[対談]漫画『ウマ娘 シンデレラグレイ』製作陣に直撃取材! 主人公・オグリキャップの魅力に迫る!

現在、週刊ヤングジャンプ(以下、YJ)で連載中の『ウマ娘 シンデレラグレイ』。
Cygamesが手掛ける人気コンテンツ『ウマ娘プリティーダービー(以下、ウマ娘)』の完全新作コミックとして話題となっただけでなく、その面白さから競馬ファンや競馬ファン以外から支持を得ている。そんな期待の注目作の主人公は、オグリキャップ。
伝説のアイドルホースを題材に描かれる作品から、目が離せない。

今回は、『ウマ娘 シンデレラグレイ』の脚本担当・杉浦理史さん、漫画企画構成担当・伊藤隼之介さんにお話を伺ってきた。
漫画『ウマ娘 シンデレラグレイ』の制作秘話、さらに本作の題材となった名馬オグリキャップの魅力について伺っていく。

「オグリキャップという超名馬を扱うのは、ある意味必然でした」

──今回、数ある名馬の中からオグリキャップが主人公のモチーフに選ばれました。

漫画企画構成担当・伊藤隼之介さん(以下、伊藤)「世界の競馬史を見渡したとしても、これほどに描きたいと思う馬がいるでしょうか? あるいは世界のスポーツ史全体という規模でも、比肩するもののないドラマ・物語のひとつだと思います。物語として完成されていますよね! 『ウマ娘』というコンテンツにおいて、その枠組みの中でこのオグリキャップという超名馬を物語として扱うのは、ある意味必然だったと思っています」

──オグリキャップを漫画にする、そのきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

伊藤「YJで連載の機会を得られたのは幸運でした。オグリキャップの現役時代を考えると、物語として長尺であり密度が高いですから、アニメだと何クールも使ってしまいます。それが漫画という形でやれそうだ、連載の可能性がある──となって、『これは、やるしかないぞ』と。その後、様々な方にご賛同いただいて、この企画が実現しました。これは、『オグリキャップ』の名前が後押しをしてくれた結果だと思っています。オグリキャップという名前が持っているパワーを、改めて感じました。さらにはYJ側からも久住先生という最高の描き手さんをご紹介いただき、非常に心強く感じています」

──最初の舞台は、地方の笠松です。取材などはいかがでしたか?

脚本担当・杉浦理史さん(以下、杉浦)「笠松、良いところでした! 一度、作画の久住さんや編集者さんと行ったのですが、気取ってなくて、空気も美味しくて。いやぁ、癒されましたね。あとは、タクシーの運転手さんがオグリキャップに詳しかったのも印象に残っています(笑) 特に食事は最高! 安くて美味しくて。夢中になって食べまくりました(笑)」

──笠松町の町長さんからも、作品やウマ娘に対して好意的なTweetがあります。

杉浦「嬉しいですよね! とても有り難いです」

伊藤「ですね! 作品が競馬界に貢献できればと思っているので、そういう意味でも嬉しいです」

──競馬ファンからは「笠松という土地そのものの魅力を再発見」という声も上がっています。

伊藤「我々以上に(作画の)久住先生が入念に取材をされていて、雰囲気などを伝えることを大事にされています。ですから、この作品を読んだ方からそういった感想が出てくるのは、久住先生の取材・画力の賜物かと思います」

「(モチーフとなった馬を)自分自身に『おろして』考えるようにしています」

──本作の主人公・オグリキャップはかなり個性的なキャラクターの『ウマ娘』となっています。

杉浦「まずはCygamesさんのキャラクター設定を踏襲する形で、そこから膨らませていきました」

伊藤「Cygamesさんが元々作り上げていたキャラクター設定は、オグリキャップの魅力がふんだんに詰め込まれています。そこを守りつつ、物語の中で肉付けしていっているつもりです」

