スパツィアーレのことばかりを考えているように見えますが、そうではありません。新しいもの好きではありますが、良いものは古くても大切にします。ダートムーアについては、もうかれこれ1年かけてその配合を考えてきました。彼女にとってはどの種牡馬を迎えるのがベストなのか。ダートムーアも今年で14歳になりますから、繁殖牝馬としては晩年に差しかかろうとしています。たとえ20歳まで受胎・出産ができたとしても、残すところあと4、5頭しかダートムーアの仔を世に出すことはできないのです。大げさなことを言えば、ダイナカールからカーリーパッション、そしてダートムーアへとつながってきた血をこのまま衰退させるも、また繁栄させるも僕の配合次第なのです。1頭1頭が勝負とも言えます。
配合を考えるとき、僕は架空血統表を用います。「架空血統表」と検索してもらうと、いくつかの架空血統表サービスが出てきますが、僕はJBISサーチのそれを利用しています。全体的に見やすいところと、種牡馬の種付け料が記載されていることが良いところでしょうか。生産者にとって種付け料は重要です。まず架空血統表の母(牝馬名)の欄にダートムーアと入力します。次に、配合を考えている種牡馬の名前を入れてみます。するとその配合の血統表が目の前に現れてくるのです。5代前までの血統が全て頭の中に浮かぶような血統マニアであれば、自分の頭の中で架空血統表をつくることができるはずですが、僕はこうして目の前に示してもらうことで、全体のイメージが湧くのです。そういった意味では、将棋の棋譜に似ているかもしれません。プロの人たちは頭の中で駒を並べて将棋ができるそうですが、アマチュアや普通の将棋ファンにとっては、棋譜として目の前にある方が分かりやすいということです。
架空血統表を眺めてみることで、全体の良し悪しを把握することができます。思っていたよりもクロス(インブリード)が強すぎたり、ノーザンダンサーの血が多すぎたり、アメリカ血統に偏りすぎていたりなど、あくまでも主観ではありますが、パッとみた感じで良いと感じることもあれば、あまり好ましくないと感じることもあります。僕はどちらかというとインブリードを好まないので、遠いところにある(5×5とかの)薄いインブリードには目をつぶるとしても、3×4のような近いところにあるそれは意図を持って使わなければならないと思いますし、3×3以下のような濃いインブリードをわざわざ用いる意味はないと考えています。
インブリードに関しては、「ROUNDERS」vol.5に掲載した山野浩一さんの「血統理念のルネッサンス」に書かれていることを妥当としています。
アウトブリードの重要性は決して近親交配の弊害をなくすためではなく、そうした新しい活力の喚起にほかならない。近親交配にマイナスの要素があるのではなく、プラスの面に限界があると考えればよいと思う。近親交配の弊害という考え方はこのようなアウトブリードの重要性を経験的に知ったものの、その説明が困難だった時代に生み出された迷信であろう。
「血統理念のルネッサンス」より
インブリード自体が悪いわけではなく、アウトブリードの方が新しい活力を喚起する可能性が高いということです。つまり、ある特定の種牡馬や繁殖牝馬の血を固定化して強調したい場合はインブリードを用いるべきですが、そうではないのであれば、できるだけインブリードは避けた方が良いということですね。3×4までは良くて、3×3はダメということよりも、意図を持ってインブリードとアウトブリードを使い分けるべきだと思います。これは血統論者ではない立場だから言えることですが、そもそもインブリードには僕たちが思っているほどのメリットもデメリットもありません。活躍した種牡馬と走った繁殖牝馬を掛け合わせると、時代に合った流行の血が濃くなってしまうことがインブリードになるだけの話であって、無理にインブリードを避ける必要はないのです。走った馬同士を配合するとどうしてもインブリードは生じてしまうものです。それよりも種牡馬と繁殖牝馬の馬体のサイズや長さ・短さ、硬さ・柔らかさといった特徴や資質を上手く組み合わせることの方がよっぽど大切です。
架空血統表を眺めながら、どのような産駒が誕生するかを想像し、ニヤニヤする時間は幸せに満ちています。この気持ちばかりは、生産者になってみないと分からないと思いますし、ぜひ生産をしてニヤニヤを味わってもらいたいものです。ホッコータルマエの産駒が活躍すると、架空血統表にダートムーアとホッコータルマエの名を入れて血統表を眺めてみたり、ビッグアーサーの仔が重賞レースで好走するとビッグアーサーとの配合を架空に試してみたりと楽しみは尽きません。お酒が好きな方であれば、酒のつまみにもなるのではないでしょうか。僕はお風呂に入っているときに思い浮かんだ配合を、風呂から上がって架空血統表に打ち込んでみて眺めているうちに、湯冷めしそうになったりします(笑)。配合には無限の組み合わせがあって、どの繁殖牝馬からも名馬が生まれそうな予感がします。どんなサラブレッドも皆良血であるとは言われますが、まさにそのとおりですね。
(次回へ続く→)