川崎記念。
日本で一番早い時期に行われるJpnIであり、この年のダートグレード中距離路線を占う注目のレースである。このレース、と言うかダートグレードレース全般に言えるが、私に親しみ深い金沢の所属馬がこのような大舞台に乗り込んでいくという事は滅多にない。
金沢がこの時期冬休み中だから出てこない……と言う訳ではない。その証拠に、年初に川崎記念と同じ2100mで行われる地方全国交流の報知オールスターカップは、金沢所属馬も度々参戦している。
2022年から2013年までの10年間で報知オールスターカップに金沢所属馬は10回中8回、8頭の馬が挑んでいる(なお、その8回中5回にジャングルスマイルが出走している)。
一方、川崎記念はと言えば2021年からの10年間で出走は1回。地方全国交流とダートグレードの間にある壁はかくも高い物である。
──その高い壁を乗り越えて金沢の馬が挑んだ2016年の第65回川崎記念。
この年のこのレース、不思議と金沢に縁のある馬が集ったレースだった。
2016年1月27日。冬晴れの川崎競馬場に集った13頭。
その中のただ一頭の金沢所属馬。それが吉原寛人騎手騎乗のグルームアイランド(牡5歳)だった。
金沢所属、と言ってもデビューは門別で2015年の10月まで船橋所属。門別から船橋にかけて12連勝を記録するなど抜群の成績を引っ提げて金沢に移籍。すると移籍2戦目の重賞中日杯でジャングルスマイルを7馬身ちぎって圧勝してみせる。
その勢いで次走報知オールスターカップも優勝、破竹の勢いでここに乗り込んできた。
しかし勢いがあるとは言え、相手の格が違いすぎると見られたかここでは単勝69.1倍の7番人気とだった
その次、単勝341.9倍と大きく離れた8番人気となったのが石崎駿騎手騎乗のサミットストーン(牡8歳)。彼は元金沢所属馬である。
こちらのデビューは中央。ここで準OPまで出世するも頭打ちになり2013年6月に金沢移籍。ここから重賞4勝を含む9戦7勝、負けたのは白山大賞典(5着)と金沢のJBCスプリント(6着)とまさに金沢で無敵の存在となる。その年の重賞中日杯でジャングルスマイルを8馬身ちぎって圧勝したのを最後に船橋へ移籍。2014年の浦和記念を制するなど大活躍を見せるも2015年は勝ちから見放されて再度の浮上を狙っての出走となった。
また、所属はしていないが中野省吾騎手騎乗の笠松のタッチデュール(牝7歳)がMRO金賞、金沢スプリントで金沢の出走歴があり、地方勢は3頭が金沢のダートを踏んでいた。
金沢の縁が絡み合う地方勢。そんなメンバーが挑む川崎記念。
ゲートが開くとサミットストーンがハナを切る。そのサミットストーンを2番手で追走するのが柴田大知騎手騎乗の中央勢マイネルバイカ(牡7歳)。
このマイネルバイカは2015年の白山大賞典で3連覇を狙ったエーシンモアオバーを1馬身半退けて優勝し、初重賞を飾っている。白山大賞典は過去にスマートファルコンなど勝つとその後出世する馬が多い隠れた出世レース。同じ2100mの舞台でその好例に乗るべく二番手追走。
金沢代表グルームアイランドは中団から有力各馬を見ながら追走。タッチデュールは大きく離れた後方集団の先頭を追走。先頭サミットストーン、2番手マイネルバイカの金沢で勝利の経験がある2頭が引っ張り、2周目の最終コーナーまで3番手以下をやや離して場内がどよめく。
しかし、ここから3番手に進出していた馬が一気に前2頭に襲い掛かり先頭に立つ。
そこに大野拓也騎手の鞭に応えた2番人気サウンドトゥルーが迫る。直線の半ばではこの2頭のマッチレース。
そして、その叩き合いをアタマ差制して川崎記念のゴールを先頭で駆け抜けたのは──。
幸英明騎手騎乗、2013年金沢で行われたJBCクラシックを制した1番人気の中央勢ホッコータルマエ(牡7歳)だった。
地方勢も中央勢も何かと金沢に縁のある馬が勇躍したこの年の川崎記念。
マイネルバイカは4着、サミットストーンが7着、一番縁がある金沢代表グルームアイランドが8着、タッチデュールは9着に終わった。
しかし、実はこのレースと金沢の関わりはこれで終わらない。
このレース3着の濱中俊騎手騎乗のアムールブリエ(牝5歳)がその後エンプレス杯、ブリーダーズゴールドカップを制してこの年の秋の白山大賞典に出走、ケイティブレイブの2着に入る活躍を見せた。
金沢唯一のダートグレード白山大賞典が2100mで川崎記念と路線に合っている事、近い年に金沢でJBCが行われた事と様々な条件が重なって金沢がやたらと顔を見せたこの年の川崎記念。
2020年にも金沢でJBCが行われたが、もしかするとこの年のように金沢で走った、あるいは勝った馬が川崎記念に集う年が現れるかもしれない。
その時には金沢から堂々とこの舞台に挑戦する馬が登場していることを祈りたい。