──タイトルの「ウマ娘 シンデレラグレイ」に込められた意味とは。

杉浦「これはみんなでアイデア出したんですよね」

伊藤「特に、久住先生が気に入ってます(笑)」

杉浦「生まれの不利を気にせずに地方から中央へ乗り込んで成り上がっていくというのは、まさにシンデレラストーリー。さらにオグリキャップ自身が芦毛というのも相まって『灰かぶり姫』という名前ともかぶるな、と。なかなか妙案だったと思います」

伊藤「これ以上ないほどのシンデレラストーリーですからね。その物語が『ウマ娘』という女性的なキャラクターとして描かれているわけですから、シンデレラというタイトルは今回の作品を表すために取り入れたいワードになったんだと思います。グレイっていうのはオグリキャップ自身の毛色もそうですし、祖父であるネイティヴダンサーの二つ名であるグレイファントム(灰色の幻影)にもかかっていたりします。オグリキャップ自身も、ネイティヴダンサーの隔世遺伝だって言われてたりもしますからね」

──実在した競走馬をモチーフに『キャラクター』を描く際の、工夫はありますか?

杉浦「馬は実際には喋らないですが、本当に自分がその立場だったらどう考えるか、どう感じるか……というのを自分自身に『おろして』考えるようにしています。伊藤さんとのディスカッションでも、『その時ってオグリは本当にそういうこと考えていましたかね?』という話が度々出ます」

伊藤「僕らは『当時性』をとても大事にしています。当時のファンはどういう風にオグリキャップを見ていたのか、陣営はどのようにオグリキャップについて考えていたのか……そういうことを、じっくり考えていきます。この作品ではオグリキャップが喋ってくれるからこそ、当時の雰囲気などをセリフなどに乗せて表現していきたいですね」

──戦績が知られているキャラクター(競走馬)の物語を描くのはなかなか難しそうに感じます。

伊藤「たしかにオグリキャップの物語・伝説は調べればわかります。だからこそ、当時の雰囲気をうまく含んだ作劇にすることで既存の物語に付加価値をつけられると考えています。そこに自信を持ち、軸としてぶらさずにいれば、読者の方々をがっかりさせることにはならないんじゃないかな、と。当時はどんな感じだったのか──オグリキャップが今この瞬間生きているように感じられるような読書体験をして欲しいと思っています」

杉浦「伊藤さんと話していてすごいなって思うのは、彼はその当時の雰囲気まで克明に考えて、『この当時はこうだった』と話してくれるから、頼りになりますね。まさに当時に現役バリバリで競馬を見ていたかのような知識量です」

伊藤「子供の頃から競馬が好きで、小学校の読書感想文もオグリキャップの本で書いたくらいです。その当時のオグリキャップや競馬に関する本はまだあの時代の空気のままでしたから、今はそれが活きていると思います」

──なるほど、当時の雰囲気を現代に蘇らせるというのは意義深いですね。

伊藤「YJでやらせていただきたいと思った理由のひとつが、今YJで大人気の、中国史を描いた名作漫画『キングダム』の存在だったんじゃないかと思います。あれも、登場人物のひとりである『政』が始皇帝になるってみんな知っているじゃないですか(笑) 史実モノの大先輩がいるYJで、ある意味同じジャンルである『シンデレラグレイ』をやらせていただけるのは嬉しいです!」

今後、タマモクロスやスーパークリークなど様々なキャラクターが活躍!?

──競馬ファンの反応は気になりますか?

杉浦「僕は反応はなるべく気にしないようにしていて、Twitterとかは見ないようにしています(笑)。ただ、僕は1人の脚本家として単純にストーリーが楽しくなるように心がけているので、競馬ファンもそうでない方も楽しめるような作品にしたいです。僕のモットーは『毎話佳境!』ということ。」

伊藤「オグリキャップという存在は、競馬を知らない人すら惹きつけるものだと思っています。アニメの時は競馬ファンがどんな風に思ってくれるのかっていうのを気にしていたんですが、オグリキャップの物語についてはそういうことを感じていないですね。『競馬ファンがどう感じるか』よりも、どちらかといえば『競馬ファン以外がどう感じるか』の方に目がいきます。ですから、競馬ファンでない方々の好意的な感想を見かけるたびに嬉しくなりますね。ああ、やっぱりオグリキャップの物語はこうやって競馬ファンの方以外にも喜んでもらえるんだ、と。もちろん、競馬ファンの方々にもオグリキャップという物語を再受容していただいている喜びはあります!」

