[重賞回顧]肉を切らさず、骨を断つ逃げ。充実の5歳馬が重賞2勝目~2022年・中山記念~

96回目を迎えた伝統の中山記念は、1着馬に大阪杯の優先出走権が与えられる。しかし、それ以外にも様々なGIレースの前哨戦となり、古くはクシロキングやサクラローレルが、中山記念と天皇賞・春を連勝している。

一方、近年は3月のドバイミーティングや、4月に香港で行なわれるクイーンエリザベス2世カップの前哨戦にもなっており、ヴィクトワールピサ、ジャスタウェイ、ネオリアリズム、ウインブライトが、このレースと本番を連勝した。

2022年は16頭が顔を揃え、12年ぶりのフルゲート。とりわけ4頭に人気が集まり、メンバー中、唯一のGI馬ダノンザキッドが1番人気に推された。

2歳時に、3戦全勝でホープフルSを制し、明るい未来が約束されたかに思われた。ところが、弥生賞ディープインパクト記念3着から臨んだ皐月賞は15着に大敗。その後、骨折が判明し、復帰した秋は富士Sで4着に敗れるも、マイルCSは3着に好走した。ただ、今回は明らかに実績上位の存在で、前哨戦とはいえ負けられない戦いだった。

2番人気に推されたのがパンサラッサ。3走前、休み明けのオクトーバーSを逃げ切ると、続く福島記念で超ハイペースの大逃げを敢行。結果、4馬身差の圧勝で重賞初制覇を達成した。前走の有馬記念は13着と崩れたものの、重賞2勝目をかけ出走してきた。

3番人気に続いたのがアドマイヤハダル。3歳時には、若葉Sを完勝し皐月賞でも4着に好走した実績がある。その後のダービーは17着に敗れるも、6ヶ月半の休養から復帰したリステッド競走2戦で、5、2着と調子は上向き。今回は、念願の重賞初制覇が懸かっていた。

そして、4番人気となったのがカラテ。1年前、3連勝で東京新聞杯を勝利し重賞初制覇。休み明けの安田記念こそ大敗したものの、以後の4戦は掲示板を確保し、そのうち3戦で3着以内に好走している。管理する高橋祥泰調教師は、これが現役最後の重賞挑戦。その花道を飾ることができるか、注目されていた。

レース概況

ゲートが開くと、ダノンザキッドが伸び上がるようなスタートで出遅れ。後方からの競馬を余儀なくされる。

一方、わずかに好スタートを切ったのが2番人気のパンサラッサ。そのまま先手を奪い、そこへトーラスジェミニとワールドリバイバルが競り掛ける。3馬身差の4番手にコントラチェックがつけ、半馬身差の内にウインイクシードが控えていた。

上位人気馬では、アドマイヤハダルがちょうど中団8番手で、先頭までおよそ8馬身。さらに、そこから4馬身離れた11番手にカラテがつけ、ダノンザキッドはその1馬身半後ろを追走。前は、800mを46秒3で通過し、1000m通過は57秒6のハイペース。最後方のルフトシュトロームとの差は、優に20馬身を超えていた。

しかし、構うことなく逃げるパンサラッサは、3コーナーから逆にリードを広げ始める。すると、残り600m地点で、トーラスジェミニとワールドリバイバルが苦しくなって失速。変わって、コントラチェックとウインイクシードが2、3番手に上がるも、リードを6馬身に広げたパンサラッサは、早くも直線に入っていた。

直線に向いてもパンサラッサの勢いは衰えず、リードはほぼ変わらない。一方、後続に目を向けると、アドマイヤハダルとカラテがコントラチェックを捕らえ、坂下でようやく2番手に進出。さらに、残り100m地点から、目に見えて減速し始めたパンサラッサとの差を懸命に詰めるも、馬体を併せるまでには至らなかった。

