[重賞回顧]外一気の末脚。バステールが皐月賞制覇へ駆け出す~2026年・弥生賞~ 

3月の和暦は弥生。2月のきさらぎ賞に続き、レース名で月を覚えているのは多くの競馬ファンの“あるある”ではないだろうか(そして4月に行われる「皐月賞」で月を先取りするところまでがセットだ)。

2020年からは“ディープインパクト記念”の名が加わり、正式名称は「報知杯弥生賞ディープインパクト記念」。2005年にこのレースを勝ち、クラシック三冠を無敗で制した名馬ディープインパクトが2019年に亡くなったことを受け、その功績を称えて改称された(以降、弥生賞と表記する)。

先週のチューリップ賞が桜花賞と同じ阪神芝1600mで行われたのに対し、弥生賞は皐月賞と同じ中山芝2000m。本番を見据え、同じコースを走ってクラシックの切符を目指す重要なトライアルだ。

当初は東京スポーツ杯2歳ステークスを勝ったパントルナイーフがルメール騎手とのコンビで出走予定だったが、左後肢フレグモーネ(外傷などから細菌が入り化膿して腫れ、痛みを伴う症状)により出走登録前に回避。同レース4着のテルヒコウもスプリングステークスへ回り、ホープフルステークス6着から参戦予定だったオルフセンもフレグモーネのため、ダービートライアルの青葉賞へ目標を切り替えた。

結果、出走は10頭立てと例年並みの少頭数でのレースになった。
上位3頭に優先出走権が与えられるため、他の陣営にとってはチャンスとも言える。

朝日杯フューチュリティステークス3着から春初戦を迎えるアドマイヤクワッズ。勝ち馬カヴァレリッツォは皐月賞へ直行予定、2着ダイヤモンドノットはマイル路線へ進むため、朝日杯組からはこの馬が代表格となる。パートナー坂井瑠星騎手とともに、初の2000m戦へ挑む。

東京スポーツ杯組からはライヒスアドラーが参戦。パントルナイーフ、テルヒコウとの再戦は持ち越しとなったが、同レース2着ゾロアストロはきさらぎ賞を制し皐月賞で待ち受ける存在となった。リベンジの舞台を目指し、鞍上は佐々木大輔騎手が継続。シスキン産駒初のクラシック出走も懸かる一戦だ。

また、好時計決着となった今年の京成杯からは4着タイダルロック、5着ステラスペースが参戦。勝ち馬クリーンエナジーは皐月賞へ向かう予定のため、ここで権利を掴めばこちらも本番での再戦が実現する。
中山芝2000mの経験は、このメンバーの中でも大きな武器となるだろう。

また、地方競馬からはコスモギガンティアが参戦。中山金杯前の準メインとして行われたジュニアカップでは、勝ち馬から0秒2差の5着と健闘した。ビッグレッドファームの大先輩コスモバルクに続く、地方馬によるクラシック挑戦は叶うだろうか。

皐月賞へ、そしてその先のクラシック路線へ。10頭の挑戦が、ここから始まる。

レース概況

スタートはややばらついたが大きく出遅れる馬はなく、内枠を利してメイショウソラリスがハナへ。
ステラスペースは京成杯の再現を狙うように内埒ぴったりのロスのないポジションを選択した。

9番枠のアメテュストスがインコースを狙って進出し、内にいたアドマイヤクワッズを早めに交わして前へ。ここで大外枠のバリオス、さらに内にライヒスアドラーがいたことでアドマイヤクワッズが行きたがる場面もあり、坂井瑠星騎手がなだめながら1コーナーへ入っていく。

隊列はメイショウソラリスが逃げ、3馬身ほど離れてステラスペースが2番手。3番手にアドマイヤクワッズ、内にアメテュストス。その後ろの中団にバリオスとライヒスアドラーが続き、後方にはタイダルロック、コスモギガンティア、バステール、モウエエデショーと続いて向こう正面へ入った。

逃げたメイショウソラリスの前半1000mは60.4秒と、淡々としたペースでレースは後半戦へ。
しかしステラスペースの武藤雅騎手の手が早くも動き始め、メイショウソラリスは道中で息を入れられない苦しい展開となった。

これを見たかアドマイヤクワッズが外から進出。ここで早めに勝負を選び、逃げ馬を射程圏に入れて4コーナーへ向かった。その直後にはアドマイヤクワッズをマークする形でライヒスアドラーが続く。

4コーナーから直線に入ると、逃げ粘るメイショウソラリスとステラスペースはともに苦しくなり、内にいたアメテュストスとコスモギガンティアは進路取りが難しい状況に。早めに前へ出たアドマイヤクワッズを目標に、各馬が追い上げていく。

残り200mでアドマイヤクワッズとライヒスアドラーが並び、2頭の叩き合いかと思われた外から、鋭く脚を伸ばしたのがバステールだった。各馬が早めに動いた流れを後方で見極め、直線勝負に徹した川田将雅騎手の判断が勝利を導いた。最後は首筋を軽く叩かれて先頭でゴールイン。接戦の2頭はライヒスアドラーが2着、アドマイヤクワッズが3着となり、この3頭が皐月賞への優先出走権を獲得した。

