[地方レース回顧]雨の先に星は見えたか~2021年・MCS南部杯~

JRAではスプリンターズステークスからいよいよ秋のG1シーズン開幕となりました。
地方競馬でも、下半期最初のG1級競走マイルチャンピオンシップ南部杯が、盛岡競馬場1600mにて行われました。

昨年の勝ち馬アルクトスを筆頭に、一昨年の勝ち馬サンライズノヴァ、フェブラリーステークス勝ち馬インティ、北海道スプリント勝ち馬ヒロシゲゴールド、一昨年のかしわ記念勝ち馬ワイドファラオ、今年のかしわ記念でタイム差無しの2着のソリストサンダー、8歳でも走り続ける古豪エアスピネルがJRAから参戦しました。

大井からマイル戦で活躍するワークアンドラブが遠征、そのほか地元勢8頭の16頭立てでの開催。

昨年は稍重馬場での開催でしたが、今年も雨の影響を受けて不良馬場でのレースになりました。

レース概況

大きく出遅れる馬はなく、外からヒロシゲゴールドが、内からワークアンドラブが飛び出してハナ争いに入ります。2頭の後ろにワイドファラオが続き、アルクトスは大外枠から出たなりに先行馬の外側3番手で進めます。

ワイドファラオの後方にサンライズノヴァとソリストサンダーが並んで続き、エアスピネルはその後ろ7番手、インティは更に後方で末脚を溜める競馬。地元岩手勢はインティから5馬身以上離されて後方に続きます。

ワークアンドラブが残り400mで一杯になり、直線は中央勢の争いに。
ハナ争いをしていたヒロシゲゴールドがまずは抜け出しますが、アルクトスが外から脚を伸ばします。
エアスピネルは最内に突っ込み、インティは大外から末脚を繰り出しました。

しかし、残り100mでアルクトスが先頭に変わると、ダイナミックな走りであっという間に2馬身半差をつけてゴールイン。南部杯の連覇達成となりました。

ゴールまで後続を凌いだヒロシゲゴールドが大健闘の2着、ソリストサンダーがその半馬身差3着、インティは末脚があと一歩届かず4着、ワイドファラオが5着、エアスピネルは最内で伸びきれず6着、サンライズノヴァはいつもの末脚が不発で7着に終わりました。

各馬短評

1着 アルクトス

山口功一郎オーナーのTwitterにて、脚部不安から年内はこのレースが最後になることが事前に伝えられていました。追切も軽めでしたが、盛岡競馬場に到着した際の様子を見る限りは非常に艶やかな馬体で、体調の良さが伝わってきました。

昨年に続いて外枠からスムーズに先行し、直線に向くまでほぼ馬なりで上がってくる姿は、まさに昨年のリプレイを見ているかのようでした。

540キロ台の巨体と大きなストライドゆえに、外枠から長く脚を使い切るレースがベストの走り方なので、盛岡競馬場はまさにアルクトスに向いているコースと言えるでしょう。前走のさきたま杯で小回りの1400m戦も勝ち切っていますから、この路線の主役として完成の域に達しているのかもしれません。

来年は脚部の状態を見ての出走になるかとは思いますが、貴重なアドマイヤオーラの後継として、活躍に期待したいですね。

2着 ヒロシゲゴールド

地方交流の重賞回顧記事にもたびたび登場しているヒロシゲゴールドですが、1200mを主戦としている馬が南部杯に登録していたことに驚き、さらには2着にしぶとく粘ったことにも驚かされました。

1600m戦を使うのはこれが初めてでしたが、盛岡競馬場開催の1200m戦クラスターカップには3年連続出走し、2着2回3着1回とコース相性の良さを示していました。

2021年シーズンは掲示板外に敗れたレースが無く、力の要る門別競馬場で北海道スプリントを制して重賞勝ち馬の仲間入りを果たしていますから、今が充実期なのかもしれません。
今年の盛岡競馬場は砂の入れ替えがあり、昨年よりはタイムが掛かる馬場になったことで、本馬の武器である「粘り腰」が活かせたのも好走の要因でしょう。

