セレクトセールという言葉を目や耳にするようになると、夏の到来を感じます。昨年まではどこか遠い世界の話のように考えていましたが、今年は少し違って見えてきました。セレクトセールといえば、ノーザンファームや社台ファームなどの社台グループの生産馬、もしくは大手牧場の生産馬しか上場できないのではと僕は考えていましたが、実はそうではないようです。たとえばダートムーアの仔を上場しようと思えばできるのです。

それではなぜ他の牧場の馬たちがほとんど上場されていないかというと、ただ単に埋もれてしまうから。セレクトセールに上場されてくる馬たちは、超がつくほどの良血馬であり、しかも馬体も見栄えがします。なおかつ、たとえばノーザンファームの生産馬を購入すれば、ノーザンファームにて育成までしてもらえますので、馬主さんにとっては一石二鳥であり、もはやブランドなのです。そのようなブランド商品ばかりのセリにおいて、中小牧場の生産馬が多少血統や馬体が良くても、ほとんど目立たないのです。

馬がある程度成長して、馬体ができつつある1歳馬のセールに生産馬を持って行っても、悲しいかな見劣りしてしまいます。それほどにセレクトセール上場馬のレベルは高いという意味です。それであれば、2週間後に日高で行われるセレクションセールに持っていく方が良く見てもらえるはず、と生産者は考えます。セレクトセールで馬が売れずに、主取りになってしまった場合は、オータムセールまで上場できなくなってしまいますから、自分の馬が適切に評価され、最も高く買ってもらえる場所を選ぼうとするのは至極当然のことですね。

一方で、血統さえ筋が通っていれば、当歳のセレクトセールであればチャンスはあるかもしれないという話も聞きました。当歳馬はこの世に生まれ落ちたばかりで、まだ馬体も成長しておらず、どこの馬の骨か分からない中でのセリになります。もちろん、生まれたばかりの時期だからこそ、人間の手が入ってつくられてしまう前の素がそのまま出ているので、見る人が見れば良し悪しが分かりやすいのも確かです。

最近、ほぼ同じ時期に、2人の知り合いにそれぞれ子どもが生まれたのですが、姿形も性格もこれほどまでかと思うほどに全く違うのです。どちらも女の子ですが、ひとりは頭でっかちで、手足が短く、全体的にぷよぷよしていて、ミルクを良く飲んで、基本的にはじっとしているのが好きな大人しい子。もうひとりは手足が比較的長くて、コンパクトにまとまっていて、頭が小さく、ミルクよりも離乳食を良く食べ、多動かと思うほどに動き回っている活発な子。おそらく数年後には、何となく姿形は揃ってきて、どちらも性格は大人びてくるのでしょう。そして大人になる頃には、さらに均質化は進み、多少の違いはあれども、今の幼児期ほどの明確な差は失われてしまうはずです。僕は2人の子どもを交互に見せてもらうことで、生まれたばかりの時期の方が生物的な差異が大きく現れることを身をもって知りました。

当歳馬の評価について、Winchester Farmの代表である吉田直哉氏が「ROUNDERS」vol.4にてこう語ってくれました。

言うまでもなく新生子というのは、持って生まれたものだけを見せます。そこが給餌や運動等で造られた成馬とは違います。分娩後は新しい藁でふかふかになった床に座り母子の様子を観察し、そして子馬が立ち上がろうとする時に補助し、抗体が沢山含まれている初乳を出来るだけ早く摂取させるようにしています。補助により立ち上がったとしても、大抵の当歳は2回目からは自分で立てるようになります。立って、私の方に来てくれるかどうかということも気性を知る上のヒントにします。「三つ子の魂、百まで」の諺は馬の世界でも当てはまるように思います。

──「ROUNDERS」vol.4 「馬を観る」より引用

新生子だからこそ、生まれ持ったものをはっきりと示してくれるということです。この話を吉田氏から聞いたときは、いまいちピンと来ていませんでしたが、今は分かります。見るべき人がみれば、当歳の時期の方が馬の良し悪しははっきりとしているのです。「さすがに走る当歳馬を見極めることは難しいけど、走らない当歳馬は生産者ならば分かる」とも別の生産者から聞きました。

矛盾しているように思えるかもしれませんが、馬がしっかりとつくられてしまっている1歳の段階では見劣りしてしまうけれど、血統がある程度良く、生まれ落ちた姿形が本当に良ければ、当歳のセールの方が1歳のセールに比べてまだチャンスはあるのかもしれません。それでも日高の生産者がセレクトセール(当歳)を避けるのは、人的資源の問題もあります。当歳馬は1頭だけでセリ場まで連れていくことが難しいため、どうしても母馬と一緒に行動しなければいけません。そうすると馬を扱う人間も2人必要となる。中小牧場にとっては、馬を引く人間を2人も出すことが困難であるケースも多く、当歳セールをあきらめざるを得ないという牧場もあるはずです。いろいろ考えてみると、来年生まれてくるダートムーアの仔を無理してセレクトセール当歳に上場させる理由はあまり思いつきませんね。とにかく待つしかないのです。

(次回に続く→)

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