[重賞回顧]父の雪辱を果たし、秋のGIに向け大きな重賞2勝目~2022年・札幌記念~

GⅡに昇格してから25年目を迎えた、真夏の大一番・札幌記念。これまでにもGI馬や後のGI馬が多数出走し、10月に行なわれる天皇賞・秋はもちろんのこと、凱旋門賞の前哨戦のような役割も果たしている。

迎えた2022年のレースは、国内外のGI馬が5頭も顔を揃えた豪華メンバー。さらに、白毛対決や、逃げ馬が2枠に同居するなど話題も豊富で、スーパーGⅡと呼ぶに相応しい一戦となった。

票数の差で1番人気に推されたのはソダシ。3歳秋まで7戦6勝。うちGI2勝とほぼ完璧な成績を収めていたものの、秋華賞で10着に敗れると、初ダートのチャンピオンズCも大敗。先行きが不安視された。しかし、今期初戦のフェブラリーSで3着に好走すると、ヴィクトリアマイルを勝利して復活をアピール。連覇が懸かる今回は、結果と内容の両方が求められるレースとなった。

これに続いたのがパンサラッサ。この馬がにわかに注目を集め出したのは、ハイペースで逃げ切った5走前の福島記念から。続く有馬記念は大敗したものの、今期初戦の中山記念を逃げ切ると、ドバイターフでも逃げて1着同着。ついに、GI馬へと上り詰めた。前走の宝塚記念は8着と敗れるも、ペースが速く、距離も少し長かった印象。得意距離の今回、4つ目の重賞タイトルを狙っていた。

3番人気に推されたのがジャックドール。初勝利を挙げるまで3戦。2勝目を挙げるまでに5戦を要したものの、そこから一気の5連勝で、GⅡの金鯱賞をレコード勝ちした。初のGI挑戦となった大阪杯こそ5着に敗れたが、今回は再び2000mのGⅡが舞台。秋に向けて、ステップアップできるか。また、同じ枠からスタートするパンサラッサとの兼ね合いにも注目が集まった。

少し離れた4番人気にグローリーヴェイズ。海外GIの実績は現役屈指で、特に、香港ヴァーズはこれまで2勝しており、2021年の同レースで負かしたパイルドライヴァーは、7月のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSを勝利。自身の評価も上がった。国内のレースは、実に11ヶ月ぶりとなるが、香港での実績から洋芝適性はいうまでもなく、注目を集めていた。

単勝オッズ10倍を切ったのはこれら4頭。以下、2021年のオークス馬ユーバーレーベン。ここまでGⅡ3勝のウインマリリンの牝馬2頭が、人気順で続いた。

レース概況

16頭ほぼ揃ったスタートから、ユニコーンライオンがまず飛び出すも、行き脚がついた同厩のパンサラッサが先頭に立った。ジャックドールとウインマリリンが3番手を並走して1コーナーを回り、2馬身差の5番手にソダシ。以下、アイスバブル、アラタ、サトノクロニクルと続き、4番人気のグローリーヴェイズは、ちょうど中団9番手を追走していた。

前半1000m通過は59秒5で、平均より少し速いペース。先頭から最後方のハヤヤッコまではおよそ17~8馬身差で、かなり縦長の隊列となった。

3コーナーに入ると、早くもパンサラッサが手綱を押して差を広げにかかり、ユニコーンライオンも置いて行かれまいと抵抗。しかし、これを楽な手応えでジャックドールがかわして2番手に上がり、ソダシと、鞭を入れられたウインマリリンがこの2頭に続き、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、すぐにジャックドールが先頭に並びかけるも、パンサラッサが二枚腰を発揮。なかなか前に出ることができない。その後ろは、ウインマリリンが単独3番手に上がって、ソダシは失速。それをかわしたアラタが、懸命に前3頭を追う。

一方、依然として前はパンサラッサとジャックドールの激しい競り合いが続くも、ゴール寸前で僅かに出たジャックドールが先頭でゴールイン。クビ差の2着にパンサラッサが続き、アラタの追撃を抑えたウインマリリンが、1馬身半差の3着に入った。

