[ウマ娘]「華やかさ」が似合う、強く、逞しく、美しい名牝 - デアリングハート

1.デアリングハートの「華やかさ」

2024年2月4日、Cygamesが手掛けるメディアミックスコンテンツ『ウマ娘 プリティーダービー』の5thイベント東京公演「YELL」にて、ゲームのメインストーリー第2部の情報が初公開された。

メジロマックイーン・ナリタブライアン・スペシャルウィークらを主人公に据えて、主にシニア級(実際の競馬でいうところの古馬)王道路線における活躍・挫折・復活を描いてきた第1部とはうって変わって、ラインクラフトとシーザリオを主軸に、トリプルティアラ路線(競馬でいう牝馬クラシック路線)が描かれるストーリーとなることが予告され、トレーナー(『ウマ娘』プレイヤー)の期待は高まった。

そんな中、ライブ配信を視聴していた私は、多くのトレーナーとは少し違ったところに注目していたかも知れない。それは、PVで明かされた新ウマ娘「デアリングハート」の姿とCVである。

ラインクラフトらが活躍した史実の2005年牝馬クラシック路線において、デアリングハートは明らかに「メインキャラクター」では無かった。

確かにこれまでも『ウマ娘』においてはトウカイテイオーに対するナイスネイチャ、スペシャルウィークに対するキングヘイローなど、クラシック戦線でGⅠ無冠に終わったウマ娘にスポットライトが当てられてきた。とは言えナイスネイチャは京都新聞杯、キングヘイローは東京スポーツ杯と世代限定重賞を制しており、クラシックの注目株ではあった。一方、競走馬・デアリングハートの重賞初制覇は古馬になってから。牝馬クラシックでは「あと一歩の馬」という印象であった。

しかし公開されたデアリングハートの姿は非常に「華やかさ」を感じさせた。公式サイトでも、

みんなから尊敬される生まれついての人気者で、リーダー気質なタイプ。

「デアリングハート」(『ウマ娘 プリティーダービー』公式サイト「Main Story 第2部」、https://umamusume.jp/contents/game/mainstory/part2/)より引用

と紹介されているように、メインキャラクターとしてクローズアップすることを狙ったデザインになっていたのである。CVを務める希水しおさんも、若手ながらミュージカル等の舞台経験も豊富で、高い歌唱力にも定評のある「華のある」タイプの俳優。明らかに「華やかさ」を意識してキャラクター造りが行われている。

──このギャップは何だろうか。

「史実に基づいた表現を心がけたフィクション」として展開されている『ウマ娘』において、デアリングハートが「華やかなキャラクター」となったのは何故か。モデル馬の競走生活を振り返りながら、この点について考えていきたい。

2.素質馬の「あと一歩」

デアリングハートが「華やかなキャラクター」としてデザインされたのは、プロフィールを見ると納得できる。

父サンデーサイレンスは米国二冠馬にして説明不要の大種牡馬。母父ダンジグも北米リーディングサイアーの座に輝いた名種牡馬である。『ウマ娘』のトレーナーにはビコーペガサスの父というと分かりやすいかも知れない。

生まれは社台ファーム、馬主はクラブ法人の社台レースホースとどちらも名門である。管理する藤原英昭調教師は若手ながら既に重賞勝利を収めている気鋭のトレーナーであった(ハートの引退後、エイシンフラッシュやシャフリヤールなどで数多くのGⅠを勝利し、トップトレーナーとなる)。

どこをとっても注目される要素がある「素質馬」の1頭だったと言って良いだろう。

……しかし、そういった「素質馬」が活躍するとは限らないのが競馬の世界。

率直に言って、クラシックトライアル前のデアリングハートの戦績は「悪くはない」という範疇を抜け出せていなかった。2戦目で勝ち上がると阪神ジュベナイルフィリーズで重賞に初挑戦して5着、年明けのオープン競走で3着・6着。勿論2歳GⅠで掲示板に入っているのだから十分な活躍馬だが、名門牧場産の良血馬という期待値からするとやや物足りないところだろう。少なくともこの時期に重賞勝ちを収めていたラインクラフトをはじめとしたライバルたちに比べると、実績に欠ける印象になる。

ところが、デアリングハートはGⅠ戦線で飛躍する。桜花賞トライアルのフィリーズレビューで2着、本番の桜花賞で3着と好走。牡馬との混合戦であるNHKマイルカップでも2着に食い込み、流石は良血、というところを見せる。

ただし、一方で春が未勝利に終わったのも事実。ラインクラフトが、出走した全ての重賞で1着を獲ったことを考えると、「あと一歩」という成績とも言える。

そしてその後、デアリングハートは長いトンネルに入る。夏〜秋は3戦して勝利を収められず、古馬になった翌2006年の春も3戦してエプソムカップの4着が最高着順。この世代はラインクラフトをはじめ、アメリカンオークスを制したシーザリオや秋華賞馬エアメサイアなど粒ぞろいで、デアリングハートは格別に注目される馬とは言えなかった。

