夏競馬の風物詩ともいえる七夕賞。しかし、メルヘンチックなレース名とは裏腹に、その歴史は波乱に彩られてきたといっても過言ではない。
特に、1番人気馬の不振は有名で、1979年からはなんと26連敗。これは、JRA重賞の中では最長記録で、ダイワレイダースがストップした後も、16年間でわずか3勝に留まっている。
そんな波乱のハンデ戦に、2022年も16頭が顔を揃え、実に9頭が単勝20倍を切る混戦模様。その中でも、重賞初制覇を目指す3頭に人気が集まった。
1番人気に推されたのはヒートオンビート。これまで勝ち切れないレースが続いているものの、重賞は6戦して2、3着が2回ずつ。前走の天皇賞・春でも4着に好走しており、叔父のグランデッツァが7年前に制したレースで、悲願の重賞制覇を目指していた。
これに続いたのがアンティシペイト。3歳時には、菊花賞候補といわれながら本番は無念の除外となり、以後も3勝クラスをなかなか勝ち切れなかった。それでも、昨夏オープンに昇級すると、前走の福島民報杯は2着に5馬身差の圧勝。晩成のルーラーシップ産駒がいよいよ本格化したとみられ、注目を集めた。
そして、3番人気に推されたのがヒュミドール。当初はダート戦を走っていた本馬が、芝路線に転向するきっかけとなったのが福島の地。2勝クラスの信夫山特別を快勝すると、昇級2戦目で3勝クラスを突破。重賞でも2着2回の実績を残している。特に、3走前の福島記念では、後にドバイターフを勝つパンサラッサの2着に好走。コース実績も、注目を集めていた。
レース概況
ゲートが開くと、16頭ほぼ揃ったスタート。その中から、2021年の1、2着馬トーラスジェミニとロザムールが飛び出し、枠順を活かしたロザムールがハナを切る展開に。以下、フォルコメン、エヴァーガーデン、ヤマニンデンファレ、エヒトの順で続き、上位人気3頭は中団に固まっていた。
前半1000mの通過は58秒5と、平均よりほんの少し早いペース。前3頭が、後続をやや離してレースを引っ張り、最後方のモズナガレボシとプリマヴィスタまでは、およそ20馬身の隊列となった。
3コーナーに入り、残り600mを切ったところでフォルコメンが2番手に上がり、トーラスジェミニは後退。さらに、その後ろにいたエヒトとエヴァーガーデンもスパートし、中でもエヒトの手応えの良さが目立つ。そして、5番手まで上がってきたアンティシペイトには早くも鞭が飛び、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入るとすぐにエヒトが先頭に立って、リードは2馬身。ロザムールとフォルコメンは後退し、かわってアンティシペイトとヒートオンビートが前を追うも、差はなかなか縮まらない。逆に、残り100m地点では3馬身半にリードが広がり、そこからヒートオンビートが差を詰めるも、時既に遅し。
結局、2馬身半という決定的な差をつけたエヒトが1着でゴールイン。ヒートオンビートはまたしても届かず、重賞では3度目の2着。さらに、1馬身差の3着にアンティシペイトが続いた。
良馬場の勝ちタイムは、七夕賞のレースレコードとなる1分57秒8。騎乗した田中勝春騎手は、2019年の函館記念以来、実に3年ぶりの重賞制覇だった。
各馬短評
1着 エヒト
勝負所で自らハミを取り、上昇を開始。絶好の手応えで早目先頭に立つと、直線半ばで勝負を決めた。混戦になることが多い七夕賞にしては珍しく、同じメンバーで10回やってもすべて勝ちそうなくらい、完璧な内容だった。
3着内に好走したのは今回が9回目で、そのうち7レースは、小(内)回りコースかローカルの競馬場。仮に、サマー2000シリーズのチャンピオンを目指すとしたら小倉記念が良いように思うが、果たして次はどこに出走してくるだろうか。
2着 ヒートオンビート
2週前の宝塚記念を除外になったものの、デキに関していえば、その影響は感じられなかった。ただ、3200mを走った後の2000mで、前半1000m通過58秒台は酷な流れ。前半は、ついていくのに精一杯だったが、エンジンがかかってからはさすがの伸び。2着は楽々と確保し、賞金加算に成功した。
いつ重賞を勝ってもおかしくないが、逆をいえば、勝ち切れない可能性もある。父はキングカメハメハで、母が桜花賞馬のマルセリーナ。さらに、その父はディープインパクトという超良血で、なんとかタイトルを獲得し、血が繋がることを願うばかりだ。
3着 アンティシペイト
前走と同じコースで、同じく前半はよどみない流れ。しかし、さすがは重賞が舞台。今回は、自身よりも強いレースをした馬が2頭いた。
重賞はこれまで3戦して、8、11、11着と大敗していたが(適距離、適条件ではなかった可能性もある)、近2走を見ると、本格化したのは間違いなさそう。福島での成績は、2戦1勝3着1回となったが、札幌と東京で好走していることからも、実際は、緩やかで大きなカーブのある競馬場が合っているのかもしれない。
レース総評
前半1000m通過は58秒5で、同後半が59秒3。前後半イーブンに近いが、2、3ハロン目が11秒0-11秒1と速く、やや前傾ラップだった。
4ハロン目以降はペースが落ちたものの、そこからも緩むことなく、常に12秒0前後のラップが刻まれる。ローカルの古馬混合重賞らしいよどみない流れとなり、逃げ馬にとっては息の入らない厳しい展開。一方で、開幕2週目の馬場ということもあり、後方に構えていてもチャンスはなかった。
血統を見ると、キングマンボ系種牡馬の産駒が、2年連続で1~3着を独占。また、2020年も、キングカメハメハとルーラーシップの産駒が2、3着に好走している。
過去2年は馬場が渋り、それが要因と思われたが、良馬場で時計が速かった本年も同じ結果に。しかも、上位3頭と20年の2着ブラヴァスは、いずれも母の父がディープインパクト。さすがに、偶然では片付けられず、来年以降も、同じ血統構成の馬が出走してきた際は、見逃さないようにしたい。
最後に、久々に勝利騎手インタビューの壇上に立った田中勝春騎手の姿も印象的だった。ベテランらしく淡々と冷静に、そして喜びを噛みしめるようにレースを振り返り、代名詞ともいえるカッチースマイルも見られた。
同じく関東のベテランで、JRA最年長ジョッキーの柴田善臣騎手は、ワールドオールスタージョッキーズの出場が決定。また、同じく出場が決まった武豊騎手も、この日の函館メインを勝利するなど、50代ジョッキーの活躍も見逃せない。
写真:かぼす