"アザトカワイイ"最強牝馬、アーモンドアイを振り返る。

「名は体を表す」という格言があるが、アーモンドアイはまさにその言葉を地で行くような馬だったと思う。

そもそもアーモンドアイという馬名の意味は目の形のこと。アーモンドのように切れ長でシャープな目頭・目尻の瞳を指し、いわゆる美人に多い瞳の形とされている。要するにアーモンドアイはその名が付けられるくらいに幼いころから美人な馬だったのだろう。

実際のところ、彼女は美人というよりは可愛らしい馬だった。初めて彼女を見たのはシンザン記念の中継だったが、雨の中の道悪馬場で出遅れながらも外から直線一気の末脚で先行勢を撫で斬って勝った。メンコもシャドーロールもドロドロに汚れるくらいだから馬場はかなり悪かったはずなのに、その走りはどこか軽やかさを感じるほど。その様子はまるで雨の日に少女が水たまりにはしゃいで飛び跳ねるかのよう。そんな無邪気さを感じる走りでアーモンドアイは重賞を制した。

だが、それは彼女にとってプロローグに過ぎなかった。この後挑んだ桜花賞では2歳女王で後にGⅠを3勝もするラッキーライラックを相手に堂々と差し切ってクラシック制覇。その軽やかな走りに胸を打たれた筆者は続くオークス、カメラを持って東京競馬場へ向かい、パドックで彼女の登場を待った。あの美しい瞳をどうしてもファインダー越しから見てみたかったからだ。

迎えたオークス当日、彼女は予定通りにパドックにやってきた。すぐ後ろのランドネが外目を堂々と周回しているのに対し、アーモンドアイは内側を回り、そしてキョロキョロしていた。レース前の集中していなければならない局面でキョロキョロするのはよくないが、大観衆に戸惑っているというより、四方八方にいるファンに対して顔を向けているように見えた。そのためファインダー越しに彼女を見ていた筆者はこんなことを邪推した。

「もしかして、カメラに目線をくれてる?」

撮影後に確認すると、アーモンドアイが写った写真は他の馬のものと比べると妙に目線が来ているものばかりが撮れていた。例えばアイドルのステージイベントでは彼女たちはファンのために目線をあちこちに送るが、もしかしてアーモンドアイはそれと同じことをしている?……否、人間ならまだしも、まさかサラブレッドがそこまでできるとは思えないし、ましてやGⅠレースの直前にそんな余裕をかませる馬なんてめったにいない。だから今回は「たまたまアーモンドアイと目がよく合って、いい写真が撮れただけ」と、撮影を切り上げてスタンドに戻った。

さてそのオークスだが、ご存じのように彼女は勝った。パドックであれだけキョロキョロしながら歩いていても勝つのだから大したものだが、その5ヵ月後にはぶっつけで挑んだ秋華賞を難なく制して牝馬三冠を達成。この勢いで今度はジャパンCに出走するという。もちろん筆者も府中へ行った。当然のようにカメラを携えて。
オークス以来、半年ぶりにアーモンドアイと対面するジャパンCのパドック。さすがに今度は集中して歩くだろうと思っていたが……彼女はファンに目線を送るだけでは物足りなかったのか、ペロリと舌を出してポーズを取りだした。その様子はまるで「可愛いでしょ?撮って♪」と言わんばかり。可愛いは可愛いけど、あまりにあざとい。「オマエは吉岡里帆か!」と思わず心の中でツッコんだ。

このジャパンCも彼女は勝った。それも2分20秒6という世界レコードで。過去にもウオッカやダイワスカーレット、ブエナビスタと強い牝馬はいたが、どの馬もレース前から牡馬顔負けの闘志を燃やしていたし、パドックは段違いの集中力で周回していた。だが、アーモンドアイからはそうした熱っぽさは一切感じられない。いつもルンルン気分でパドックを周回し、レースになると風のように駆け抜けていく。そんな軽やかさが同性に嫌われがちなあざといオンナの割に女性ファンから支持された所以だったのかもしれない。ただ強いだけでなく、アイドルばりに可愛く振る舞うのだから、当然人気も出るはずだ。

そして古馬になってからのアーモンドアイも強かった。4歳時はドバイターフと天皇賞(秋)を制したし、現役ラストイヤーの5歳時はGⅠばかりを走って4戦3勝。連覇がかかる天皇賞(秋)を制して誰も超えられなかったGⅠ8勝の新記録を打ち立て、ラストランのジャパンCも勝って記録を9に伸ばした。

思えば最後のレースとなったジャパンCも、彼女の振る舞いは3歳時と何も変わらなかった。後輩の三冠馬であるコントレイルやデアリングタクトがパドックで闘志をメラメラと燃やしている一方で、ルンルン気分で周回し、レースでも一番にゲートを出た。直線でも早めに抜け出して先頭に立って、2頭の追撃を受けることになったがその様子は「後輩相手に胸を貸す」というよりも「早くおいでよ!」と言わんばかり。鞍上のルメールはレース後に「今日はサヨナラパーティー」と語ったが、終始楽しげに振舞っていたアーモンドアイの様子を見ると、レースというよりもパーティーの方が確かにしっくりくる。

ただ強いでなく、可愛くてどこかあざとかった競走馬、アーモンドアイ。果たして彼女の子供たちは将来、どんな感じでパドックを歩くのだろうか。カメラを持ってまたじっくり見てみようと思う。

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