[重賞回顧]タフネスを見せつけた6歳馬、本格化の夏~2022年・プロキオンS~

JRAの宝塚記念に続いて砂の頂上決戦である帝王賞も終わり、ダート戦線、芝戦線共に一線級の各馬達の戦いには一旦の決着がついた。

だが、夏はここからが本番。

彼らの玉座を狙わんとする挑戦者たちの戦いの場は、早くも東西で燃え盛り始める。

前年同様、京都の改修工事の影響で例年とは違い小倉での開催となったプロキオンS。

1番人気には前走、ダート転戦2走目で見事な勝利を収めたラーゴムが推され、前年のきさらぎ賞以来となる重賞制覇、ひいては芝ダート両刀での重賞制覇を狙っていた。2番人気はOP再昇格後初戦、3歳時のユニコーンS以来となる重賞挑戦のサンライズウルス、2年以上OP、リステッドクラスで好走を続け、2年前の小倉で阿蘇Sを勝利した実績もあるアルドーレが3番人気。それに続く一ケタ台は2頭。充実著しいゲンパチルシファーと、前年のプロキオンSで12番人気ながら3着と好走したメイショウウズマサまでが10倍を切るオッズ構成。

更に伏兵評価の馬たちにも、昨年の宝塚記念以来となるユニコーンライオンを筆頭に、同じく1年ぶりとなるロードレガリスや本年の門司Sを制したエクレアスパークルなど、実に個性派と呼べる馬達が夏の小倉に集結していた。

レース概況

ややタイミングが合わなかったサンライズウルスがつんのめるような恰好でゲートを出る。同じく人気の一角であるアルドーレも躓いた。

それ以外は大きな遅れもなく、各馬がスタンド前を通過していく。

いつものようにメイショウウズマサ、トップウィナーが先手を窺う中、ここが復帰初戦となるユニコーンライオンも果敢に先行。更には門司S同様前へとつけたエクレアスパークル、内枠好発からそのまま先団へと進出したエアアルマスと、スタートから1コーナーまで息つく間もなく熾烈な先行争いが展開される。

その少し後ろにラーゴムとゲンパチルシファーがつけ、そこからやや離れた中団馬群の先頭にアルドーレ、スタートで後手を踏んだサンライズウルス1頭が馬群から大きく離れて向こう正面へとレースは進んでいった。

逃げの手に出たエアアルマスに、依然譲らず外から競りかけるメイショウウズマサとトップウィナー。エクレアスパークルはややポジションを下げたが、この3頭の競り合いは終わることなく、レースペースはかなりのハイラップで流れていく。

そんな前の4頭を相手に早くも後退するユニコーンライオン。それを尻目にゲンパチルシファーが進出を開始。馬場を読み切ったかこの週好調の川田将雅騎手は迷わず相棒を先頭集団へと送り出した。

中団馬群も一気に凝縮。手綱が動きながらも反応が鈍いアルドーレの外からサクラアリュール、ヒストリーメイカーら黄色い帽子2頭が捲るように上がっていくと、つつかれるようにヴェルテックス、ロードレガリスらも行き脚がついたかのように進出。

一方1番人気のラーゴムはここで若干遅れる格好となり、出遅れたサンライズウルスはようやく馬群を射程圏内に捉える位置まで盛り返していた。

迎える4コーナー、ここまで先団を形成してきたトップウィナーは馬群に飲まれ、先頭を保ってきたエアアルマスも外からメイショウウズマサに並びかけられる苦しい展開。エクレアスパークルは既に後退し、かわって進出を開始したゲンパチルシファーが外から捲るように先頭を射程圏内に捉えていた。

短い小倉の直線に向くと、外からゲンパチルシファーが一気に先頭へと変わる。先団4頭に抵抗できる脚色は既になく、スタートから中団馬群に位置してきた馬達が一気に伸び始めて様相一変。捲ってきた2年目の小沢大仁騎手跨るヒストリーメイカーともう1頭、同枠黄色い帽子サクラアリュールが猛然と追い上げを開始。更に後方に位置していたロードレガリスもおよそ1年ぶりとは思えない末脚で伸びてきた。一方、人気の中心だったラーゴムは中団でもがき、サンライズウルスは以前後方。アルドーレも末脚不発で上位3頭はこの時点で完全に馬群に沈んでいた。

