
2021年10月30日、阪神競馬場で行われた第64回スワンS。舞台は芝1400m、馬場状態は良。秋のマイル王決定戦へ向けた重要な前哨戦として、18頭が顔をそろえた。
この年のスワンSで際立ったのは、牝馬勢の切れ味だった。勝ったのは1番人気のダノンファンタジー。2着には5番人気サウンドキアラが入り、上位2頭を牝馬が占めた。3着には逃げた3歳牡馬ホウオウアマゾンが粘り込み、4着には2番人気ルークズネスト。上位には人気を集めた実力馬が並んだが、勝負を決めたのは、直線での脚の使い方だった。
レースはホウオウアマゾンが先手を奪い、マイスタイル、ビッククインバイオ、セイウンコウセイ、フィアーノロマーノなどが続く展開。前半600mは34秒1。極端なハイペースではないが、1400m重賞らしく、緩みの少ない流れとなった。中団で構えたダノンファンタジーとサウンドキアラは、前を射程に入れながら直線へ向く。
最後に抜け出したのは、外から脚を伸ばしたダノンファンタジーだった。内からサウンドキアラも鋭く迫ったが、僅か4分の3馬身差でダノンファンタジーが先着。勝ち時計は1分20秒7。
この年のスワンSは、阪神1400mという舞台で折り合い、位置取り、瞬発力を高い水準でまとめた一戦となり、さらには、牝馬2頭の完成度と、3歳馬の粘り、そして有力馬の明暗が凝縮されたレースであった。

2歳女王が示した1400m巧者としての完成度
ダノンファンタジーにとって、1400mという距離は特別な意味を持つ。2歳時にはファンタジーSを制し、阪神ジュベナイルフィリーズも勝利。もともとマイルGⅠを勝っている実績馬だが、年齢を重ねるにつれて、より短い距離で持ち味を発揮する場面が増えていた。
2021年のスワンSでも、その適性は明確だった。スタート後に無理をして前へ行くのではなく、中団の馬群で脚をためる。ポジションは7番手あたり。前にホウオウアマゾン、マイスタイル、セイウンコウセイらがいて、ペースが流れるなかでも、鞍上の川田将雅騎手は慌てずにリズムを守った。
阪神芝1400mは、単純なスピードだけでは押し切れない。内回りコースで直線は長すぎず、道中の位置取りと仕掛けのタイミングが重要になる。前が止まらなければ届かず、早く動きすぎれば最後は甘くなる。ダノンファンタジーはその難しいバランスを保ち、直線で進路を確保すると、前を行く馬たちを一完歩ずつ捕らえていった。
上がり3ハロンは34秒5。数字だけを見れば極端な切れ味ではないが、このレースの価値は、速い流れを追走しながら最後まで脚を使い切った点にある。
逃げたホウオウアマゾンが3着に粘ったことからも、前が総崩れになったレースではない。その中で差し切ったダノンファンタジーの内容は、1400m重賞における完成度の高さを示すものだった。
同馬はこの勝利で重賞6勝目を飾った。阪神ジュベナイルフィリーズを制した2歳女王が、5歳秋になってもなお重賞戦線の中心で戦えることを証明したのである。
クラシック世代の華やかなイメージだけではなく、距離適性を見極めながらキャリアを重ねてきた2歳女王としての強さが、このスワンSには表れていただろう。
サウンドキアラの復調気配とベテラン牝馬の底力
2着のサウンドキアラも、2021年スワンSを語るうえで欠かせない存在である。6歳牝馬として迎えたこの一戦で、5番人気ながら勝ち馬に4分の3馬身差まで迫った内容は、ベテラン牝馬の底力を示すものだった。
サウンドキアラは道中、ダノンファンタジーとほぼ同じ中団の位置で脚をためた。4コーナーではダノンファンタジーのすぐ近くに位置し、直線では内を突いて伸びる形を選択。外から勢いよく抜け出したダノンファンタジーに対し、サウンドキアラはロスを抑えた立ち回りで馬群の内を進み、最後まで脚を伸ばした。
上がり3ハロンは勝ち馬と同じ34秒5。着差は4分の3馬身だったが、内容としては決して見劣りしない。むしろ6歳秋というキャリアを考えれば、1400mの速い流れに対応し、直線で再び加速できた点は高く評価できる。
サウンドキアラは、2020年に京都金杯、京都牝馬S、阪神牝馬Sを連勝し、ヴィクトリアマイルでもアーモンドアイの2着に入った実績を持つ。牝馬マイル路線で一時代を築いた一頭だが、2021年は勝ち星から遠ざかっていた。その中で迎えたスワンSは、復調を印象づけるレースとなった。
年齢を重ねた牝馬にとって、1400mのGⅡは決して楽な条件ではない。それは若い馬のスピード、そして多頭数の立ち回り。すべてに対応しなければ上位には届かないからである。
サウンドキアラはその条件をクリアし、勝ち馬に迫る脚を見せた。惜しくも勝利には届かなかったが、かつて重賞を連勝した実力がまだ衰えていないことを示す2着だったといえるだろう。
このレースで牝馬が1、2着を占めた意味は大きい。スワンSはマイルCSへ向けた前哨戦であると同時に、スプリント寄りのスピードとマイル寄りの持続力が交わる舞台でもある。ダノンファンタジーとサウンドキアラは、その中間的な適性を持つ牝馬として、完成度の高い走りを披露した結果となったのだ。

