
東京新聞杯の週になると思い出す、石橋脩騎手の飛躍の始まり
東京新聞杯の週が近づくと、テレビの前で見たあのレースを思い出す。2012年、寒さの残る2月の東京競馬場で、ガルボが差し切り勝ちを決め、石橋脩騎手が飛躍の第一歩を刻んだあの日だ。
2012年の東京新聞杯が行われた2月5日は、筆者が結婚して間もない頃だった。競馬ファンにとって、結婚や同棲は競馬ライフを左右しかねない一大事である。なにせ、土日の中央競馬開催に合わせた生活スタイルが求められるからだ。我が家のように夫婦どちらかだけが競馬ファンの場合、さまざまな工夫が必要になる。
私が取った手段は「イケメン騎手で興味を持ってもらう」ことだった。
当時はJRAの『UMAJO』プロジェクトも始まったばかりで、女性向けの騎手紹介コンテンツも少なかった。そんな中で妻が興味を持ち始めた騎手の一人が石橋脩だった。今のようにUMAJOサイト内に「JOCKEY COLLECTION」があれば話は早いのだが、当時はまだない時代。偶然テレビにインタビューが映るシーン、もしくは現地で勝利した際に勝利騎手がターフビジョンに顔写真が映るくらいしかチャンスがなかったと記憶している。
28歳の石橋騎手は、すでに重賞勝利を積み重ねながらも、まだ大きなメディア露出には恵まれていない時期だった。重賞を制したときのインタビューが、彼の端正な顔立ちを拝める数少ない機会だったのである。

少し早い石橋脩騎手からのバレンタインプレゼント
東京新聞杯は冬場のGⅢながら、GⅠ馬を輩出することも多い重要な一戦だ。2012年のメンバーも豪華で、のちのマイルCS馬ダノンシャークやサダムパテック、札幌記念を制するフミノイマージンなどが名を連ねていた。
そんな中、ガルボは単勝8番人気ながら実績のある馬だった。シンザン記念を制し、冬場に調子を上げるタイプ。ニューイヤーS2着からの参戦で、騎乗する石橋騎手にとっては2度目のコンビとなる。競馬ファンの間では「ガルボ」と言えばチョコレート菓子のイメージも強かったが、この時期になると競馬界の「ガルボ」のほうが認知度が上がっていたように思う。
レースが始まると、コスモセンサー、ブリッツェン、ガルボの3頭が先行争い。石橋騎手は一歩引いて3番手につけた。直線に向かうと逃げるコスモセンサーがリードを保ったまま粘るが、ガルボが内から猛追。坂を上がったところで2頭の一騎打ちとなり、残り100mでついにガルボがクビ差かわしてゴール。見事な差し切り勝ちだった。
この日は地上波でもしっかりとレースが放送され、石橋騎手の勝利ジョッキーインタビューが全国に流れた。我が家のテレビにも映し出され、普段は競馬に興味を示さない妻も思わず画面を注視。珍しく馬券を取った筆者と、イケメンを堪能できた妻——ガルボチョコレートではないが、石橋騎手から少し早いバレンタインチョコレートを受け取ったような気がした。

今も飛躍し続けている石橋脩騎手
この勝利をきっかけに、ガルボはその後の重賞戦線でさらに活躍し、ダービー卿CTでは再び石橋騎手とともに勝利を飾る。そして、石橋騎手自身も勢いそのままにフラワーC、ダービー卿CTを制し、4月末の天皇賞・春でビートブラックに騎乗。3冠馬オルフェーヴルを相手に、大逃げからの4馬身差圧勝でGⅠ初勝利を飾った。
あの東京新聞杯がなければ、この飛躍の年はなかったかもしれない。まさに、石橋騎手にとっての「始まりのレース」だったのではないだろうか。
2025年、石橋騎手は40歳を迎えた。通算855勝を挙げ、1000勝も目前に迫るベテラン騎手である。2016年にフェアリーSを制してから2023年まで8年連続で重賞勝利を記録。その間にはラッキーライラックとのコンビでGⅠ阪神JFも制覇している。
競馬場の外でも活躍し、2014年にはTOKIOの「LOVE, HOLIDAY.」が流れるJRAのCMにも登場。その存在感は着実に増していった。

最近では若手のイケメン騎手も台頭してきたが、2024年JBCスプリントでの石橋騎手の勝利ジョッキーインタビューを見た妻は、「やっぱり一番イケメン」と一言。これからも、その華麗な騎乗を見せ続けてほしいと願うばかりだ。
写真:水面