3.夏の女王戴冠

潮目が変わったのは札幌競馬場で行われる夏の女王決定戦、クイーンステークスであった。

毎年、実績ある古馬勢と新鋭3歳勢が激突するこのレース。2006年は単勝オッズ3倍台以下が1頭もいない混戦であった。

1番人気は京都牝馬ステークスの勝ち馬・マイネサマンサ、2番人気は中山牝馬ステークスの勝ち馬にして2003年の2歳女王・ヤマニンシュクル、3番人気がデアリングハート。4番人気にフラワーカップ3着でオークスにも出走した3歳馬のブルーメンブラットが続いた。デアリングハートは道中5〜6番手につけてレースを進め、徐々に進出。直線で抜け出すと後続を寄せ付けず、2着のヤマニンシュクルに1.3/4馬身をつけて快勝した。デビュー15戦目での重賞初勝利、勝ち星自体も未勝利戦以来である。ようやくトンネルを抜け出した瞬間だった。

秋初戦となった府中牝馬ステークスも勝利していよいよGⅠ獲りか……となったマイルチャンピオンシップを13着と大敗。翌2007年も府中牝馬S連覇の他はヴィクトリアマイルの3着が最高と、GⅠの壁を破ることは出来なかった。

この頃になるとラインクラフトはこの世を去り、シーザリオとエアメサイアも引退。デアリングハートは姿を消していく同期を尻目に逞しく走り続けた。

4.ダートで見せた可能性

クラブの規定により、デアリングハートの引退は2008年3月と決められていた。エリザベス女王杯を12着に敗れた後、陣営は最後の花道をダートに求めた。引退レースは2月のダート王決定戦・フェブラリーステークス。そこまでに地方の牝馬限定交流重賞を使うローテーションである。米国二冠馬であるサンデーサイレンスと、ダートの活躍馬を数多く輩出したダンジグの血を引くデアリングハートであったが、自身の適性は未知数。血統の持つ可能性に賭けるしか無かった。

そこでデアリングハートは、非凡な才能を見せた。船橋で行われた12月のクイーン賞でいきなり3着と好走するのである。年明けのTCK女王盃では57キロのトップハンデを背負わされるも2着。ラストランとなるフェブラリーステークスは7着だったが、ダート王ヴァーミリアンや快速馬ブルーコンコルドら猛者たちを相手に果敢に2番手を確保し、直線で一度は先頭に立つレースぶりを見せつけた。

ただ、デアリングハートの現役時に牝馬限定交流GⅠであるJBCレディスクラシックはまだなく、牝馬がダートで活躍する舞台は限られていた。

もし時代が違えばデアリングハートは早々にダートに転向し、「砂の女王」として君臨していたかも知れない。最後に可能性を見せて、デアリングハートは第二の馬生を歩み始めた。

5.「強く、逞しく、美しく」

さて、先程の問いに戻ろう。『ウマ娘』においてデアリングハートが「華やかなキャラクター」となったのは何故か。

──それはデアリングハートの「逞しさ」を際立たせるために敢えて「華やかさ」を持たせたかったからではないだろうか。

「素質馬」が期待通りに活躍することは難しい。名門牧場で生まれた良血馬、しかも名門クラブでの募集となれば期待は高まる。しかし、このような「素質馬」であっても結果を出し切れずに引退することとなった例は、枚挙にいとまがない。デアリングハートも、3歳時は未勝利に終わった。しかし、デアリングハートはクラブの規定で引退する6歳まで、大きな離脱なくコンスタントに走り続けた。大きなタイトルを獲ることだけでなく、定められた現役生活を全うすることも競走馬の大切な役割である。

しかもデアリングハートはGⅠ戴冠こそならなかったが、重賞3勝かつ芝とダート両方で実績を残し、総獲得賞金は同期のオークス馬シーザリオを上回っている(デアリングハートが2億7486万2000円、シーザリオが2億7443万3400円)。

「逞しい」競走馬は「美しい」。デアリングハートを「華やかなキャラクター」とすることに、そのようなメッセージ性を感じるのである。

デアリングハートの初仔・デアリングバードは引退後に長谷川牧場に繋養され、シーザリオ産駒のエピファネイアとの間に一頭の牝馬を産んだ。そう、デアリングタクトである。デアリングタクトが無敗で牝馬三冠を成し遂げた時、関西テレビで実況を務めた吉原功兼アナウンサーは「強く、逞しく、美しく」と称えた。この言葉はデアリングハートにも相応しいのではないか。

強く、逞しく、美しいデアリングハートには、華やかさが似合う。デアリングハートのキャラクター性に、競走馬の多様な在り方の表象を見る思いがする。

写真:Horse Memorys

開発:Cygames
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