良馬場の勝ち時計は2分1秒2。6戦ぶりに逃げなかったジャックドールが、マッチレースを制して重賞2勝目。秋のビッグレースに弾みをつける、価値ある勝利を手にした。

各馬短評

1着 ジャックドール

パンサラッサに先手を譲るところまでは予想されたが、4番手からのレースを予想できた人は多くなかったはず。しかし、騎乗した藤岡佑介騎手も予想だにしないほどすんなり折り合い、これを最大の勝因に挙げていた。

逃げない競馬で結果を出したことは、秋の大舞台。特に、直線の長い東京競馬場のGIレースを目指すのであれば、非常に大きな収穫。父のモーリスは、現役時、札幌記念で2着に敗れたが、その舞台で雪辱を果たしたジャックドールが、天皇賞・秋で父仔制覇を達成するか。注目が集まる。

2着 パンサラッサ

大逃げではなかったものの、今回も速いペースを刻み、それでいて勝負所からペースを上げる強気の競馬。直線に入ってすぐ勝ち馬に並びかけられ、もはやこれまでと思われたが、そこから驚異的な二枚腰を発揮。最後の最後まで見せ場を作った。

今回はジャックドールに敗れたものの、もちろん、これで完全に決着がついたとはいえない。次走以降も激突する可能性は十分にあり、ライバル関係になっていくかなど、今後も2頭の関係から目が離せない。

3着 ウインマリリン

4コーナーで早くも鞭が飛び、一見、手応えが悪いようにも見えた。しかし、そこからのしぶとさがこの馬の持ち味。前2頭には追いつけなかったが、同じ位置にいたソダシを競り落とし、アラタの追撃も凌いだ。

これまで何度か右肘の腫れに悩まされ、2021年のエリザベス女王杯前にも、それが原因で調整に狂いが生じ、結果、大敗してしまった。その不安がなければ、大レースを勝てるだけの潜在能力を有していることは言うまでもなく、エリザベス女王杯に出走すれば、当然、有力馬の1頭となる。

レース総評

レース当日は、13時過ぎに稍重から良馬場に変更されたものの、見た目と表記以上にタフな馬場だったと推測される。

そんな中、行なわれた札幌記念は、前半の1000mが59秒5。同後半は1分1秒7で、完全な前傾ラップ。古馬混合の中距離重賞らしく、3ハロン目から12秒前後のラップが続き、息の入らない展開となるも、逃げるパンサラッサは、勝負所からさらにペースを上げた。

このように、ペースが落ちるところがなく、なおかつ縦長の隊列になると、後続の馬は差を詰めることができず、底力勝負となって、先行馬同士で決着することが多い。実際、今回も中団より後ろに控えた馬にチャンスは無く、先行勢が上位を占めた。

血統面でいうと、今回のような底力勝負の中距離重賞に強いのが、ロベルトやサドラーズウェルズの血を持つ馬。1、3着馬の父は、ロベルト系の中でもシンボリクリスエス系と双璧をなすグラスワンダー系の種牡馬で、モーリス産駒のジャックドールが勝ち、その父スクリーンヒーロー産駒のウインマリリンが3着だった。

それに対して、2着パンサラッサの父は、母系の良さを引き出すロードカナロアで、パンサラッサの母の父の父は、上述したサドラーズウェルズである。

早いペースで逃げて、底力勝負、我慢比べとなるレースを演出しやすいパンサラッサ。今後も、同馬が出走するレースは、瞬発力を武器にする種牡馬の産駒よりも、ロベルトやサドラーズウェルズの血を持つ馬に注目した方が良いかもしれない。

逆に、この展開に泣いたのがスピードタイプのソダシ。レース後、須貝調教師はマイルCSを目標にするとコメントしたようで、次回、そのとおりマイル戦に出走した際は、注目したい。

一方、モーリスの産駒に話を戻すと、自身が現役時に天皇賞・秋や香港Cを制した、芝2000mの成績が抜群。産駒がデビューした2020年から2022年8月14日まで、東京、小倉、札幌の芝2000mでは、複勝率が驚異の50%超え。東京、小倉に関しては、勝率も25%を超えている。

ジャックドールも、天皇賞・秋はもちろんのこと、年末、香港Cに挑戦することがあれば、好勝負する可能性は十分にあるのではないだろうか。

写真:@ryo_photo0215、安全お兄さん

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