人気馬が上位を占めた一方で見えた明暗
2021年スワンSは、上位人気馬が一定の結果を残したレースでもあった。1着ダノンファンタジーは1番人気、2着サウンドキアラは5番人気、3着ホウオウアマゾンは3番人気、4着ルークズネストは2番人気。人気上位の馬たちが、おおむね力を示した結果といえる。
特に3着ホウオウアマゾンの内容は、敗れてなお存在感があった。3歳馬ながら古馬相手に先手を奪い、直線でも簡単には止まらなかった。前半から自らレースを作り、勝ち馬から0.2秒差。3歳秋の時点で、古馬GⅡの1400m戦でも正攻法の競馬が通用することを示した。

4着のルークズネストも、2番人気として馬券圏内には届かなかったものの、3着ホウオウアマゾンとはハナ差。道中は中団後方寄りから脚を伸ばし、最後は上位争いに加わっている。結果だけを見れば4着だが、勝ち馬とは0.2秒差。能力を否定する内容ではなく、わずかな位置取りや進路の差が着順に表れた一戦だった。
一方で、明暗が分かれた馬もいる。4番人気のクリノガウディーは15着。中団後方からの競馬となったが、直線で伸び切れず、上位争いには加われなかった。高松宮記念やスプリント路線で見せてきたスピードを考えれば、1400mの流れに乗り切れなかった印象が残る。
また、7番人気ギルデッドミラーは11着、9番人気フィアーノロマーノは16着、前年覇者カツジは最下位18着に敗れた。いずれも実績や能力を持つ馬たちだったが、多頭数の阪神1400mでは、流れに乗るタイミングを逃すと巻き返しが難しい。
中団から後方に構えた馬でも、ダノンファンタジーやサウンドキアラのように加速できる位置と進路を確保できなければ、上位には届かなかった。
このレースは、人気通りに決まった単純な一戦ではない。上位人気馬が力を示した一方で、同じように実績を持つ馬でも、位置取り、進路、距離適性によって大きく明暗が分かれた。1400m重賞の難しさが、着順の細部に表れていたといえよう。
2021年スワンSが残した意味
2021年のスワンSが残した意味は、いくつかの視点から見ることができる。
第一に、ダノンファンタジーが1400m重賞の巧者として完成度を示したことである。2歳女王として早くから高い評価を受けた馬が、5歳秋になってもなお重賞を勝ち切った事実は大きい。単なる早熟ではなく、距離や条件に合わせて強さを発揮し続けた競走馬として、この勝利はキャリアの中でも重要な一戦となった。
第二に、サウンドキアラが復調気配を示したこと。6歳牝馬ながら、勝ち馬と同じ上がりを使って2着に入った内容は、ベテラン牝馬の底力そのものだった。牝馬同士の限定戦ではなく、牡馬混合のGⅡで示した走りである点にも価値があった。
第三に、3歳馬ホウオウアマゾンとルークズネストが古馬相手に通用する走りを見せたことにある。ホウオウアマゾンは逃げて3着、ルークズネストはハナ差4着。どちらも勝ち馬とは0.2秒差であり、世代のスピードと完成度を示した。
そして何より、このレースは阪神芝1400mという舞台の奥深さを示した一戦だったことである。速さだけでは押し切れず、末脚だけでも届かない。前半から流れに乗り、直線で確実に脚を使う総合力が求められる。その条件をもっとも高いレベルで満たしたのが、ダノンファンタジーだった。
牝馬の切れ味、3歳馬の勢い、実績馬の明暗──2021年スワンSは、秋のマイル王決定戦へ向けた前哨戦でありながら、それ自体が一つの完成された重賞として記憶されるべきレースだろう。

写真:RINOT、@pfmpspsm
