サウジアラビアロイヤルCは、主要4場で最初に行なわれる2歳重賞。重賞としての歴史は浅いものの、前身のいちょうステークスを勝ったメリーナイス、エアグルーヴ、メジロドーベル、イスラボニータが、2歳GIや翌年のクラシックを勝利。重賞に昇格後も、2017年から3年連続で勝ち馬が後にGIも制し、出世レースとなっている。
また、昨年勝利したステラヴェローチェも、ここまでGIは勝利していないものの、朝日杯フューチュリティSやクラシックで好走。9月には神戸新聞杯を勝利し、菊花賞の有力候補に名を連ねている。
2021年の出走頭数は7頭で、単勝10倍を切ったのは、同じ勝負服の3頭。中でも、人気は2頭に集まり、わずかの差で1番人気に推されたのはコマンドラインだった。
6月5日。関東で最初に行なわれた新馬戦で、2着に3馬身差を付けて完勝。今回はそれ以来の実戦となるものの、ディープインパクト産駒の良血で、国枝厩舎にルメール騎手というアーモンドアイと同じコンビ。デビュー前から非常に評判の高かった馬で、大きな期待を集めていた。
2番人気はステルナティーア。こちらは、2ヶ月前に行なわれた新潟の新馬戦を同じく3馬身差で完勝し、それ以来の実戦となった。全兄のステルヴィオは、2017年の当レースで2着した1年後にマイルチャンピオンシップを勝利し、このレースの価値を高めた一頭。妹にも、年末のGIや来春のクラシックに繋がるレースが期待されていた。
3番人気に続いたのはスタニングローズ。早くも今回がキャリア4戦目で、前走は新潟2歳Sで5着。父はキングカメハメハで、母の母にローズバドがいる「バラ一族」の出身。2010年のジャパンCなど、GI2勝を挙げたローズキングダムと4分の3同血で、人気2頭に劣らない血統の良さでも注目を集めていた。
レース概況
ゲートが開くと、ウナギノボリが2馬身ほど出遅れたのに対し、ケッツァーが好ダッシュ。そのままハナを奪おうとしたが、外からロードリライアブルが交わし先頭に立った。
ややいきたがる素振りを見せながら、ステルナティーアが3番手を追走。その後にスタニングローズ、コマンドラインと続き、1馬身半差でガトーフレーズ、そして最後方にウナギノボリという隊列になった。
序盤から見た目にも明らかなスローペースで、最初の600m通過は37秒7。その流れを見越したか、コマンドラインが600mを通過する前に早くも動き、一気にロードリアイアブルの後ろ、2馬身差のところまでポジションを上げた。
その後もペースは上がらず、ウナギノボリがポジションを1つ上げた以外は隊列も変わらないまま、1000m通過は1分2秒6。先頭から最後方までおよそ5~6馬身の圏内で、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に向くとそこからは瞬発力勝負となり、坂の途中で、逃げるロードリアイアブルを捉えたコマンドラインが先頭。2番手にステルナティーアが上がり、2頭の差はおよそ1馬身。さらに、スタニングローズとウナギノボリが3番手に上がって、圏内はこの4頭となった。
そして、ゴール前では上位人気3頭が抜け出して接戦となるも、最後まで順位は変わらず、コマンドラインが半馬身差をつけ1着でゴールイン。2着にステルナティーア、クビ差の3着にスタニングローズが入った。
良馬場の勝ちタイムは1分36秒4。1戦1勝の対決に勝利したコマンドラインが重賞初制覇を飾り、次のステップに駒を進めることとなった。
各馬短評
1着 コマンドライン
前走から10kg増え、522kgでの出走。ただ、見た目に太く見せるようなことはなかった。
非常に遅い流れで瞬発力勝負となり、道中ポジションを上げたぶんが最後の差となったが、馬体重などから考えても、実は、持続力勝負のほうが得意ではないだろうか。
同じディープインパクト産駒でも、シャフリヤールのようなキレるタイプではなく、アルアインのイメージ。ダービーよりも皐月賞で強さを発揮しそうだが、果たして、クラシックではどういった活躍を見せるだろうか。
ただ、今回のレースに関してのみ言うと、それほど高く評価することはできない。例えば、次走が朝日杯フューチュリティSで過剰人気になると、頭数がおそらく一気に増えてペースも早くなるため、危険な存在になるかもしれない。
2着 ステルナティーア
上位3頭はいずれもそうだが、勝敗を分けたのは3コーナー前でのポジションの差。
勝ち馬と同様、持っている実力は間違いなく高いものの、こちらも、次走がもし阪神ジュベナイルフィリーズになって人気をしすぎると、危険な存在になるかもしれない。GIの舞台に立つまでに、多頭数の競馬や、淀みなく流れるようなレースを一度は経験したいところ。さらに、馬体面での成長が、もう少し欲しいところではないだろうか。
3着 スタニングローズ
前走はスタートで躓いたものの、今回は問題のないスタート。ただ、隣のケッツァーが逃げる素振りを見せ、前に入られたためにポジションが下がり、それが最後の微差に繋がってしまった。そう考えると、もっとも内容のあるレースをしたのは、この馬だったのかもしれない。
まだ2歳1勝クラスに出走できるため、その条件で直線の長いコースに出てきた際は有力。今年の新潟2歳S組は、下位に敗れた馬でも次走1勝クラスやオープンで好勝負しており、スタニングローズも含め要注目といえる。
レース総評
前半800m通過が50秒0。後半の800mが46秒4と完全な後傾ラップ。この前半800m通過50秒0は、昨年不良馬場で行なわれたレースよりさらに1秒2も遅い。出世レースとはいえども、それほどまでに遅いペースで流れたため、レース内容自体を高く評価することはできない。
勝敗を分けたのは、早目に動いたルメール騎手の好判断による部分が大きい。次走、上位入着馬が重賞やGIで過剰に人気をしてしまうと、凡走する可能性もある。ただ、1、2着馬が持つ能力の高さは疑いようがなく、上述したように、来年のクラシックまでには、厳しい流れのレースや多頭数の競馬を試したいところ。
また、4着のウナギノボリに関しても、スタートをしっかり決めていればもう少し上位3頭には迫れていたはず。この馬も、直線が長いコースの1勝クラスに出走してきたときは、好勝負できるのではないだろうか。
繰り返しとなってしまうが、今年のサウジアラビアロイヤルCの内容自体は、さほど高い評価はできない。ただ、そういったレースであっても、活躍馬が出てくるのが出世レースたるところだろう。
上位入着馬が、次走もGIレベルで高いパフォーマンスを見せたときは、その先、超のつく一流馬になる可能性もある。
写真:shin 1