2歳女王戴冠、アーモンドアイとの出会い、低迷期…。感動の復活を遂げた名牝、ラッキーライラック

スポーツでは時々『復活劇』というものが話題になる。
競馬ももちろん例外ではなく、古くはオグリキャップ引退・トウカイテイオー復活の有馬記念や近年ではマカヒキの京都大賞典、ステラヴェローチェの大阪城Sなど、復活劇を演じる馬というものはそれぞれの時代に存在する。

今回はそんな復活劇を遂げた馬の1頭……2歳女王の座から長いトンネルに入り、復活を遂げたラッキーライラックについてご紹介させていただこう。


そもそも競走馬名の元となった『ラッキーライラック』という言葉に聞きなじみがなかった人も多いのではないだろうか。

ライラックの花は、通常4枚の花弁がまとまって1つの花を構成しているのだが、まれに5枚の花弁で1つの花を構成しているものが存在する。
この5枚の花弁を持つライラックの花のことをラッキーライラックと呼ぶのだそうだ。

そんな幸せを呼ぶ花の名前を受けた彼女は、2017年、父のオルフェーヴルと同じ夏の新潟開催でデビュー。その後はアルテミスS、年末の阪神ジュベナイルフィリーズで重賞を連勝し、最優秀2歳牝馬に輝いた。さらに年が明け、牝馬クラッシック前哨戦のチューリップ賞でも快勝。重賞を連勝した彼女は、昨年にGⅠを制した阪神の地で開催される桜花賞に駒を進めた。

 ……だが、好事魔多しとはよく言ったもので。
 ラッキーライラックは、此処で初めて後塵を拝することとなった。

スタートは出遅れ、4コーナーの位置取りは馬群の最後方となった馬がいた。そんな状況にもかかわらず、直線だけでラッキーライラックを含めた15頭を置き去りにし、1と3/4馬身差でGⅠの座に上り詰めた、眉目秀麗の彼女──後に第五代三冠牝馬となり、JRA史上最多となる平地GⅠ九勝を成し遂げた女傑、アーモンドアイである。

同時に、ラッキーライラックの苦難はここから始まった。

次戦の優駿牝馬3着後、GⅠ・GⅡを合わせて5戦走ったものの、掲示板内3回、着外2回という成績に終わってしまう。

白星から遠ざかったまま古馬になり、秋を迎えたラッキーライラック。大敗した秋華賞以来の京都競馬場で迎えるエリザベス女王杯を前に、陣営はひとつの決断を下す。

それは、今まで彼女の主戦を務めていた石橋脩騎手から、短期免許で8年ぶりに来日していた欧州の名手であるクリストフ・スミヨン騎手への乗り代わりであった。

スミヨン騎手といえば、ラッキーライラックの父であるオルフェーヴルがフランスに2度遠征した際にパートナーを勤めていた。父の背中を知る名手に、現状打開の願いは託された。

この年のエリザベス女王杯の上位人気2頭は、若き3歳牝馬。

前走で優駿牝馬を勝利し、およそ5か月ぶりの本番となったラヴズオンリーユーが1番人気。2番人気には桜花賞・優駿牝馬で3着と安定した成績を残し、同じ京都競馬場で開催された秋華賞を勝利したクロノジェネシス。3番人気にはラッキーライラック、4番人気にはスカーレットカラーの4歳勢が支持されていた。

つまり、ファンの見立ては"3歳世代優位"だったのである。その前評判を、彼女は堂々と打ち砕いた。

前年の2着馬クロコスミアが果敢に逃げを打つ中、ラッキーライラックは直線まで中盤で力をためる。そして最後の直線、後続が内側から追い上げてきていた。

混戦となる直線の攻防。先頭のクロコスミア、2番手のラヴズオンリーユーのさらに内側のラチギリギリに、一頭分だけスペースが残されていた。

その隙を、彼女達はとらえた。

スミヨン騎手の鞭に答え、前にいたスカーレットカラーやサラキア、クロノジェネシス、ラヴズオンリーユーらを上がり最速の32.8秒の脚で次々と交していく。
そして、彼女は、堂々と先頭でゴール板を駆け抜けた。

最後の勝利である、チューリップ賞からおよそ1年と8か月。久しぶりとなる勝利の美酒を、彼女はその身で味わったのである。

その後は香港に遠征し、シャティン競馬場の香港ヴァーズで2着。20年初戦の中山記念ではミルコ・デムーロ騎手とのコンビを結成し、1番人気に推された四歳馬ダノンキングリーの2着と好走を続けていた。


ラッキーライラック陣営が次走に選んだのは、大阪杯。

彼女が初めてのGⅠを制した地であり、初めての敗北を味わった地。阪神競馬場芝2000mで施行される春の中距離"最強"決定戦。あの時と同じく、阪神の青々しい芝コースを見守るかのように咲き誇る桜の花々の中、決戦の火ぶたが切られようとしていた。

1番人気は、中山記念でラッキーライラックに勝利していた、19年のダービー2着馬ダノンキングリー。大きく差のない2番人気にラッキーライラック。3番人気には一昨年の有馬記念馬ブラストワンピースが支持され、前走の京都記念で雨が風呂敷る重馬場の中、後続に2と1/2馬身の差をつけて勝利していたクロノジェネシスが続いた。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、無観客での開催となったが、まさに群雄割拠で盛り上がるメンバー構成。G1に相応しい有力馬が顔を揃えた一戦となった。

皆が画面の向こうを固唾をのんで見守る中、ゲートが開く。

各馬が大きく乱れのないスタートを決める中、ラッキーライラックが前に行った。
その横からダノンキングリーがハナを主張し、ジナンボーがそれに続く。クロノジェネシスは3番手につけ、ラッキーライラックはそれに並ぶ形となった。結局ダノンキングリーがハナを取る形で各馬1コーナーから向こう正面へとなだれこんでいく。

ラッキーライラックのこの位置取りは、個人的には意外だった。1600mや1800mでのレースだと、前目で競馬をすることも少なくはなかったが、今回は2000m戦だ。明確な逃げ馬がいないとはいえ、2000mの今回はいつもの中距離戦のように中団あたりで競馬をするものと考えていたからだ。

1000mを越え、各馬3コーナーへ入ろうかというところで、レースが動いた。

後続で足をためていたブラストワンピースが、一気に中団付近まで追い上げてきたのだ。4コーナーで外に回ったクロノジェネシスと馬体を合わせる形で、いざ、勝負の直線へ。

先頭を走っていたのはダノンキングリー。外からはブラストワンピースを競り落としたクロノジェネシスが、内の馬をまとめて交わして先頭に立たんとしている。

だが、ここでもラッキーライラックとミルコ・デムーロ騎手は、僅かなチャンスを見逃さなかった。

 ダノンキングリーがスパートをかけ、ジナンボーがやや後退した結果、2頭の間に狭いながらも隙間が生まれたのだ。
 その隙間をデムーロ騎手の合図に答えながら鮮やかに駆け抜け、粘るダノンキングリー・クロノジェネシスの2頭を振り切ったところがゴール板だった。

観客は残念ながら居なかったものの、あの時出来なかった桜の中でのウイニングランを終え、報道陣の前に姿を見せた彼女の姿は、どこか誇らしげにも見えた。

2歳女王になりながらもアーモンドアイという分厚い壁とぶつかり、低迷期から復活を遂げ、ついには牡馬を相手に中距離のトップとなった姿だった。それはまさに、咲き誇るライラックのように美しかった。

あなたにおすすめの記事