何より、残り400mあたりから追い続けて最後までヒロシゲゴールドを諦めさせなかった亀田騎手のガッツあふれる騎乗がお見事でした。

3着 ソリストサンダー

昨年の武蔵野ステークス、そして今年のかしわ記念の2着があり、重賞制覇に近いところまで成長中です。
前走は各馬3コーナーからの仕掛け合いになったうえ、後方から追ってきたオメガレインボーに前をカットされてしまい追い切れずに終わってしまいましたが、今回は先行馬を見ながらロスを受けない外側に進路を取ってレースを進めました。

アルクトスをマークし、直線でも追いかける形に持ち込めましたが、アルクトスを上回る末脚は繰り出せず3着まででした。それでも重賞レースで何度も馬券内に入るようになっているので、勝利まであと一歩でしょう。

高柳大輔調教師は開業4年目ですが、今年は帝王賞をテーオーケインズで制している新進気鋭の厩舎です。
人馬共に実力をつけているので、昨年2着の武蔵野ステークスで今度こそタイトルを狙いたいところでしょう。

4着 インティ

フェブラリーステークスを制してG1馬になるまでは逃げで結果を残してきたインティ。
その後は全く勝てなくなるのですが、得意の中京競馬場だと思い出したように馬券内に入り、今年から脚質を追込みに変えるやいきなり35秒台の末脚を繰り出すのですから、不思議な馬です。

おそらく、アクセルを前回に吹かすことが1回しかできないタイプの馬なので、逃げか追込の極端な脚質でのレースが続くはずです。しかし今回も上り最速の35.8秒を出していて、不良馬場で先行有利だったことが悔やまれる結果でした。

敗れたことで次走も人気は無いかと思いますが、出てくるとしたら得意の中京1800mチャンピオンズカップでしょう。過去2回の挑戦では前々で運んで結果を残していますが、今年のインティはどの位置で競馬をするのか注目ですね。

6着 エアスピネル

どうしても、エアスピネルには一言触れておきたいので回顧に加えます。
先日の京都大賞典では、共に2016年のクラシックで走ったマカヒキが実に5年ぶりの復活を遂げ、「次はエアスピネルの悲願のG1制覇か」と期待され、3番人気に支持されての出走でした。

芝では重賞3勝していますし、距離も得意のマイル戦から菊花賞の3000mまで好走してみせるオールラウンダーです。ダート転向後も衰えは見せず、フェブラリーステークスでは0.1秒差2着と8歳になっても古豪健在です。

一瞬の抜け出す脚で勝負する馬なので、抜け出したところを差されたり、ロングスパート勝負では分が悪いところもあります。今回はコーナーの出口で進路を失いかけましたが、その一瞬の脚に懸けての最内勝負を選択しました。
惜しむらくは、エアスピネルが仕掛けたときにはアルクトスは進路を余裕で進んでいたこと、盛岡競馬場のコースは外の方が伸びるコンディションだったのでイン側が不利だったことでしょう。

次戦はどこへ進むのか。
マカヒキはジャパンカップと発表されましたが、エアスピネルもG1制覇を目指して負けずに現役を続けてほしいところです。

レース総評

雨の中のレースで広いストライドを目一杯に伸ばし切るアルクトスの走りは、昨年と同じように伸びやかでした。

しかしながら、今年の方がさらに余裕を持っての勝利だったようにも見えました。

アルクトスの2021年シーズンはこれで終了とのことですが、1200mを主戦にするヒロシゲゴールドはこの結果で距離の融通が利くことが判明し、インティやエアスピネルも衰えを感じず元気に走り切ってくれました。
願わくばサンライズノヴァの唸る末脚も見たかったですが、例年通りであれば次走は武蔵野ステークスなので、叩いた効果を期待しましょう。
ワイドファラオはワンペースで行っての1400m戦がベストなので、南部杯からJBCスプリントに向かうのであれば侮れない存在かもしれません。

次のダートG1級競走はmいよいよJBC。おそらく南部杯から転戦する馬たちは1400m戦のJBCスプリントへ向かうことでしょう。G1競走らしいハイレベルなレースが、中央・地方で続きます。

写真:青狸

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