[重賞回顧]雨上がりに輝いた太陽と師弟の絆~2022年・高松宮記念~

春のスプリント王決定戦、高松宮記念。先行馬有利の短距離戦に、ほぼ毎年フルゲートの18頭が出走するせいか、波乱度が高いレースとなっている。

近年も、2021年こそ人気上位3頭が3着までを独占したものの、2020年は3連単の配当が20万円超え。そして、2019年の同配当は450万円近い払い戻しとなり、GI史上5位の超高額配当だった。

2022年も、フルゲートの18頭が出走。ただ、出走したGI馬3頭は、いずれも2歳のマイルGIの勝ち馬で、スプリントGI勝ち馬は不在。さらに、前日に降った雨の影響で重馬場となり、多くの有力馬が外枠を引いたことも混戦ムードに拍車をかけた。最終的に、単勝10倍を切ったのは3頭で、前年の2着馬レシステンシアが1番人気に推された。

阪神ジュベナイルフィリーズを当時のコースレコードで圧勝して以降、GIでは2着5回と勝ち切れていないが、2021年は、春秋スプリントGIでともに2着。そして、年末の香港スプリントでも2着に好走しており、今度こそ、久々のGI制覇が期待されていた。

2番人気は、4歳牝馬のメイケイエール。レースでは、前の馬を追いかけ過ぎる真面目な性格が災いしていたものの、馬具の工夫などで克服し、前哨戦のシルクロードSを快勝。4つ目の重賞タイトルを獲得し、念願のGI制覇へ向け、機は熟したといっても過言ではなかった。

僅差の3番人気に続いたのがグレナディアガーズ。こちらは、朝日杯フューチュリティSをレコードで勝利したものの、マイル戦では折り合いを欠いて敗れることもしばしば。しかし、年末の阪神Cでは、中団追走から直線で目の覚めるような末脚を繰り出し快勝。それ以来の実戦とはいえ、大きな注目を集めていた。

レース概況

ゲートが開くと、出遅れのないほぼ揃ったスタート。中でも、サリオスの好発が目立ったが、二の脚の早さでレシステンシアがハナを切った。同枠のジャンダルムがそこに絡み、ライトオンキューが3番手。以下、キルロード、レイハリア、ファストフォース、ロータスランドが先団を形成。メイケイエールはサリオスと並んで中団を追走し、グレナディアガーズは後ろから5番手に控えていた。

前半3ハロン通過は33秒4と、馬場状態を考慮すればハイペース。それでも、レシステンシアはジャンダルムに対して、終始、体半分のリードを取って逃げ、そのまま4コーナーを回り最後の直線へと入った。

直線に向いても、内1頭分を開けて逃げるレシステンシアが先頭をキープ。しかし、坂の上りで後続を振り切りにかかるも差は広がらず、残り200mで、ジャンダルムとキルロードが先頭に立った。

ところが、その2頭も後続との差をなかなか広げられず、ジャンダルムの内から、トラヴェスーラとナランフレグが。キルロードの外から、ロータスランドとメイケイエールが追込み、最後は5頭が横一線となるも、最後の最後、グイッと前に出たナランフレグが1着でゴールイン。クビ差でロータスランドが続き、ハナ差の3着にキルロードが入った。

重馬場の勝ちタイムは1分8秒3。重賞で惜敗続きのナランフレグが、大一番で末脚一閃。重賞初制覇をGIで飾り、デビュー16年目の丸田騎手、そして同騎手の師匠で開業30年目の宗像調教師ともに、これが悲願のGI初制覇となった。

各馬短評

1着 ナランフレグ

高松宮記念での内枠は好枠。ただ、1枠の成績は良くなく、追い込むこの馬にとっては、なおのこと好材料ではなかったかもしれない。しかし、道中は後ろから3番手のインに位置。直線でも覚悟を決めたように内を突くと、トゥラヴェスーラとレシステンシアの間の狭いスペースをこじ開け、図ったようにゴール前で差し切った。

