三段跳びの先に輝いた原石 - 2023年京都ジャンプS

京都競馬場には、1年でたった2回しか使われないコースがあることを、聞いたことはあるだろうか。

年に二度だけの舞台

そのコースは京都競馬場の向こう正面から3コーナーに入る際に分岐する、大障害コースのことを指す。かつて京都競馬場では、京都大障害という障害競走の重賞が行われていた。この大障害コースは、当時の名残を今に残すものとなっている。この大障害コースの名物といえば、バンケットであろう。バンケットといえば、馬場を斜めに横切る襷コースに設定されたアップダウンのある坂道が印象に残りやすいが、京都競馬場のそれは他とは一線を画す。理由は、バンケットの形状にある。京都のバンケットは、台状の構造物のような形なのだ。「飛び上がり飛び降り台」や「三段跳び」とも称される高さ約80cmのバンケット障害を、人馬が息を合わせて乗り越えていく。それがまさに京都競馬場で開催される障害競走のひとつの魅力と言って良いだろう。

もちろん、このバンケット障害の攻略は簡単ではない。特に台から「下りる」という動作は競走馬にとってはイレギュラーな動作で、非常に難易度が高いものとなっている。だからこそ、バンケット障害が勝負の流れを動かすこともある。ただし、バンケット障害がレースのすべてではない。この難所で粗削りな飛越を見せたエコロデュエルが、私にそれを教えてくれた。

新たな勢力図の中で

開設100周年を前に、2020年秋から約2年5か月にも渡る長期改修に入っていた京都競馬場。その間、京都の名前が付く障害重賞の名物であるバンケット障害を馬が越えることはなかった。そして久しぶりにバンケット障害が我々の前に姿を現した時、障害競走の情勢は大きなうねりを見せていた。2022年の中山大障害を最後にオジュウチョウサンが現役を引退。ニシノデイジーやイロゴトシらがJ・GⅠを制したものの、新たな勢力図には、まだ筆が入る余地があった。

秋の重賞戦線も後半へと差し掛かり、陣営やファンの意識が年末の大一番へと向かう頃。晴れ模様の京都競馬場には12頭の障害競走馬たちが集まっていた。その中で、5歳の牝馬ながら森一馬騎手とのコンビで障害競走を3つ勝ち、前走の小倉サマージャンプでは人気薄ながら2着に入ったナギサを始めとして、平地・障害の両重賞を制し非常に高い能力を示していたアサクサゲンキらが中心視された。また、2022年の阪神スプリングジャンプ以来の復活勝利を目指すエイシンクリックなど経験値の高いメンバーたちも顔を揃えており、誰が勝ってもおかしくない一戦であった。

その混戦の中で、一頭、目を引く原石があった。弱冠4歳ながら上位人気の一角に食い込んでいたエコロデュエルである。

エコロデュエルが障害競走へ転向したのは2023年の5月。ひとつ年下の世代が、世代最高の栄誉を駆けて走ったその日に、彼は障害未勝利戦を勝利。新たな舞台でおよそ1年ぶりとなる勝利を飾っていた。続く障害オープン戦も勝利し、その後挑んだ阪神ジャンプSでは10着に敗れていたものの、京都ジャンプSでは上位人気の一頭に数えられていた。

バンケットの洗礼

京都ジャンプSの開催当日付で騎手免許を返納することが決定していた熊沢重文騎手に導かれて入場した12頭が、ゲートに収まり飛び出した。スタートしてすぐのいけ垣障害、そして次の水ごう障害を7頭が横一線で越えていく。続く障害を飛越したところでナギサとメイショウハチクがレースを引っ張った。向こう正面では先団にテーオーコンドルも加わり、各馬が大障害コースへと駆けていく。ここに待ち受けるのが、京都競馬場の名物、通称「三段跳び」ことバンケットだ。

各馬がいけ垣を飛越し、バンケットへと向かう。先頭のナギサとテーオーコンドルがほぼ同時に飛びあがると、各馬もそれに続く。有力馬が続々と飛越していく中で、スクーリングでの練習経験はあったといえど、実戦においてエコロデュエルはバンケットに挑戦したことがなかった。飛びあがることはできたが、台の上で急減速してしまい、飛び下りる際にもスムーズさを欠いてしまった。エコロデュエルは着地の時点でやや外に膨れてしまったものの、草野騎手がうまく立て直し、再びリズムを取り戻した。

原石が輝いた日

レースが動いたのは、2周目の向こう正面。出遅れが響き後方に構えていたエイシンクリックが1コーナーから捲りを見せ、先頭を走っていたナギサに追いついたのだ。エコロデュエルや後続馬も徐々に位置を上げ始めるが、3コーナーで先頭に立ったエイシンクリックがそのままの体勢でダートコースを横切り、各馬が直線へとなだれ込む。エコロデュエルはコーナーから直線への切り替わりで一気に位置を上げ、最終障害を先団で飛越。アサクサゲンキ、エイシンクリックが叩きあう中、草野騎手とエコロデュエルは空いていた2頭の間に突っ込んでいった。そのまま鮮やかな差し脚を披露したエコロデュエルが、先頭を競っていた2頭を差しきり、1着でゴール板を駆け抜けた。


この勝利で、エコロデュエルは重賞初制覇を飾り、草野騎手も2020年東京ジャンプS以来の約3年ぶりの重賞制覇となった。その後は中山大障害にも初挑戦。およそ1年半後となる2025年中山グランドジャンプにて、人馬共に初のJ・GⅠ勝利を成し遂げた。

勝利こそ飾ったものの、確かに彼の三段跳びは綺麗なものではなかった。ただ、結果はそれだけでは決まらなかった。多少の失敗があったとしても、他の部分でリカバリーし、最良の結果を手繰り寄せる。それこそ、後の障害王者に繋がる、彼が持っていた最初の輝きだったのかもしれない。

写真:norauma

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