[重賞回顧]一族の悲願成就のとき~2021年・秋華賞~

レース史上初めて、阪神競馬場で行われる2021年の秋華賞。フルゲートは例年から2頭減り、16頭が大舞台に顔を揃えた。

3歳牝馬の限定戦とはいえ、臨戦過程は様々。前走トライアル組はもちろんのこと、オークスからの直行組や、札幌記念を勝って臨む桜花賞馬。そして、条件戦から挑んでくる馬など、実にバラエティー豊かなメンバーとなった。

単勝オッズ10倍を切ったのは4頭。その中で抜けた1番人気に推されたのが、桜花賞馬のソダシだった。

昨年12月、阪神ジュベナイルフィリーズを無敗で制しGI初勝利を飾ると、それ以来の休み明けとなった桜花賞も快勝。オークスで8着に敗れ連勝はストップしたものの、前走の札幌記念で古馬相手に完勝。当年のクラシック勝ち馬が、札幌記念勝利から秋華賞に出走するのは初めてで、そのローテーションと、なにより二冠達成なるかに大きな大きな注目が集まった。

やや離れた2番人気にファインルージュ。1月のフェアリーSで重賞初制覇を飾ると、休み明けの桜花賞も3着に好走。オークスは11着に大敗したものの、秋初戦の紫苑Sで重賞2勝目を挙げた。大敗したのはオークスのみで、それ以外はすべて3着以内と堅実。今回は、フェアリーS優勝時と同じくルメール騎手とのコンビで、最後の一冠奪取に向け、体制は整った。

3番人気はアンドヴァラナウト。父キングカメハメハに、母の母が名牝エアグルーヴ。そして、母の父がディープインパクトという超良血。1勝クラスを勝ってから臨んだ前走のローズSでは、春の既存勢力相手に完勝し、文句なしに出走権を獲得した。血統だけではなく、この馬も安定感が魅力で、ここまでの6戦すべてで連対。名手・福永騎手が、この馬を選んだこともプラス材料で、大きな期待を集めていた。

4番人気に続いたのがアカイトリノムスメ。こちらは、父ディープインパクトに母アパパネという三冠馬同士の配合で、日本競馬史上最高クラスの超良血といっても過言ではない。桜花賞4着から臨んだ前走のオークスは、勝ったユーバーレーベンに1馬身届かなかったものの2着に健闘。今回は休み明けとなるものの、最後の一冠で母娘制覇を成し遂げることは一族の悲願。この馬もまた、並々ならぬ期待を集めていた。

以下、オークス馬のユーバーレーベン、ローズSで1番人気だったアールドヴィーヴルが人気順で続いた。

レース概況

ゲートが開くと、前走に続いてホウオウイクセルが大きく出遅れ。それに対し、前は予想どおりエイシンヒテンが先手を切った。3馬身後ろにソダシ。そして、意外にもアールドヴィーヴルが3番手。以下、スルーセブンシーズ、アンドヴァラナウト、アカイトリノムスメが1馬身間隔で追走し、2番人気のファインルージュは、後方11番手に構えた。

1コーナーから2コーナーへ入るまでには、早くも隊列は縦長となり、先頭から最後方までおよそ20馬身。ただ、前半の1000m通過は1分1秒2と、かなり遅い流れだった。

その後も隊列は大きく変わらないものの、内回りコースに入るあたりから、前と後ろの差が徐々に詰まって、3~4コーナー中間でおよそ15馬身。さらに、残り600m地点で、ソダシがエイシンヒテンの外へ馬体を併せにかかり、その2馬身後ろを追走していたアールドヴィーヴルにもアカイトリノムスメが並びかけ、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、エイシンヒテンをいつでも交わせると思われていたソダシがもたつき、逆に、残り200mで後方勢に捕まりズルズルと後退。一方、前で懸命に粘っていたエイシンヒテンもアカイトリノムスメに捉えられ、それを挟み、内からアンドヴァラナウト、外からファインルージュが末脚を伸ばして、残り100mは3頭のマッチレースに。

しかし、最後はファインルージュの追撃をわずかに抑えきったアカイトリノムスメが1着でゴールイン。半馬身及ばずファインルージュが2着となり、さらに半馬身差の3着にアンドヴァラナウトが入った。

良馬場の勝ちタイムは2分1秒2。オークスからの直行となったアカイトリノムスメが最後の一冠を獲得し、アパパネとの母娘制覇を達成した。

各馬短評

1着 アカイトリノムスメ

予定どおりの直行策で、ついにGI制覇。
兄たちがいまだ叶えられていない一族念願の母仔GI制覇を、先に成し遂げて見せた。

国枝厩舎は、18年のアーモンドアイから4年連続で連対馬を輩出。過去5年、秋華賞で連対した関東馬は、今回2着のファインルージュ以外すべて国枝調教師の管理馬ということになる。

