[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]不自由の中にこそ生まれる美しさ(シーズン1-14)

生産者として、僕の配合理論は大きく変わりました。近親交配(インクロス)をできるだけ遠ざけた配合をしようと考えるようになったのです。まずは受胎してくれないと何も始まりませんし、無事に産まれて、育ってくれなければいけません。もちろん、福ちゃんのような病気を持って生まれる馬を減らしたいという気持ちもあります。そのためには、まずは自分の繁殖牝馬の血統構成を良く知り、近親交配(インクロス)を極力避けた種牡馬を選ばなければいけないのです。

昨年から今年にかけて6回連続で不受胎が続いているスパツィアーレは、特にアウトクロスを意識して配合する必要があります。今年の第一候補であったリアルスティールは、サンデーサイレンスの3×4となり、不受胎であったので、今回は種牡馬を変更することにしました。第2候補として考えていたホットロッドチャーリー自身はDeputy Ministerの3×5のインクロス持ちですが、サンデーサイレンスもHail to Reasonの血もを全く有していません。スパツィアーレとの組み合わせでは、5代血統表内は完全アウトクロスであり、それ以降をさかのぼってもわずかにSeattle Slewの6×5とRaise a Nativeの7・7・7・8×5の薄いインクロスがあるのみです。

それ以外には、以前に挙げたこともあるサトノクラウン、ダノンレジェンド、マクフィもほぼアウトクロスです。さかのぼっても、マクフィとサトノクラウンはRaise a Nativeの6・7×5、ダノンレジェンドはRaise a Nativeの6・6×5というインクロスがあるのみ。いずれの種牡馬も種付け料は手ごろです。

続いて、福ちゃんのお母さんであるダートムーア。先日、近親交配(インクロス)の弊害に気づく前に種付けをしに行ったホットロッドチャーリーとの組み合わせがDeputy Ministerの多重クロス(4×4×6)になります。正直やってしまったという気持ちでいっぱいです。ダートムーア自身は受胎率が良いので、たとえ受胎したとしても流産してしまったり、また病気を持って生まれてきたりという事態が起こる確率が高まります。ダートムーアには申し訳ないことをしました。もちろん、近親交配(インクロス)の悪い効果が顕在化せず、無事に受胎して健康に生まれ、インクロスの良い効果だけが生じて、走る馬が誕生するかもしれませんが、それこそ運が良かったということなのです。

もしかすると受胎していない可能性もあるので、次の候補を考えてみると、本当は行きたかったエフフォーリアは、意外にもノーザンダンサーの血は薄いのですが、やはりトニービンの3×5が生じてしまうのが難点です。

ナダルとの組み合わせは5代血統表までは完全なアウトクロスに見えますが、その先をさかのぼってみるとノーザンダンサーの血を2本有しており、ダートムーアとの配合においては5×6が3本と6×6が3本のインクロスが生じます。悪くはないという評価でしょう。

ルヴァンスレーヴも5代血統表までは完全アウトクロスで、さかのぼってみてもルヴァンスレーヴ方の牝系にいるダイナフェアリーの父ノーザンテーストの4×6が1本、ノーザンダンサーが6×7が1本というインクロスの状況です。ナダルと比べると、近親交配(インクロス)はさらに薄い配合ですね。

昨年、種付けの予約をした種牡馬の中では、ダノンレジェンドはノーザンダンサーの5×5と5×6の2本のインクロスになりますが、それ以外にはノーザンダンサーを有しておらず、5代血統表でパッと見た目よりもインクロスの薄い配合です。ナダルよりも薄く、ルヴァンスレーヴよりも少し濃いというところでしょうか。

ダノンレジェンドはヒムヤー系という珍しい父系であり、どの繁殖牝馬と配合しても父系はインクロスにならない強みがあります。ダノンレジェンドの母系にはサンデーサイレンスやキングカメハメハ、トニービンの血は入っておらず、ノーザンダンサーもわずか。だからこそ、おそらく受胎率は高いはずですし、健康に長く走り続ける馬が多いのではないでしょうか。それはインクロスの弊害に無頓着な生産者がどのような繁殖牝馬を持ってきても、インクロスが生じにくい血統構成を自身が持っているからです。ルヴァンスレーヴやナダルが種牡馬として受胎率が優秀だと言われるのも、その血統構成ゆえです。近親交配(インクロス)の弊害という視点で眺めてみると、これまでの不思議が納得に変わり、点と点が線としてつながったような感覚になります。

サンデーサイレンス系の中でダートムーアにベストだと思えたのはイスラボニータです。イスラボニータは母系に一本だけ、ひっそりとノーザンダンサーの血が入っているのみ。完全アウトクロスを考えると、ダートムーアの2番仔であるオークハンプトン(父ネオユニヴァース)はとても良い配合でした。後に述べますが、サンデーサイレンスはノーザンダンサーの血を持たず、しかも母系にもノーザンダンサーの血が入っていません。6歳春の時点で南関東にて5勝を挙げ、3000万以上を稼いでいるように、ダートムーアの仔の中では筆頭格です。ゴールドアリュールやキンシャサノキセキとの配合ですと、ノーザンダンサーの4×5、5×5となり、ややインクロスが生じてしまいます。ノーザンダンサーを血統中に持たないネオユニヴァースやヴィクトワールピサがいない中、サンデーサイレンス系の種牡馬としてはイスラボニータがダートムーアにとっては最適の相手です。

福ちゃんの姉にあたるダートムーアの23の父ニューイヤーズデイもノーザンダンサーの血を1本しか含みませんので、相性は良かったと考えることができます。ニューイヤーズデイは産駒の実績も出始めていますから、もう一度、配合してみても良いかもしれません。

ダノンレジェンドやニューイヤーズデイ以外で、5代血統表の中ではもちろん、その先もインブリードの薄い種牡馬をざっと探してみると、カラヴァッジオやアルアイン、シャンハイボビー、カフェファラオ、マスタリーといった、今までに検討したこともなかった名前が浮かんできました。どの種牡馬も魅力的ですが、ノーザンダンサーの血が薄く、ダートムーアの仔はダート狙いと考えると、シャンハイボビーやカフェファラオ、マスタリーなどは魅力的ですね。

アウトクロス縛り、つまり近親交配(インクロス)を極力避けた配合という条件のもとに種牡馬を選ぼうとすると、かなり絞れてきます。インクロスを許容していたときは、星の数ほどの種牡馬候補が挙がっていたのとは対照的です。エフフォーリアもサートゥルナーリアもイクイノックスもダメなのはとても残念ですが、制限がある中での種牡馬選びもまた難しく、面白いものです。短歌や俳句は決まった字数で詠むからこそ趣があるわけで、不自由の中にこそ自由があるというか、美しさが生まれるのではないでしょうか。

(次回へ続く→)

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