「黄金のダート戦国時代」の幕開けを感じさせた、ゴールドドリームの走りを振り返る

1.ダート競馬の「2頭の王者」

私にとって、ダート競馬とは「2頭の王者」と同義であった。
馬券が買える年齢になり、地方交流重賞を含めたダート競馬を本格的に見始めるようになった2010年代半ば、ダートのGⅠ級競走を席巻していたのは、2頭の王者、すなわちホッコータルマエとコパノリッキーであった。

2014年~2015年で見ると、ホッコータルマエもコパノリッキーもGⅠ級競走を5勝ずつしている。ダートと言えばこの2頭であった。だから、ダートGⅠを観戦するときは、「どちらが勝つのか」を予想しながら見ていた。選択肢が限られているという意味では、ダート初心者の私にとって予想を立てやすい環境だったかも知れない。
しかし2015年12月、中央GⅠチャンピオンズカップと地方GⅠ東京大賞典という年末の大一番に出走した2頭は共に連敗。年長馬の活躍も目立つダート競馬とは言え、ホッコータルマエは6歳、コパノリッキーは5歳である。競走生活の晩年を迎えつつあることを改めて考えさせられる年の瀬となった。

「2頭の王者」が去った後、ダート界はどうなってしまうのか。新たな時代を創る馬は出てくるのか。そんなことを考えていた2016年2月、鮮烈な印象を残した馬がいた。ゴールドドリームである。

2.ダービーを目指して

2016年2月に行われたヒヤシンスステークス。
ケンタッキーダービーへの挑戦を表明していたラニも出走していたこのレース、大まくりを見せるラニの姿に圧勝さえ思い浮かんだものの、久々のせいか伸びあぐねる。その中で上がり最速の末脚を見せて快勝した馬が、5番人気のゴールドドリームであった。そこで初めてこの馬のことを認識した私であったが、外から綺麗に差し切ったレースぶりやデビュー3連勝の底知れなさ、コパノリッキーと同じゴールドアリュール産駒ということも印象に残った。何よりも「黄金の夢」という名前が良い。私は、名馬の条件の一つに「名体不離」(名前と有り様が離れがたく結び付いていること)があると考えている。「ゴールドドリームが2頭の跡を継ぎ、次代の王者になる」。そんな「黄金の夢」を思い描いた。

次走に選ばれたのは園田競馬場で行われる兵庫チャンピオンシップであった。ヒヤシンスステークスの快勝を踏まえて単勝オッズ1.3倍の1番人気に支持される。2番人気のケイティブレイブと3番人気のレガーロはいずれも前走で一捻りしている馬。ここで敗けることはないだろうと高を括っていたのだが、兵庫の名手・川原正一騎手を鞍上に迎えたケイティブレイブが見事な逃げを披露。ゴールドドリームは7馬身差の2着に敗れた。騎乗した川田将雅騎手は初の小回りを敗因に挙げたものの、圧倒的な強さを期待していた身としてはやや不安が残る結果であった。

そうした中で迎えたGⅢ・ユニコーンステークス。前走の敗戦を受けて単勝オッズ2.9倍の2番人気と支持を落としたものの、東京ダート1600mはヒヤシンスステークスと同じ舞台であり、園田よりも適性が高いと思われた。レースでは好位につけ、直線で先頭に立ったクリストフ・ルメール騎手騎乗の1番人気ストロングバローズを猛追。完全に一騎打ちの形となり、わずかにゴールドドリームが前に出たところがゴール板であった。

ルメール騎手と川田騎手の火の出るような叩き合いは前月の日本ダービーと同じ。その時は川田騎手騎乗のマカヒキがルメール騎手騎乗のサトノダイヤモンドの猛追を凌いで勝利したが、今回は追う側となって再度川田騎手が勝利。この巡り合わせに「ゴールドドリームもダービーを獲れるのではないか」と期待してしまったのは無理のないことだと思う。