オークスの走りやローテーションを考慮するとジャパンCでも見てみたいところ。もちろん次走がどこであっても、非常に楽しみなことは間違いない。

2着 ファインルージュ

外枠に入ったため、無理して前にいくことができなかった。ただ、早い段階から手綱を押していたところを見ると、理想はもう一列前。もしくは、さらにもう一つ前につけたかったのではないだろうか。

ルメール騎手によると、最後に坂で止ってしまったとのことだが、紫苑Sと秋華賞を見る限り、春から最も成長したのはこの上位2頭かもしれない。

次走が2000m以下、特に1600mであれば、たとえ牡馬が相手でも楽しみな存在。きっと安定して力を発揮してくれることだろう。

3着 アンドヴァラナウト

ついに連対を外したものの、初めてのGIで3着は立派の一言。夏から3戦目にもかかわらず、今回も力を発揮しあわやの場面を作った。

母の母エアグルーヴは、オークス勝利から直行で挑んだ秋華賞で10着と大敗。パドックでカメラのフラッシュに驚いてイレ込んだことと、レースで骨折していたことが原因だが、復帰戦となった4歳夏のマーメイドSからさらにパワーアップ。札幌記念、天皇賞・秋と、3連勝で年度代表馬に輝いた。

また、母のグルヴェイグも、4歳時に3連勝でマーメイドSを制するなど、基本的に、この一族のピークはまだ先にあると思われる。3歳秋で既にここまで活躍しているあたり、この馬も今後が非常に楽しみとなった。

レース総評

前半1000mの通過が1分1秒2で、同後半が1分0秒0。後傾ラップとなったものの、阪神の内回りコースらしく、瞬発力ではなく持久力が問われる展開となった。

ソダシにとっては絶好の展開に思われたものの10着に大敗。
ゲートに顔をぶつけ、歯を折っていたことがレース後に判明した。

ただ、スタート前に、なかなか待避所から出てこないなど、段々と気難しさを見せてきたことは気になる。昨年の阪神ジュベナイルフィリーズでも予兆はあり、この時も枠入りを嫌がる素振りを見せたが、おそらくこれは、現役時に3度も発走調教再審査となった、母ブチコから遺伝したものではないだろうか。

枠入り不良や駐立不良、そして出遅れなどは、不思議と産駒に受け継がれることがある。例えば今回で2戦連続大きく出遅れたホウオウイクセル。その父ルーラーシップも現役晩年は出遅れが目立ち、結果、最後のレースとなった有馬記念でも10馬身ほど出遅れてしまった。他、最近は克服しつつあるものの、同産駒のキセキも、スタートでの出遅れが目立つ時期があった。

今回のソダシは、それに加え前走から斤量が3kg増えていたことにも気付き、レースに向かうのが嫌になってしまったのではないだろうか。ルーラーシップだけでなくゴールドシップもそうだったが、気難しさは年を重ねるに従って顕著になるため、ソダシも今後が非常に心配になってくる。

次走は未定とのこと。少し斤量が軽くなり、距離も短縮となるマイルチャンピオンシップで見てみたいと個人的には思うが、まずは歯の治療や、精神的なケアが最優先事項となるだろう。

一方、上位馬に目を向けると、これで、4年連続オークスからの直行組が秋華賞を制した。いずれも、春のクラシックで3着以内の実績がある馬か、昨年のデアリングタクト以外の3頭は、ノーザンファームの生産馬。また、上述したように、国枝厩舎から4年連続で連対馬が出ており、この2点は、来年の秋華賞でも覚えておきたい。

勝ったアカイトリノムスメは、おそらくさほど得意ではないはずの持久力勝負を制した点が大きい。次走がもしジャパンCとなれば、コントレイルをはじめとする天皇賞・秋組や、ダービー馬シャフリヤールとの対決も考えられるため、それを想像するだけでも楽しみは尽きない。

ソダシも同様だが、血統表を見ると、金子オーナーのかつての所有馬にして名馬中の名馬がずらりと揃っている超良血。これほど、血統のロマンを感じながら所有馬を走らせることができるオーナーは、世界中を探してもほとんどいないだろう。 桜の女王ソダシは敗れたものの、三冠牝馬の産駒として初めてGI馬となったアカイトリノムスメが、一族の悲願を成就させる素晴らしいレースとなった。

写真:しんや

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