[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]ダートムーアも不受胎(シーズン1-15)

「ダートムーアも受胎が確認できませんでした」と慈さんから電話がかかってきました。悪いことはまとめて報告した方がショックは分散されると判断したのか、さらに慈さんは畳みかけます。「スパツィアーレの腸閉塞はだいぶ良くなってきたのですが、大病をしたこともあってか排卵がきませんね。もうしばらく時間がかかりそうです」

スパツィアーレに続いてダートムーアも不受胎かと思いつつ、ホットロッドチャーリーの子を受胎していなくてホッとしている(オヤジギャグではありません)自分もいました。前回書いたように、近親交配の弊害をきちんと理解する前に慌てて決めた配合であり、デピュティミニスターのインクロスが強くなってしまう(4・5×4)だけに、受胎していたとしても流産や奇形の可能性が高いと反省していたからです。受胎しなくて良かったと思うのは、これで最後にしたいところです。神さまがもう一度チャンスを与えてくださったと思うしかありません。

今回、ダートムーアは昨年同様にイチハツ(1回目の発情)を飛ばし、母胎を少し休めてから種付けに向かいましたが、それでも受胎しませんでした。あくまでも確率論だとは分かっていますが、僕の中ではどれだけ間隔を開けるかよりも、インクロスがあるかどうかの方が受胎率に影響を及ぼすのではと考えるようになりました。

そこでふと思いついたのは、碧雲牧場の繁殖牝馬たちの血統やその産駒の配合はどうなっているのだろうということです。慈さんは、僕の繁殖牝馬ばかりに不受胎や奇形が続いて申し訳ないというか不思議に思ってくれているのですが、もしかすると配合面で違いがあるのではと考えたのです。つまり、僕の繁殖牝馬にはインクロスが生じやすく、碧雲牧場の繁殖牝馬はインクロスが生じにくい、もしくはそれを避けるような種牡馬を配合しているのではないかという仮説です。

そこで碧雲牧場の看板であるトウカイファインやフォーミー、マンドゥラやその産駒たちの血統構成をざっと調べてみたところ、やはりそれほど強いインクロスにはなっていません。トウカイファインはそもそも血統中にサンデーサイレンスの血が入っていませんから、サンデーサイレンス系の種牡馬を配合してもインクロスが生じません。生じたとしてもノーザンダンサーの5×5という程度です。一方、フォーミーは父がアドマイヤマックスですから、サンデーサイレンスのインクロスには気をつける必要があります。産駒の父を見ると、パイロやディスクリートキャット、タワーオブロンドンなど見事にダーレージャパンで繋養されている非サンデーサイレンス系の種牡馬が配合されています。もちろんノーザンダンサーの薄いインクロスは生じていますが、3×4などの強いインクロスは見られません。慈さんは生産者の直感に沿って、意識的にも無意識的にも、強いインクロスの生じる配合を避けてきたのでしょう。

近親交配(インクロス)に関して、僕は肯定論者でも否定論者でもありませんでした。皆が言うほどメリットもデメリットもないのではと考えていました。ただこうしてデメリットの方は身をもって体験しましたので、生産者にとっては、近親交配(インクロス)の弊害は大きいというのが現状の僕の見解です。たとえインクロスが強くても、不受胎や流産、奇形、病気等のリスクを逃れて、無事に競馬ファンの目の前に現れたサラブレッドについては、もしかするとメリットも享受することができているのかもしれませんが、生産者にとっての近親交配(インクロス)は、ほぼデメリットしかないと言えるのではないでしょうか。

僕の繁殖牝馬に限って、不受胎や奇形等の問題が起こってきたのは、おそらくインクロスになりやすい血が多く入っているからだと思います。ダートムーアはサンデーサイレンスの血こそありませんが、ノーザンテーストやデピュティミニスター、トニービンといった一世を風靡した血を内包しています。スパツィアーレについては、サンデーサイレンスが4代前、トニービンが5代前にいますので、どうしてもインクロスが生じやすくなっています。時代をつくってきた流行りの血統といえばその通りですが、いざ繁殖牝馬となると配合に難しさが出てくるのです。インクロスを気にせずに配合するのであれば、それほど問題のある血統構成ではありませんが、もう気づいてしまった以上、アウトクロスを求めると意外にも難しい血統構成に見えてきます。

ダートムーア5代血統表
スパツィアーレ血統表

ダートムーアに関しては来週末まで、スパツィアーレはおそらく来月まで種付けは難しいと思いますので少し猶予はありますが、どの種牡馬にするのか決めなければなりません。当初の予定とは大きく狂ってきましたが、僕の血統観も大きく変わりつつあり、次こそはアウトクロスになる種牡馬を配合して、何とか受胎させてあげたいと思います。そう、ここまでスパツィアーレが不受胎で悩んできたのも、福ちゃんが小眼球症で生まれたのも、すべては僕の血統に対する無知のせいだったのです。

(次回へ続く→)

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