[重賞回顧]23年ぶりの快挙。その裏で繋がった血と人のドラマ~2021年・スプリンターズS~

国内最速の短距離王を決めるスプリンターズS。
2021年は、出走16頭すべてが関西馬という、珍しいメンバー構成となった。

その中身は、春のスプリント王に、久々のGI戴冠を目指すかつての2歳女王。さらには、母仔制覇を目指す馬や、GIでの1着降着から立ち直り、今度こそビッグタイトルを獲得したい馬など、バラエティーに富んだメンバー。ただ、単勝オッズは「三強」の様相を呈していた。

その中で、1番人気に推されたのがダノンスマッシュ。昨年のセントウルSを制し、それが重賞6勝目となったものの、当時はGIまであと一歩の成績だった。ところが、続くスプリンターズSで2着に好走すると、香港スプリントでGI初制覇。さらに、今年初戦の高松宮記念も連勝した。今回は、4月のチェアマンズスプリント(6着)以来、久々の実戦となるが、休み明けは得意な馬。春秋スプリントGI統一に、大きな期待がかかっていた。

2番人気に続いたのは、レシステンシア。

2年前に、阪神ジュベナイルフィリーズをレコード勝ちし、以後も、桜花賞、NHKマイルC、高松宮記念と、GIで2着3回の実績。この秋は、前哨戦のセントウルSを勝利してからの臨戦過程で、久々のGI制覇は間近に迫っていた。

3番人気は、3歳馬のピクシーナイト。

1月のシンザン記念で重賞初勝利を飾ると、マイルの重賞を2戦した後、夏からはスプリント戦へ路線変更。現在、重賞で連続2着も、セントウルSでは、レシステンシアをギリギリのところまで追い詰めていた。3歳馬が勝利すれば14年ぶりで、3歳牡馬ではマイネルラヴ以来23年ぶり。2頭と同様に、大きな注目を集めていた。

以下、母仔制覇を目指すジャンダルム、昨年の高松宮記念を勝利したモズスーパーフレア、そのレースで1位入線しながらも降着となり、今度こそのGI制覇を目指すクリノガウディーが、人気順で続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ミッキーブリランテが少し出遅れたものの、ほぼ揃ったスタート。激化すると思われた先行争いは、モズスーパーフレアのダッシュが早く、あっという間に決着し、ビアンフェが2番手。その後ろに続いたのが、ピクシーナイト、レシステンシア、ダノンスマッシュの三強で、それぞれ半馬身間隔で追走。人気順で三強に続くジャンダルムとクリノガウディーは、ちょうど中団を追走していた。

前半600mの通過は33秒3で平均ペース。先頭から最後方まではおよそ15馬身で、縦長の隊列となった。

4コーナーで、逃げるモズスーパーフレアのリードは1馬身半。2番手のビアンフェと三強までの隊列は依然として変わらず、シヴァージとメイケイエールが、ダノンスマッシュに並びかけようとポジションを上げてきたところで、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、ピクシーナイトが、モズスーパーフレアとビアンフェの間をついて抜け出しを図り、坂の途中で先頭。外からレシステンシアと、内を通ったシヴァージが前を追うも差は詰まらず、ダノンスマッシュも伸びを欠いてしまう。

結局、ピクシーナイトが後続に2馬身という決定的な差をつけ1着でゴールイン。接戦の2着争いはアタマ差でレシステンシアが制し、シヴァージも3着とはいえ、大健闘といえる内容だった。

良馬場の勝ちタイムは、1分7秒1。3歳牡馬の優勝は、大本命のタイキシャトルを撃破したマイネルラヴ以来23年ぶり。開催時期が9月に移行されてからは初の快挙だった。

各馬短評

1着 ピクシーナイト

さほど速くない流れだったからか、それとも短期間で馬がさらに成長していたのか。騎乗した福永騎手も驚く3番手追走から、インぴったりを回り完勝。3歳でスプリント王の座についた。

筆者は、父モーリスが4歳春から良くなっただけに、本格化は来年の高松宮記念以降だと思っていたが、文句なしの内容で完勝。これ以上強くなったらどうなるのかと思わせるような勝ち方だった。

次走は、選出されれば香港スプリントが選択肢としてあがる。
極端な外枠などに入らなければ、好勝負は必至ではないだろうか。

スプリンターズSが12月に開催されていたときは、3歳馬が9年間で4勝したものの、2000年に時期が9月に移行されてから3歳馬で勝利したのは、07年のアストンマーチャンのみ。馬が成長するために、この3ヶ月がいかに大きいかが分かる数字だ。

その壁を打ち破ったピクシーナイトの時代が、スプリント路線に到来する可能性は多いにあり得るだろう。

2着 レシステンシア

セントウルSからの逆転を許し、GIで4度目の2着。枠の差も、少しはあったかもしれないが、今回に関しては完敗だった。また、結果論ではあるものの、スタートしてすぐ、勝ち馬に3番手を譲ったことも微妙に影響したのかもしれない。

パドックでは、本当に毎回よく見せる馬で、安定して力を発揮できるのがこの馬の長所。次走がマイルチャンピオンシップか香港であれば、そこでも注目したい。

3着 シヴァージ

前走は、オープン特別で1番人気を裏切ってしまったが、枠を最大限に活かした吉田隼人騎手の好騎乗で、あわや2着の場面を作った。

進路が確保できるかや、速いペースで引っ張る馬がいるかどうかなど、他力本願の部分もあるが、最後は確実に一足を使えるのがセールスポイント。

シルクロードSに、連覇をかけて来年も出走してきた際は狙ってみたい。

レース総評

前半600m通過は33秒3、後半が33秒8。この後半の600mで、ピクシーナイトとシヴァージは33秒4、レシステンシアも33秒5の脚を使っており、これでは、後方追走の馬はもちろんのこと、中団追走の馬も届かなかった。

勝ったピクシーナイトは、スタートしてすぐレシステンシアを交わして3番手に上がり、インぴったりに進路をとった時点で、ほぼ勝利が確定した。これがスプリント戦での初勝利、そして通算3勝目とは思えないソツのないレース運びだったが、もちろんそれは、福永騎手の好騎乗があってこそだろう。

母の父キングヘイローは、ピクシーナイト以外にも、特に夏競馬から活躍馬が続出。他にも、ヴァイスメテオールやメイショウムラクモ、アサマノイタズラなど、芝ダート、距離の長短など条件に関係なく重賞を勝ちまくり、凱旋門賞に出走したディープボンドも、前走フォワ賞を勝利。さらには、日曜日の夕方に行なわれた盛岡のダービーグランプリでも、産駒のギガキングが優勝した。

そのキングヘイローにデビュー当初騎乗していたのは、若き日の福永騎手。デビュー3年目でともに挑んだダービーでは、緊張もあったか、引っかかってしまい大敗したものの、福永騎手は、直近4年でダービーを3度勝利。当時の苦い経験が活かされていることは間違いないだろう。

そして、スプリンターズSは意外にもこれが初勝利となったが、キングヘイローの孫で勝ったところに、競馬の醍醐味、ロマンがある。

今年のスプリンターズSは、血と人のドラマが存分に詰まった、素晴らしいレースだった。

写真:かぼす

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