた。
ダービー馬クロワデュノールを皐月賞で完封し、天皇賞(秋)では同世代のマスカレードボールとワンツー決着。府中では2000m戦での距離適性が評価されたが、今回は距離への不安を完全に一掃してみせた。
直線では一瞬の切れと、もう一段の伸びを兼ね備え、先行馬をまとめて差し切る完勝。
今年の3歳シーズン6走で挙げた3勝は全て中山競馬場。再びこの舞台でG1タイトルを積み上げた。
同世代のクロワデュノール、マスカレードボールとともに、2026年の中長距離路線で主役を張れることを示した一戦だった。
余談だが、ミュージアムマイルの馬名由来はニューヨークの通りで、実際の通りの長さは「1マイルより長い」距離だという。名は体を表すならば、やはりミュージアムマイルは中距離こその馬なのだろう。

2着 コスモキュランダ 横山武史騎手
積極策で前を射程圏に入れ、堂々と勝ちに行った横山武史騎手の騎乗を高く評価したい。
向こう正面からの立ち回りもスムーズで、直線では一度は勝利を意識させる粘りを見せた。
最後は差し切られたものの、得意の中山で持ち味を余すことなく発揮した内容だった。
荒れた馬場でも脚色が鈍らなかった点は、年始のアメリカジョッキークラブカップで見せていた走りを思い起こさせる。
その後は大きな着順が続き、今回は11番人気での出走となったが、このレースで初装着したブリンカーも確かな効果を示したと言えるだろう。
逃げていたミステリーウェイに競りかけ、後半ではメイショウタバルを直線でしっかりと交わした走りは、運だけでは到底成し得ない地力の証明だ。
来年こそはG1に手が届く。そんな希望をはっきりと抱かせる激走だった。
3着 ダノンデサイル 戸崎圭太騎手
中団から流れに乗り、勝負どころでしっかりと脚を使った安定感ある走りだった。
先述のコスモキュランダとはアメリカジョッキークラブカップで対戦し勝利。その勢いのままドバイシーマクラシックでは、後にジャパンカップでレコードを出したカランダガンを下し、2つ目のG1タイトルを手にしている。戸崎騎手は、この時の走りの感触でダノンデサイルへの継続騎乗を決めたという。
外からの進出はスムーズで、直線でも最後まで伸びを欠かなかった。
勝ち馬には及ばなかったが、戸崎騎手の丁寧なエスコートで、勝気な性格を抑えながら競馬が出来ていた点は大きな収穫だ。
有馬記念に向けて、落ち着いて走ることを意識した調教が実を結んだ証左と言えるだろう。
ジャパンカップ、有馬記念と連続して3着。大崩れしない強さは、ダービー馬としての信頼感そのものだ。
来シーズンは、さらに精神面が成長するのか、それとも気性の激しさが表に出るのか。陣営の手腕が試される1年になりそうだ。
4着 レガレイラ ルメール騎手
ホープフルステークスでは2歳牝馬の時点で牡馬を一蹴し、3歳シーズンは勝ちあぐねる場面もあったが、昨年の有馬記念で再び牡馬相手に頂点へ。
今年は前走エリザベス女王杯で中距離の牝馬戦であれば格上である姿を示し、牝馬として史上初の有馬記念連覇を目指してこの舞台に立った。
外から先にジャスティンパレスが仕掛けてきたため、一瞬の判断でインを選ばざるを得なかったが、空いたスペースを逃さず最後に一気に差を詰めたのは、さすがルメール騎手の判断力。
ジャスティンパレスやミュージアムマイルとの仕掛けのタイミングの差で連覇こそ叶わなかったが、内容自体は決して悪くない。
得意とする冬の荒れた馬場でも最後まで脚を使い切り、前年女王としての底力を感じさせた。
位置取りと進路選択の難しさを考えれば、着順以上に厳しい競馬を強いられていた印象もある。
それでも4着まで押し上げたあたり、力負けでは決してない。
クラブ所属の牝馬だけに、実質的なラストシーズンとなる来年はどの路線を選ぶのか。
再びG1タイトルを狙う舞台選びにも注目が集まる。
5着 サンライズジパング 鮫島克馬騎手