3.ダービーの敗戦、そして復活

2016年のジャパンダートダービーは「3強」の構図であった。ヒヤシンスステークス勝利時のような圧倒的といえる力差は見せられなかったものの、ユニコーンステークスで見事重賞初制覇を飾ったゴールドドリーム。そのゴールドドリームと互角の競馬をしたストロングバローズ。そして、兵庫チャンピオンシップを圧勝したケイティブレイブ。4番人気のキョウエイギアは伏竜ステークスでストロングバローズの5着であり、5番人気の東京ダービー馬バルダッサーレも中央馬相手の実績は不足。「3強」がどのような競馬を見せるかが焦点となるレースと見られていた。

ところが、レースは予想を大きく裏切った。直線に入って2番手のストロングバローズが沈む中、逃げ粘るケイティブレイブを捉えたのは4〜5番手を追走していたキョウエイギア。上がり最速の末脚で4馬身差の圧勝を見せた。ゴールドドリームもほぼ同位置から仕掛けたものの、最後はケイティブレイブとほぼ同じ脚色になってしまい3着。ゴールドドリームは世代の王者になり損ねた。結局の所この馬は強いのか。次代の王者になりうるのか。判断しかねる状況で秋を迎えることとなる。

秋初戦に選ばれたのは武蔵野ステークス。2番人気に支持されたここを前が詰まる不利を受けながらも2着すると、秋のダート王決定戦・チャンピオンシップカップに駒を進めた。しかし、スタートでやや出遅れるとハイペースについていけずに直線で失速。初の馬券圏外となる12着と大敗した。勝利したサウンドトゥルーと2着のアウォーディーはいずれも6歳の「コパノリッキー世代」。世代交代はまだ早いのか、と思わせる敗戦であった。

しかし、明けて2017年、古馬となったゴールドドリームは真価を見せる。巻き返しを狙って出走したフェブラリーステークスは、得意の東京マイル戦であった。課題のスタートも問題なく、中団後ろを追走。直線で一気に差を詰めて先頭に立つと、ベストウォーリアとの叩き合いをクビ差制して勝利。待ちに待ったGⅠのタイトルを手にした。いよいよ「黄金の夢」が叶う。次代の王者の誕生である。そう思える勝利だった。

4.「黄金のダート戦国時代」の幕開け

結果から言えば、私の予想は外れた。

フェブラリーステークス勝利の後、ゴールドドリームは年末までに4つのGⅠ級競走に出走して勝利はチャンピオンズカップ1つのみ。その後も2020年まで現役を続けたが、かしわ記念(2勝)と帝王賞の2つのJpnⅠ制覇に留まった。十分な実績を残したとは言え、ホッコータルマエやコパノリッキーを継ぐような王者の地位を確立することは出来なかった。

しかし、その一方で私はますますダート競馬にのめり込むようになった。どの馬が勝つか分からないからこそ予想は真剣になる。ゴールドドリームを応援しながらも、「この条件ならこの馬が勝つのではないか」と自分なりにレースの見通しを立てながら観るようになった。そのような思い出を振り返ると、ゴールドドリームの勝ったレースよりも敗けたレースの方が印象に残っているような気もする。2018年なら新星ルヴァンスレーヴの強さが光った南部杯や大井巧者オメガパフュームの伝説が始まった東京大賞典、2019年にはクリソベリルによる無敗の王座戴冠を見届けたチャンピオンズカップがあった。2020年のチャンピオンズカップを勝ったチュウワウィザードは、その後ドバイの地で世界に伍した。毎年のように綺羅星の如くスターホースが現れ、レースごとに王者が目まぐるしく入れ替わる、群雄割拠の「戦国時代」であった。

思い描いていた「黄金の夢」は叶わなかった。しかし、その代わりにゴールドドリームは「黄金のダート戦国時代」を連れてきてくれた。この「戦国時代」を観られたからこそ、私はダート競馬ファンになった。ゴールドドリームは、私の人生を変えてくれた名馬である。

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