──中央勢との絡みも楽しみなところです。

伊藤「そうですよね、まぁどこまで話していいか難しいところですけど……概ね史実通りにいきますから、タマモクロスやスーパークリークをはじめとした様々なキャラクターが出てくるはずです。 その辺りは、今後の展開をお楽しみにしていただけたらと思います」

──レース描写が非常にアツいです。競馬ファンとして、心が揺さぶられます。

杉浦「それはもう、久住さんの画力によるものです! もちろん僕も脚本として書いてはいますけど、その100倍以上の良いデキに、久住さんが仕上げてくれています。あとは、過去の名作を読んでレース表現っていうのを研究していますね。大事なのは、先ほども言いましたけど馬を自分の中に『おろしてくる』というか、そのときその馬は心の中でどう思っていたんだろうっていうのをしっかりと考え抜くことです。当時のレースを何十回も見返して、今度はこの馬の気持ちで、今度はこの馬の気持ちで……と、様々な馬を『おろし』ます(笑) だからこそ、もうちょっと当時の映像のカメラワークは「ここを映してほしかった!」みたいなのは毎回思ってます。今なんでここ映してるの!みたいな(笑)」

伊藤「杉本清さんがカメラマンの指示する実況みたいにね。(96年阪神大賞典で)『今日は勝っても負けてもナリタブライアンです』って仰るような感じ(笑)」

杉浦「漫画的にはまだまだ先の話にはなりますが、88年毎日王冠のオグリキャップなんか、すごい走り方しているんですよね。最後の4コーナー回ってから、ギュインって。急ブレーキかけるようにしてから大外にいったりして。あの部分なんかは、もうちょっとちゃんと映してくれよって思う筆頭かもしれない(笑)」

──本当に何度もレースを見返しているんですね。

伊藤「オグリキャップのレースってこの仕事で何百回も見ているんですが、見れば見るほど面白いのがスゴい。見ていると、オグリキャップ自身が何か考えているように感じられてきます。仕掛けに対して鋭い反応の時もあれば、そうでもない時もあるし。精神力の馬とは言われますけど、本当に、今になって見直してもなんというか、こう……競馬そのものについて考えさせられてしまうような馬ですね」

杉浦「そうですね、一戦一戦本当に面白いですよね」

伊藤「物語の主人公としてピッタリだと思います。だって、オグリキャップにはいつも課題があるじゃないですか。レースレベルだとか、古馬だとか、初めてのG1だとか、初めての国際レースだとか……。なんてドラマチックな馬なんでしょうか!」

杉浦「どこを切り取ってもワクワクさせられます。これは本当に漫画向きなポイントですし、まさに『ジャンプ系主人公』って感じですよね!」

伊藤「一体、誰がデザインしたんだ!? っていう馬生です。あのオグリキャップが2回も負けた相手が笠松にいた……なんて、それだけでもすごい話じゃないですか。のちにG1を4勝した顕彰馬が、地元で2度も黒星をつけられているんですよ!? 子どもの時にも、その話を知って『えっ!?』と思いましたもん」

オグリキャップは、背中で語る。

──笠松をはじめとした、地方競馬の魅力といえば?