直線でアドマイヤクワッズの後ろを追いかけたタイダルロックが4着。
さらに最後方から大外を伸びたモウエエデショーが10番人気ながら5着と健闘した。

上位3頭は仕掛けどころを待った順に決着。各人馬の勝負どころの判断が勝敗を分けた一戦だった。

各馬短評

1着 バステール 川田将雅騎手

新馬戦、未勝利戦ではC.デムーロ騎手とコンビを組み、今回は川田将雅騎手に乗り替わって初の中山参戦となった。

道中は後方で各馬の動きを見ながらじっくりと脚を温存。3コーナーから先行勢が動き出して展開が速くなる中でも慌てず、直線勝負に徹した川田騎手の判断が勝利を導いた。

直線入り口では外から一回り馬体の大きなバリオスにぶつけられる場面もあったが怯むことなく、残り200mで先行勢の脚色が鈍ると鋭く伸びて差し切り勝ち。落ち着いた流れの中でも折り合いに不安は見せず、勝負所で怯まず末脚を繰り出せる精神力も感じさせた。

先行勢が早めに動いた展開の利はあったものの、アドマイヤクワッズ、ライヒスアドラーという重賞経験馬2頭を差し切って見せた末脚は価値が高い。皐月賞はもちろん、むしろ距離が延びて末脚の持続力が問われる日本ダービーでも楽しみが広がる一頭だ。

2着 ライヒスアドラー 佐々木大輔騎手

東スポ杯組からはゾロアストロがきさらぎ賞を制覇。パントルナイーフは弥生賞を回避して次走未定となったが、その2頭と1馬身差の3着だったライヒスアドラーも実力馬の一頭という評価での参戦となった。さらに上位3頭の中で唯一中山競馬場での出走経験があり、新馬戦を勝利していた経験値も今回は味方した印象だ。

佐々木大輔騎手のレースプランは、1番人気アドマイヤクワッズを徹底マークして勝負する形。直線では先に動いたアドマイヤクワッズを目標に脚を伸ばし、上がり3位の35.4秒でまとめて2着を確保した。前を捕まえに行く形で脚を使う競馬となりながら、しっかりアドマイヤクワッズを捉えた点は評価できる。

最後はバステールの末脚に屈したものの、自身も最後まで脚色は衰えず安定したレース運びがシスキン産駒初のクラシック出走を呼び寄せた。

弥生賞は惜敗した馬もその後の活躍が光るレース。皐月賞ではさらにメンバーのレベルが上がるが、鞍上・佐々木大輔騎手とともに、再び強気のレースを見せてほしい。

3着 アドマイヤクワッズ 坂井瑠星騎手

デイリー杯2歳ステークスを1分33秒1のレコードで制し、続く朝日杯FSでも3着に入ったアドマイヤクワッズ。G1での実績とスピード能力が評価され、初の2000m戦、初の中山参戦にもかかわらず1番人気に推されての出走となった。

最序盤こそ行きたがる場面もあったが、向こう正面からメイショウソラリスとステラスペースを交わすべく外から進出。坂井瑠星騎手らしい積極的な判断で早めに先頭を射程圏へ入れ、直線では一度は抜け出す形を作った。

結果的には差し勢の決め手に屈したものの、前で勝負して3着を確保。人気を背負う立場で早めに動く形となった中でも、2000mへの対応力を示した走りと言えるだろう。

マイル戦でスピードを生かした競馬をしてきた実績は、むしろトライアルよりも締まった展開になりやすいクラシック本番でこそ生きる可能性がある。ここはあくまで前哨戦。しっかり権利を手にした皐月賞での巻き返しに期待したい。

レース総評

皐月賞、そしてその先のクラシックへ向けた重要な前哨戦となる弥生賞。
今年はメイショウソラリスが淡々と刻んだペースに対し、各馬の仕掛けどころと判断が結果を分ける一戦となった。

早めに前を交わしたアドマイヤクワッズは、インにいれば交わせない可能性もあっただろう。ライヒスアドラーは前に明確な目標を置いたことで、最後の勝負へ持ち込むことができた。そして前がやり合う展開の中、外から一気に脚を伸ばしたバステールが鋭い末脚で差し切り、新たな重賞ウィナーが誕生した。

アドマイヤクワッズ、ライヒスアドラーの重賞実績馬2頭もそれぞれの形で力を示し、皐月賞への優先出走権を獲得。10頭の皐月賞への切符を懸けた挑戦はここで一区切りとなった。

しかし弥生賞は、ここで敗れた馬のその後の活躍も印象的なレースでもある。昨年はこのレースを4着に敗れたミュージアムマイルが皐月賞で逆転勝利。ダービーこそ6着だったが、天皇賞・秋の2着を経て年末の有馬記念を制し、最優秀3歳牡馬のタイトルを手にした。さらにダービー馬ドウデュース、ワグネリアンも弥生賞では差し切りは叶わなかった。

もちろん、このレースを勝利して後のG1で輝く馬もいる。しかし結果に関わらず挑戦したこと自体に意味があるのが、文字通り将来へ向けた「トライアル」の役割と言えるだろう。

勝ったバステールにも、敗れた9頭の人馬にも、弥生賞から先の未来へ向けて得るものがあったはずだ。
その答えが春以降の舞台で示されることを、今から楽しみに待ちたい。

弥生の名が示す通り、春はすぐそこまで来ている。
クラシック第一冠・皐月賞へ向け、若駒たちの物語はここからさらに熱を帯びていく。

写真:だいゆい、ぼん(@Jordan_Jorvon)

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