近年は「牝馬の時代」と盛んにいわれ、牝馬が牡馬を負かすことは珍しいことではなくなった。だが、ダートでは少々事情が異なり、まだまだ牡馬優勢と言わざる得ない。牡馬混合のGI/JpnIで牝馬が勝利したのは僅か。
今回は砂で大輪を咲かせたショウナンナデシコをご紹介したいと思う。
根をはり開花の時を待つ
2019年9月にデビューを迎えたオルフェーヴル産駒のショウナンナデシコは、いきなり圧巻の競馬を披露。単勝15.5倍の6番人気と伏兵の一頭に過ぎなかったが、4コーナーで先頭に立つとそのまま押し切り7馬身差の完勝と、いきなり素質の片鱗を見せつけた。だが、続けて挑んだもちの木賞では1番人気に応えることができず、後の関東オークス馬レーヌブランシュの前に4着と敗退する。
続く条件戦も敗れ、一時は芝のレースも試すなどして、次の勝利をつかんだのはデビューから半年後、通算6戦目のことだった。後に大記録を達成する名牝だが、決して若い頃から抜きん出た実力があったわけではない。経験を積み、深く根をはり、今かいまかと開花の時を待っていたのである。
いよいよ近づく本格化の時
2021年の6月、ついにその時が訪れようとしていた。ショウナンナデシコはそれまで6連敗。しかも人気上位に推されての連敗が続いており、そろそろ終止符を……という思いもあったことだろう。松山弘平騎手を背に内の3番手を立ち回ると、直線は上がり36.8という驚異的な切れ味で他馬を置き去りにし、6馬身差を付けて圧勝。これまでの歯がゆい競馬は何だったのかと感じるような圧巻の勝利だった。ここで本格化の兆し見せたショウナンナデシコは1戦を挟んで3勝クラス、OP特別と連勝。いよいよ重賞戦線に加わっていく。
重賞初挑戦となった2022年のTCK女王杯でテオレーマのクビ差2着に入ると、続いてエンプレス盃に挑戦。直線は狭い場面もあったが、内ラチ沿いを鋭く抜け出し、着差以上の強さで重賞初制覇を飾る。素質が開花したショウナンナデシコの勢いはまだまだ止まらない。続くマリーンCでは2番手から持ったまま抜け出すと8馬身差の圧勝。「牝馬同士なら敵無し」という言葉で片付けるには勿体ないような、「衝撃」といえばよいか、「圧巻」といえばよいか……見ていて身震いするような強さを披露した。
ついに花開く才能
陣営もこの勝利には手応えがあったようで、かしわ記念への挑戦を発表。
──とはいえ、冒頭で述べたように牝馬が牡馬に勝つなど容易いことではない。なぜなら、同競走で牝馬が勝利したのは32年前のフジノラッキーが最後。いくら牝馬同士なら力が抜けているとはいえ、厳しい戦いになるのではないか。戦前はそのように評価せざる得なかった。
同年のフェブラリーS2着馬テイエムサウスダンを始め、昨年の覇者カジノフォンテンや、古豪インティ、転入初戦を迎えたタイムフライヤーなど豪華メンバーが揃った一戦。その中にあってもショウナンデシコは2番人気に支持された。
最内枠から好ダッシュでハナを切り、テイエムサウスダンが外の2番手。中央GIでも上位争いを演じた実力馬にびっしりマークされる形になったが、ショウナンナデシコが怯むことはなかった。3コーナー過ぎでテイエムサウスダンがじわっと進出。ナデシコの手応えが怪しくなる場面もあったが、直線でもしぶとく、実にしぶとく食い下がり、最後は1馬身半をつけてゴールに飛び込んだ。
32年ぶりの牝馬Vという歴史的な勝利。
白いナデシコの花言葉は「才能」。開花した花は実に大輪だった。
写真:umanimiserarete