残り100mの時点で、ゲンパチルシファーとヒストリーメイカーの脚色に差はなく、ヒストリーメイカーが一完歩ずつわずかながら着実にその着差を縮めていた。

しかしそれでも、ゲンパチルシファーは最後まで抜かせることなくゴールイン。

OPクラス初勝利を、見事重賞初制覇で飾って見せたその姿は、着実に力をつけた自身の実力を見せつけるような勝利だった。

上位入線馬と注目馬短評

1着 ゲンパチルシファー

鞍上・川田騎手は、地元の九州での凱旋勝利。それと同時に、完全に前掲となった馬場を読み切った見事な勝利でもあった。

ゲンパチルシファー自身も、前走スタミナが要求される馬場となる東京ダートの2100mで好走していたことがかなり有利に働いたように思える。後方待機勢の多くが突っ込んでくるレースの中、前にいる馬達を見ながら早目進出で押し切った。この走りは自らのタフさ、そしてOPクラスで揉まれてきたことが実を結んだのを証明する結果となっただろう。力を要するレース展開になるような場合は、本命候補と見て良いだろう。

2着 ヒストリーメイカー

16頭立て14番人気の同馬が2着に好走。とはいえ3走前のマーチSでは1番人気に推されていた同馬。それ以前にも重賞級で何度も好走があり、やっと本来の実力通り走ったというように見て取れなくもない。

好走したマーチS、アンタレスS共に緩みないペースだったこともあり、前目総崩れとなるようなレース展開ならチャンスは大。

3着 サクラアリュール

こちらも16頭立て12番人気ながら3着好走。ゲンパチルシファー同様に東京ダート2100mで好走からの転戦だった。2年前のシリウスSではカフェファラオの2着に突っ込んだ実績もある同馬が、この春に復帰してから、着実に調子を上げてきたか。

スムーズならここからダート一線級の争いにも加わっていけるだけの実力もありそうで、特に最後の末脚には引き続き注視したい。

4着 ロードレガリス

長期休養明けの同馬が4着に大健闘。3歳時に地方転入後破竹の連勝を飾り、中央に戻ってきてからも一気にOPクラスまで駆け上がった同馬。休養明けも関係なしの激走に、7歳とはいえ今後が一気に楽しみになる走りだった。3着のサクラアリュールとは直線のコース取りの差のようにも思え、大きな差はないと見ていいだろう。

5着 ヴェルテックス

前年末の名古屋グランプリの覇者で、本年の川崎記念でも3着に好走したトップハンデタイの同馬。ハンデをものともせず後方から突っ込んできていたが、最後はやや伸び負けした印象。本質的にはもう少し距離は長い方がいいか。

10着 アルドーレ

スタートで躓き、道中の行きっぷりも悪く10着入線。ほぼ同じ位置にいたゲンパチルシファーとは対照的な結果になってしまった。スタート不利で馬がやる気をなくした可能性も高く、次走以降の巻き返しに期待したい。

11着 サンライズウルス

大きく後手を踏んだ同馬はそのまま見せ場なく11着惨敗。

ただ、最後は確実に伸びる脚を使っているし、スタートの不利ですべてが決まった今回の結果は完全に度外視でいいだろう。

12着 ラーゴム

大外枠の枠不利と、緩みないペースに追走が厳しく12着敗戦。

前走は脚抜きのいい馬場での快勝だったことから、乾いた馬場でのハイラップが影響したか。次走、ダートで続戦する場合は馬場状態まで注視したほうがよさそうか。

16着 ユニコーンライオン

1年ぶりとなる実戦だったが、大差の殿入線に終わった同馬。

条件戦時代にはダートも走っているとはいえ、かなりの長期休養明けに加えて恐らく本質は芝タイプ。ここを叩いて復調が見えてくるかどうかで、前年クロノジェネシスに肉薄したあの実力が影を潜めているかどうかわかるだろう。

総評

前半1000mのラップタイムは7.0 - 10.6 - 11.7 - 12.1 - 11.9とほとんど息つく暇がない前掲ラップで、上位入線馬のうち前目で競馬をしたのは勝利したゲンパチルシファーのみ。後は全てが掲示板以下となる大敗を喫していることから、ゲンパチルシファーのタフさはかなりのものがあるということを裏付ける結果となった。

ゲンパチルシファーの父トゥザグローリーは、前年の東京新聞杯を制したカラテに続いて産駒が重賞2勝目を飾り、管理する佐々木晶三師はこれが重賞通算50勝目。過去にはタップダンスシチーやキズナを管理した名伯楽の下から、また1頭楽しみな馬が出現した。

ダート戦線はこれからエルムS、3歳重賞のレパードSなどが控えており、ここから先は新進気鋭の若駒たちとも相まみえることとなる。さらに地方勢でも中央に肉薄する馬達は多数控えており、熱い砂の熱戦に期待をしたい。そして秋、成長した彼らが盛岡、中京、大井の大舞台で火花を散らすその時を心待ちにしたくなる。

写真:突撃砲

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