伊藤「地方競馬を取り巻く環境っていうのはオグリキャップの現役時代と今とで、すごく環境が違っているでしょうね。どっちがいいっていうのはないんですけど、オグリキャップ以外にもライデンリーダーがいて、レジェンドハンターがいて、フジノテンビーがいて……という時代があったというのはすごいことですね。地方から中央へ乗り込み活躍した馬というのは、笠松出身馬だけでも相当数います。地方馬にもパワーがあった時代ですね。ですが、ネット馬券のおかげで経営の方は今の方が良いので、こればかりはなんとも言えないですよね。ただ、殺伐としていながらも夢がある地方競馬時代っていうのは、個人的に結構好きなんですよ。牧歌的な雰囲気というか……馬と人がすごく近い感じが好きです。厩務員さんもすごく近いじゃないですか、地方競馬って。そういう雰囲気っていうのは地方競馬独特のものだと思います。それは今も昔も変わらず地方競馬の魅力だと思います」

──現代のスターホース・アイドルホースの候補と言えば、どの馬でしょうか。

杉浦「コントレイルですね。コントレイルの菊花賞はディープ以来の無敗の三冠馬を楽しみにしていますね。そのくらいベタなことを言っちゃうと何かあれかなと思ってますけど(笑)」

伊藤「オグリキャップたちが走っていた時代における『スター性』と、ディープインパクト出現以降の『スター性』って、非常に対照的ですよね、コントレイルもディープインパクト型のスターホースだと思います。強くて、負けない馬。負ける馬ほど愛されるんだという時代とは、隔世の感を禁じ得ないですね」

杉浦「たしかにかなり違いますよね! オグリキャップは32戦22勝で、10回も負けているわけだから」

伊藤「今のアイドルホースとはそういう形なんでしょうね。別にそれが悪いわけではなくて、競馬が洗練された結果として僕は受け入れてます。……いや、受け入れているというと本音がばれちゃいますけど(笑) もちろん、今のスターホースにも魅力は大いにあると思います。ただ、オグリキャップのようなドラマを見せてくれるようなタイプのアイドルホースは、そうそう出てこないでしょうね。競馬が洗練されたことで、逆に」

──『シンデレラグレイ』の登場キャラクターの中で、オグリキャップ以外だと、お気に入りのキャラクターはいますか?

杉浦「そうですね、……そうだなぁ、誰だろうな……マーチかな。うん、マーチかな。最初のライバルですから、ものすごくかわいいですね、僕の中では」

伊藤「勿論、こうしてお名前を借りている作品なんで、オグリキャップを大事に描こうとはしているのは大前提として、個人的には友達のベルノライトちゃんは愛着持って扱っていますね。オグリキャップのサポーターとしてもそうですし、このあとドラマが待ち構えているキャラクターです。中央までついてきて、これからも長く登場してくれる子です。どんなドラマが彼女に待ち受けているのか、活躍を存分に期待していてください!」

──主人公、ウマ娘・オグリキャップの好きなところは?

杉浦「背中で語るところ、かな。原作のキャラ設定でもそうなってると思うんですけど、あんまり多くを語らないキャラクターなんですよね。まさに、寡黙。文句も言わず、がんばっているアピールもなく、背中で語れるのはカッコいい。その辺はぼくも書く上で気を付けているところでもあります。あんまり多くは語らせないで、カッコよく見せたいです。実際のオグリキャップにもそういうところもあったのかなぁと思っていますし。当時の88年から90年にかけてオグリキャップが連戦しているところなんかは、当時のサラリーマンを勇気付けてアツくさせていたんじゃないかな、と。今この時代にオグリキャップを擬人化したとしても、そういう原点は大事にしたいなと思っています」

伊藤「多分当時のファンはオグリキャップのことをそういう視点で応援していたのでしょうね。先ほども言いましたが、オグリキャップの挑戦というのは、いつも『負けるかもしれない』と言えるだけの理由ができるんですよ。初めての芝、初めての中央、初めての対戦相手、初めての、初めての、初めての……そうした不安要素を全部覆していく馬なんです。いつも挑戦して、それに対する批判とかもあって、ただ黙々とうち返していくように見える。そういう姿が、ウマ娘・オグリキャップのキャラクターと通じるものがありますね。それを含めて、当時性を表現するように、杉浦さんも自分も久住さんも、大事に物語を作り上げていきたいと思います!」

杉浦「ウマ娘のオグリキャップや仲間たちの今後の活躍をご期待ください!」

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