最後方からじっくりと構え、直線では目を引く伸び脚を披露した。
久々の芝レースながら、3歳時の若駒ステークスで見せた荒れた馬場への適性を、ここでもしっかり示した内容だ。
追走に苦労し、外から追い込む形になった分、上位には届かなかったが、着順以上に中身の濃い競馬だった。
ダートで培ったパワーが、年末の中山2500mという消耗戦で存分に活きた印象がある。
みやこステークスで共に勝利した鮫島克馬騎手が我慢強く末脚を引き出し、この馬の持ち味を最大限に引き出した。
前川恭子厩舎への転厩2戦目でしっかり結果を残し、芝の長距離路線へ進むのか、それともダートへ戻るのか。今後の進路に嬉しい悩みを抱えて帰途につく一戦となった。
13着 メイショウタバル 武豊騎手
「春秋グランプリ連覇」その可能性に挑めたのはこの馬ただ一頭だった。
前にミステリーウェイ、後方には有力馬がひしめく中、厳しい展開を承知の上で果敢にレースへ身を投じた。武豊騎手もこのレースの一鞍入魂で有馬記念に挑んだ。
ミステリーウェイの出方を見極めながら向こう正面で先頭に立ち、レースを動かしにいった姿勢は、スタミナ勝負で宝塚記念を制した時の走りを彷彿とさせるものだった。
逃げ馬として主導権を握るまでに時間を要し、消耗の激しい展開となったが、それでも武豊騎手は終盤まで積極的に勝負をかけ続けた。
結果として最後は苦しくなったが、ただ守りに入る選択は一切なかった。
着順こそ振るわなかったものの、この舞台に挑んだ意義は決して小さくない。
8月に逝去した松本好雄前オーナーへ、有馬記念のタイトルを届けるという願い。
その思いを背負って挑んだこの一戦は、敗戦の中にも確かな物語を刻んだ。
この挑戦は、まだ4歳のメイショウタバルならいつか叶う、そう信じて応援したい。
レース総評
暮れの中山、荒れた芝2500mという舞台は、毎年のように“有馬記念らしさ”を突きつけてくる。
速さだけでは届かず、立ち回りだけでも足りない。
力、判断、持続力、そして人馬の覚悟。
それらが噛み合った馬だけが、最後に残る。
今年の有馬記念は、序盤から逃げ馬たちが主導権を奪い合い、早い段階で各馬に決断を迫る流れとなった。
前で耐えるか、早めに動くか、それとも最後まで仕掛けを我慢するか。
向こう正面から三コーナーにかけて、勝負の分かれ目は何度も訪れていた。
その中で浮かび上がったのは、世代を越えた力関係の現在地だった。
4歳世代が中軸を成しつつ、3歳馬が真っ向から挑み、古豪も自分の形で存在感を示す。
決して一強ではなく、立場も脚質も異なる馬たちが、それぞれの最善を尽くした末の結末だった。
勝ち馬ミュージアムマイルが見せたのは、荒れた中山でこそ生きる操縦性と持続力。
一瞬の切れ味だけではなく、長く脚を使い切る能力が、この舞台で最大限に評価された。
同時に、先行して粘った馬、後方から追い込んだ馬、それぞれが「有馬記念に挑む資格」を示す走りを残している。
年末の大一番は、単なる総決算では終わらない。
ここで示された適性や課題は、そのまま次のシーズンへとつながっていく。
とりわけ今年の有馬記念は、秋古馬三冠競走を通じて皐月賞馬ミュージアムマイル、天皇賞馬マスカレードボール、そしてダービー馬クロワデュノールといった25年クラシック世代の馬たちが好走を重ねてきた流れを、そのまま年末の大舞台で裏づける形となった。
古馬になってもなお王道路線で年長馬に真っ向から挑み、互角以上に渡り合える世代であることを示した点は、この先の中長距離路線に大きな期待を抱かせる結果と言えるだろう。
傾きかけた冬の日差しの中、最後まで全力で走り切った全ての人馬に、惜しみない拍手が送られ、2025年のG1レース戦線は幕を閉じた。

写真:s1nihs
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