最終的には、パンサラッサが後続に2馬身半差をつけ1着でゴールイン。ゴール寸前で2番手に上がったカラテが続き、クビ差の3着にアドマイヤハダルが入った。

良馬場の勝ちタイムは1分46秒4。パンサラッサがまたしても逃げ切り、2つ目の重賞タイトルを獲得。騎乗した吉田豊騎手は、2年ぶりの重賞制覇。そして、管理する矢作芳人調教師は、前夜ステイフーリッシュで制したサウジアラビアのレッドシーターフHに続いての重賞制覇となった。

各馬短評

1着 パンサラッサ

またしてもハイペースで逃げ切り、重賞2勝目。直近4戦で3勝と、非常に充実している。

福島記念もそうだったが、残り100mからはさすがに失速しているものの、今回も競り掛けてきたライバルたちが早々に失速。結果、大敗を喫している。

「肉を切らせて骨を断つ」という言葉があるが、パンサラッサの場合は、そこまで肉を切らせている(大きく失速している)ようには見えない。そのため、今後のレースでもライバルが鈴をつけにいくのは難しそうで、小回りや直線の短いコースでは、常に警戒が必要な存在。香港のクイーンエリザベス2世Cで見てみたい。

2着 カラテ

前走からの距離延長で、小回りコース。さらに、管理する高橋調教師の最後の重賞挑戦ということで、本来であれば、前目につけ積極的なレースをしたくなるところだった。しかし、菅原明良騎手が流れを冷静に判断し、中団やや後ろを追走。先に仕掛けたダノンザキッドを直線でかわし、勝ち馬には及ばなかったものの2着を確保した。

コーナー4回と1600m以外のレースは、およそ2年ぶりだったが問題なし。6歳にして衰えは見られず、むしろ成長している可能性すらある。

3着 アドマイヤハダル

先に仕掛けた分、最後カラテに差されてしまった。しかし、パンサラッサを捕まえることを考えると、こういうレースになるのが普通で、当然、責められるものではない。

前走、先着を許したジャックドールも、おそらく相当な実力の持ち主。2000m前後の距離であれば、どんな条件でも相手なりに走ってきそう。

レース総評

前半800mが46秒3で、11秒3をはさみ、同後半が48秒8。パンサラッサがハイペースで逃げたため、前傾ラップとなった。

特に、2ハロン目の11秒2からは、4ハロン連続で11秒台前半を計時。その後も11秒5-11秒6と続き、残り400mから200mが12秒2。最後は、坂もあり13秒5と失速したが、それでも逃げ切ってしまった。

父ロードカナロアは、母系を引き出しやすいキングマンボ系の種牡馬で、パンサラッサの母父はサドラーズウェルズ系のモンジュー。ある程度ハイペースで逃げても、母系から補完されたスタミナが、最後の粘りに繋がっている。

父キングマンボ系に、母父サドラーズウェルズ系という組み合わせは他に、タイトルホルダーが該当。同馬も、菊花賞では積極的に逃げ、中盤でペースを緩めたあとのラスト1000mを59秒2で乗り切り、結果5馬身差で圧勝している。

また、レーススタイルこそ違うものの、1月のアメリカジョッキークラブCを制したキングオブコージも、同じく父ロードカナロアに、母父サドラーズウェルズ系のガリレオという組み合わせだった。

そのアメリカジョッキークラブCを含め、2021年の12月から中山競馬場で行なわれた芝のGⅡ、GⅢは、計7レース。そのうち、6レースで父キングマンボ系種牡馬の産駒が勝利し、中山記念でも1着から3着を独占した(4着ガロアクリークの母父もキングマンボ)。

第2回中山競馬は始まったばかりで、第3回と合わせ、皐月賞の週まであと14日間開催が行なわれる。もちろん、馬場が変化していくことも十分に考えられるが、特に古馬混合の中距離重賞である中山牝馬S、日経賞、ダービー卿チャレンジトロフィーでは、キングマンボ系種牡馬の産駒に注目したい。

写真:かぼす

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