[重賞回顧]逆襲の逆輸入種牡馬ダノンバラード産駒が、JRAの重賞初制覇~2022年・新潟2歳S~

長いようで短かった夏競馬も、残すところ2日になった。夏競馬といえば、サマーシリーズや、九州産限定の新馬戦にひまわり賞。さらには、牝馬や芦毛が強いといった格言に、ミルファームの所有馬が多数出走する直千競馬など、多くの名物が存在する。

その中で忘れてはならないのが、各地で行なわれる2歳重賞。7月の函館2歳Sを皮切りに4つの重賞が行なわれ、最後の開催3日は、各日重賞が組まれている。

特に、2021年に行なわれた2歳重賞の中からは、後のクラシック勝ち馬が誕生。GI2着馬と3着馬も、2頭ずつ誕生した。そのため、4レースとも目が離せないレースとなっているが、GI2着馬を2頭輩出したのが新潟2歳S。同レースを制したセリフォスは、年末の朝日杯フューチュリティSで2着と惜敗し、5着馬のスタニングローズは、フラワーCで重賞初制覇を成し遂げた後、そこからオークスに直行して2着に好走。それぞれ、秋の大舞台でのビッグタイトル獲得に期待が高まっている。

そんな新潟2歳Sも、かつては毎年のようにフルゲートとなっていたものの、サウジアラビアロイヤルCやアルテミスSが創設されて以降、出走頭数は減少。2022年も、11頭立てと落ち着いた。ただ、例年以上に混戦、最終的に10倍を切ったのは5頭。そのうちの3頭に人気が集まり、1番人気に推されたのはアイスグリーンだった。

6月阪神の新馬戦で5着に敗れた後、小倉の未勝利戦を勝ち上がった本馬。半姉のディアンドルは、同じ新潟の外回りで行なわれた2021年の福島牝馬Sを勝利しており、モーリス産駒の良血馬が、姉に続いて新潟でタイトル獲得なるか注目を集めていた。

僅かの差で、これに続いたのがシーウィザード。父は新種牡馬のビーチパトロールで、1600m以上の新馬戦を勝利したのは本馬のみ。その前走は、2着との差が半馬身とはいえ、着差以上に強い内容で逃げ切っており、距離短縮の今回、さらなるパフォーマンスを発揮できるか期待されていた。

3番人気となったのがウインオーディン。こちらも初戦は5着に敗れたものの、その新馬戦は、今夏、最もメンバーが揃ったといっても過言ではないレースだった。その後、初勝利を挙げたのが1週間前で、今回は連闘策を敢行。鹿戸厩舎のエピファネイア産駒といえば、年度代表馬のエフフォーリアと同じで、大きな期待が寄せられていた。

これら3頭から、やや離れた4番人気に推されたのがキタウイング。父は、話題沸騰の種牡馬ダノンバラードで、この馬も1週間前の未勝利戦を勝ち上がったばかり。ただ、今回と同じ新潟のマイル戦を経験しているのは本馬のみで、ウインオーディンと同様、意欲の連闘策から重賞制覇を狙っていた。

そして、5番人気となったのがロードディフィート。父は、2022年8月21日現在、中央の新種牡馬ランキングで3位につけるデクラレーションオブウォー。今回のメンバーで、中央場所(東京)のレースを勝ち上がったのは本馬だけ。騎乗する田辺騎手は、この勝負服を着て7年前の新潟2歳Sを勝利しており、当時の再現なるか注目されていた。

レース概況

ゲートが開くと、グラニットが好スタート。それに対し、同じ勝負服のキタウイングがやや立ちおくれ、後方からのレースを余儀なくされた。

前は、グラニットをかわしてバグラダスが先頭に立ち、タマモブラックタイが2番手で、3番手をグラニットとアイスグリーンが並走。以下、2馬身半差でシーウィザードが続き、同じく2馬身半差でウインオーディンとロードディフィートが中団。そして、ピンクジン、チカポコ、キタウイング、スタンレーの4頭が、後方集団を形成していた。

前半600m通過は36秒6の遅い流れとなったが、そこからもペースは上がらず、先頭から最後方までは10馬身ちょっとの隊列に。その後、3~4コーナー中間で、最後方に構えていたスタンレーがややポジションを上げるも、他に大きな動きはないまま、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、各馬内を大きく開けて横一線となり、そこからはヨーイドンの競馬。懸命に粘るバグラダス目がけて、外からシーウィザードとウインオーディンが襲いかかり、内からいつの間にか差を詰めていたキタウイングも末脚を伸ばしてきたところで、残り200mを切った。

ここから他の7頭は伸びあぐね、上位争いは4頭に絞られるも、その中から残り100mで抜け出したのはキタウイング。末脚の勢いは明らかで、最後は外の2頭に僅かに先んじて1着でゴールイン。半馬身差の2着にウインオーディンが入り、アタマ差の3着にシーウィザードが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分35秒9。連闘で出走したキタウイングが重賞初制覇を成し遂げ、逆輸入の形で復帰した父ダノンバラードに、初めてJRAの重賞タイトルをプレゼントした。

また、ミルファームの生産、所有馬の重賞勝利は、アイビスサマーダッシュのビリーバーに続いて、この夏2勝目。騎乗した戸崎圭太騎手は、この土日で18鞍に騎乗して8勝2着2回の大暴れだった。