ダートの名馬を多数送り出した大種牡馬ゴールドアリュールから、なんと芝のGI馬が誕生。この世を去ってから、早5年。現4歳世代がラストクロップではあるものの、血統登録されたのは4頭。実質上のラストクロップは、現5歳世代といえる。

一方、母系に目を向けると、母の父がブライアンズタイムで、母の母の父がタマモクロス。そして、3代母の半兄は、1980、81年の年度代表馬ホウヨウボーイという、オールドファンが泣いて喜ぶような底力にあふれる血統。これが、当日の道悪馬場や、馬群の中でもへこたれないガッツを生みだし、最後の一伸びに繋がったのだろうか。

6歳ながら成長著しく、これで5戦連続3着内と成績も安定してきた。秋は、スプリンターズSや、香港遠征もあるのだろうか。今後の動向が注目される。

2着 ロータスランド

1年前。1800mのレースで3勝目を挙げた馬が、前走、キャリア2戦目以来となる1400mのレースで重賞2勝目。さらに、今回は初のスプリント戦にも関わらず難なく流れに乗り、2着に好走した。

これまで14戦して、掲示板を外したのは3度。いずれもGIかGⅡで、他5着が1度。あとはすべて2着以内に好走している。

今後はヴィクトリアマイルが目標とのことで、グランアレグリアが去った混戦の古馬牝馬路線。この馬にも、十分チャンスがあるのではないだろうか。

3着 キルロード

単勝225倍の7歳馬がアッと驚く激走。3連単で270万円を超える大波乱を演出した。

2020年の秋から、休みをはさみ3連勝。その後、信越Sで連勝が止まり、再び休養を挟んで前走のオーシャンSは6着。そこから、休み明け2戦目できっちり変わり身を見せた。

「あわや」どころか、ゴール寸前まで本当に勝つのではないかと思うほど見せ場たっぷりの、あまりにも惜しすぎる3着。重賞を勝っていないのが不思議なくらいのレースぶりで、菊沢騎手とともに、今後のブレイクが期待される。

レース総評

前半600mが33秒4で、同後半が34秒9と、完全な前傾ラップ。淀みない流れで先行したほうがいいレシステンシアでも、さすがにこのペースは速すぎたのかもしれない。

もちろん、前日の雨で悪化した馬場が勝負に影響した割合は小さくなく、結果だけ見れば、ナランフレグとキルロードは、ダート戦で初勝利を挙げた馬。そして、2、3着馬はサンデーサイレンスの血を持っていない馬だった。

そんな乱戦でも、レース前から内を突くと決めていた丸田騎手は、実に冷静に騎乗。ナランフレグも、それに応えて怯まずに馬群を割り、最後の一伸びを繰り出した。

かつては、超のつく穴馬を度々勝利に導き、同じ美浦所属の江田騎手と同様「穴男」と呼ばれた丸田騎手。しかし、近年はケガもあってか年間20勝前後に留まり、やや伸び悩んでいた。

ただ、年末のホープフルSで、師匠の宗像調教師が管理するラーグルフに騎乗し3着。意外にも、それがまだ11回目のGI騎乗ではあったものの、自身最高着順。再ブレイクの予感はあった。

そして今回、師弟コンビでとしては初の重賞タイトルだったが、それがともにGI初制覇という、あまりにもドラマチックな勝利だった。ゴール直後から、既に感極まっているような様子が見て取れ、ウイニングランからインタビューに至るまで。そして、宗像調教師の話になると涙が止まらなくなる丸田騎手の姿に、思わずもらい泣きしたファンも少なくなかったに違いない。

ナランフレグの馬名の由来は、ナランがモンゴル語で「太陽」、フレグが「速く飛ぶ馬」という意味だそう。

その名のとおり、前日の雨から一転してレース当日は朝から太陽が顔を出し、その中を、飛ぶように速い末脚を繰り出し、内を突いて追い込んだ馬が見事優勝。それは、関係者だけでなく、見ている側も清々しい気持ちにさせる会心の勝利で、その勝因は、紛れもなく師弟の固い絆だった。

写真:俺ん家゛

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