[連載・馬主は語る]種付けは実戦形式の将棋(シーズン3-24)

社台スタリオンステーションの発表に一喜一憂していると、続いて優駿スタリオンステーションから2024年度の種付け料が発表されました。優駿SSには、ヘニーヒューズやエスポワールシチー、モーニン、ミスターメロディ、シルバーステート、アジアエクスプレスなど、ダートに実績のある種牡馬が勢ぞろいしています。こちらは大幅な種付け料のアップダウンはありませんでしたが、ウエストオーバーやオナーコード、そしてジュンライトボルトの3頭の新種牡馬が導入されたことが大きな話題でしょうか。

2024年は海外の大レースを制した名馬たちが、来年度から続々と日本でスタッドインします。欧州からは2021年の英ダービーを勝ったアダイヤ―(父フランケル)を筆頭に、今年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスを制したフクム(父シーザスターズ)、2022年の愛ダービー馬であるウエストオーバー(父フランケル)、米国からはホイットニーステークスを制したオナーコード、シガーマイルハンデキャップの勝ち馬シャープアステカなど。ディープインパクトとキングカメハメハの産駒がターフを去り、群雄割拠の種牡馬時代となったことで、次のリーディングサイアーの座を目指し、種牡馬たちが導入されてきているのです。

優駿SS入りするオナーコードの種付け料が気になっていましたが、180万円と絶妙なところを突いてきました。250万円ぐらいかと思っていましたので、個人的にはお得感が生まれます。実はオナーコードも血統表を見てもらえば分かるとおり、母の父にストームキャットの血を持っていますし、父エーピーインディはシニスターミニスター、パイロ、マジェスティックウォーリアーなど、その血を引く馬たちは日本のダート競馬で水を得た魚のように走る系統です。しかも、曾祖母には僕が競馬を始めた1990年初頭の時代に一世を風靡した名牝中の名牝セレナズソングがいます。セレナズソングにミスタープロスペクター、ストームキャットを配合して生まれたのがオナーコードの母セレナズキャットですから、良血の中の良血ですね。これだけの良血馬を自分の繁殖牝馬に配合できるだけで嬉しいと思ってしまいます。

オナーコード自身の馬体を見ると、馬体重こそ分かりませんが、かなりの大型馬なのでないでしょうか。いかにもアメリカの一流馬という筋骨隆々のマッチョな馬体で、全体のシルエットにも伸びがあることからも、ダートの中距離を得意とする産駒を出しそうです。南関東の3冠レースも始まったことですし、ドンピシャな種牡馬をベストタイミングで連れてこられたものだと感心します。唯一の心配材料としては、オナーコードは現役時代に道中はかなり後方からレースを進めて、勝負どころから猛然と差を詰めてくる追い込み型だったことです。おそらく大型馬でフットワークも大きいため、トップスピードに乗るのに時間がかかるタイプだったのではと想像します。そのあたりのダッシュのつかなさというか、スピードに乗るまでに時間がかかるところが遺伝すると、勝ちあぐねたりする産駒が出てくるかもしれません。最後の直線が長い、東京競馬場や大井競馬場などは合っているのではないでしょうか。同じエーピーインディ系のマジェスティックウォーリアーも背中が長く、現役時代は後ろから行くタイプでしたが、産駒はベストウォーリアやプロミスとウォーリアなど先行馬が活躍していますので心配はいらないですね。

それはそうとして、昨年(2023年)に比べて今年はあまりこの馬と決めつけすぎないようにしています。もちろん、満口になるまでに予約をしておかねばならない種牡馬もいるのですが、基本的には繁殖牝馬の排卵のタイミングと種牡馬のその日の枠が空いているかどうかで配合は決まります。こちらがあらかじめ決めすぎても、その通りになる方が少ないのです。せっかく排卵日が来たのに、その日は希望の種牡馬の枠がすでに埋まってしまっていれば、その日は空いている他の種牡馬に変更しなければいけませんし、タイミングが合ったとしても受胎しなければ、また同じことを繰り返さなければいけません。シーズン前半は空いていた種牡馬も、後半になると徐々に混んできて入りにくくなったりして、後手後手に回らざるをえなくなったりもします。配合は全て時の運次第なのです。

この種付けに向かう生産者の感覚を上手く説明するのは難しいのですが、たとえば、昨年までは配合を決めるのは詰将棋を解くようなものだと考えていました。盤面がすでに決まっていて、その形を見て最適な1手を選ぶというもの。ところが、いざ種付けに臨んでみると、詰将棋ではなく、実戦形式の将棋でした。初手はこちらの好きなように駒を動かせるとしても、それに対して相手がどこに次の手を打ってくるのか分からず、打たれてから初めて次の手を考えてまた指す。ひとつの手しか考えていないと、まさかの相手の指し手に対応できず窮地に陥ってしまいます。どんな場面になってもリカバリーできるように、いくつかのパターンを想定しておくことも大切ですし、その都度、臨機応変に対応する思考の柔軟さや瞬間のひらめきも必要ですね。

今年の一局、僕は上手く指すことができるでしょうか。

(次回へ続く→)

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