各馬短評

1着 キタウイング

スタートでやや立ち後れたものの、割り切って後方からの競馬。中間点では最後方だった。

その後、勝負所で最内を通って前との差を詰めると、直線に入ってからはジリジリと、しかし確実に末脚を伸ばし、連闘で出走した馬同士の接戦を僅かに制した。

この確実に伸びる末脚が武器で、この先も、大崩れすることは少なそう。ただ、東京や阪神、京都の外回りなど、主流血統の馬が活躍する本場の根幹距離のレースでは、キレ負けする可能性がある。

先の話にはなるが、関屋記念に出走することがあれば(特に馬場が渋れば)狙ってみたい存在。

2着 ウインオーディン

ピリピリしやすいエピファネイアの産駒で連闘が気になったが、その心配はまるでなかった。

こちらも堅実な末脚が武器で、最後は、勝ち馬をあと少しのところまで追い詰めていた。ただ、惜しかったのが、直線の内回りとの合流点付近。ここで、シーウィザードがほんの少し外に膨れ、その影響で本馬も外に寄れ、それが最後の微差に繋がってしまった。

2週間前、ウインカーネリアンで関屋記念を制したのと同じ三浦騎手、鹿戸調教師、コスモヴューファーム生産のチーム。その再現はならなかったものの、今一度注目したいのが、5着に敗れたデビュー戦で、そのとき先着を許したダノントルネード、シャザーン、ラスハンメル、シーズンリッチの次走にも注目したい。

3着 シーウィザード

逃げ切った前走から一転、中団からの競馬を試みるも、最後は僅かに伸び負けてしまった。得意とする舞台は、やはり先行しての持久力が生きる、コーナーを4回まわる直線の短いコースだろうか。

母の父メジロベイリーは6月末に亡くなってしまったが、先日のレパードSを制したカフジオクタゴンも母の父がメジロベイリー。また、シーウィザードの半兄シゲルタイタン(父マジェスティックウォリアー)はオープンまで出世しており、同じく半兄のグランアリエル(父ビッグアーサー)は現在3連勝中。本馬も、今後どこまで出世するか楽しみになった。

レース総評

前半600m通過が36秒6で、800mが49秒7。一方、同後半は46秒2で、完全な後傾ラップ。同日、同じコースで行なわれた新馬戦よりも、勝ちタイムは0秒4遅かった。そのため、レベルが高い一戦とはいえず、今回の上位入線馬が、次走、過剰に人気を集めるようなら、そこはしっかりとした判断が必要になる。

過去10年、ローエングリンやマツリダゴッホ、ホワイトマズルらが勝ち馬を送り出しているものの、基本的には、ディープインパクトやハーツクライ。そして、キングカメハメハ、ロードカナロア、ダイワメジャーなど、リーンディング上位種牡馬の産駒が好走してきた新潟2歳S。しかし、現2歳世代にディープインパクト産駒はほとんどおらず、キングカメハメハに至っては、現3歳世代がラストクロップだった。

そのため、今回の11頭中、チカポコ(父ブラックタイド)以外の10頭の父は、日本で産駒がデビューして5年以内の新しい種牡馬ばかり。その中で触れたいのが、キタウイング、グラニット、ピンクジンの父ダノンバラードである。

2008年生まれのダノンバラードは、ディープインパクトの初年度産駒。三冠馬オルフェーヴルと同じ世代で、2歳時には出世レースのラジオニッケイ杯(現・ホープフルS)を勝利。クラシックでも期待されたが、皐月賞3着の後、ダービーの最終追い切りで左前球節部の靱帯を痛め、無念の回避となってしまった。

その2年後、アメリカジョッキークラブCで久々の重賞制覇を成し遂げ、宝塚記念では、ゴールドシップの2着に好走。翌2014年に引退し種牡馬入りを果たしたが、僅か2年で海外に輸出され、イタリア、イギリスで種牡馬生活を送っていた。

しかし、決して多くない初年度産駒から、ロードブレスが交流重賞の日本テレビ盃を勝ち、ナイママが札幌2歳Sで2着に好走。また、ウインターフェルが交流重賞の北海道2歳優駿で2着するなど、活躍馬が続出した。

これを受け、ビッグレッドファームの故・岡田繁幸氏が2018年に買い戻し、66頭登録されている現2歳世代が、「逆輸入」後の初年度産駒。そして、この世代が、早くも再ブレイクにして大ブレイクしており、新潟2歳Sを含めると、JRAでは4頭が計6勝。2歳リーディングサイヤーランキング(中央)では、おそらく2位にランクアップすると思われる。

また、ダノンバラード自身も良血で、父のディープインパクトはもちろんのこと、3代母は世界的名牝バラッド。その産駒から、タイキシャトルの父デヴィルズバッグや、その半弟セイントバラッドが出ており、これらの姉グローリアスソングからもラーイ、シングスピール、メイセイオペラの父グランドペラなど、名馬、名種牡馬が続出している。

一方、日本国内でも、ヴィルシーナ、シュヴァルグラン、ヴィブロスの3姉弟妹がこの一族出身で、さらにはJBCレディスクラシックを連覇したホワイトフーガ。そして、NHKマイルカップをレコード勝ちしたダノンシャンティと、日本はもちろんのこと、世界で最も成功した牝系といっても過言ではない。

また、父ディープインパクトに、母の父アンブライドルドという血統構成は、産駒の得意条件こそ異なるかもしれないが、母の父がアンブライドルズソング(その父アンブライドルド)のコントレイルと似ている点も見逃せない。

間違いなく、今、最も熱い種牡馬ダノンバラード。逆輸入種牡馬の大逆襲は、まだ序章に過ぎないのかもしれない。

写真:かずーみ

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