[重賞回顧]相棒を信じた強気のロングスパート! 菊の大輪はアスクビクターモアの頭上に輝く~2022年・菊花賞~

牡馬クラシック三冠レースの中で「最も強い馬が勝つ」といわれる菊花賞。しかし今年は、65年ぶりに皐月賞とダービーの連対馬が不在の一戦となった。

一方、この状況に俄然色めき立ったのが、夏の上がり馬たち。実績馬たちが休養している間にメキメキと力をつけ、前哨戦はおろか、本番も制して一気にスターダムへと駆け上がる──。そんな痛快劇が、過去に何度も繰り返されてきた。

また、前年に引き続いて阪神競馬場が舞台となり、ある意味、異例ずくめとなった2022年の菊花賞。絶対的な存在がいない混戦で、4頭が単勝10倍を切り、中でもセントライト記念の1、2着馬に人気が集まった。

わずかの差で1番人気に推されたのはガイアフォース。ここまで5戦して連対を外していない本馬。デビュー戦では、後のダービー馬ドウデュースと接戦を演じたものの、骨折が判明し6ヶ月の休養を余儀なくされた。それでも復帰後3戦して2勝を挙げ、さらに前走のセントライト記念で重賞初挑戦、初制覇。上がり馬の典型として注目され、同時に父キタサンブラックとの親仔制覇が懸かっていた。

これに続いたのがアスクビクターモア。こちらは、初戦で後の皐月賞馬ジオグリフに。さらに3戦目でドウデュースに敗れたものの、同馬には弥生賞でリベンジしている。その後、皐月賞は5着。ダービーでも3着と好走したが、前走のセントライト記念も2着に惜敗。ただ、春二冠の実績は断然で、是が非でも菊の大輪を手中に収めたいところだった。

そこからやや離れた3番人気にドゥラドーレス。2戦2勝で臨んだ毎日杯は、馬群を捌けず3着に惜敗。続く2勝クラスも取りこぼしたが、前走の藻岩山特別を完勝し、この大一番に臨んできた。ドゥラメンテ産駒に横山武史騎手が騎乗といえば、2021年の勝ち馬タイトルホルダーと同じ。さらに、母ロカは2歳GIで1番人気に推されたほどの逸材で、その母ランズエッジはディープインパクトの半妹という超良血。春の無念をまとめて晴らすか、大いに注目を集めていた。

そして、4番人気となったのがジャスティンパレス。2歳時は、ホープフルSで2着の実績がありながら、春二冠はともに力を出し切れず9着と敗れた本馬。ところが、秋初戦の神戸新聞杯を3馬身半差で圧勝し、重賞初制覇。一気に菊花賞戦線の上位に顔を出し、これ以上ない勢いをつけて最後の一冠に臨んでいた。

レース概況

ゲートが開くと、バラついたスタート。アスクワイルドモアとヴェローナシチーが出遅れ、ボルドグフーシュも後方からの競馬となった。

一方、好スタートを切ったセイウンハーデスがそのまま先手を取り、あっという間にリードは4馬身。アスクビクターモアがこれを追い、以下ディナースタ、ビーアストニッシド、ポッドボレットの順。その後ろの中団に、ジャスティンパレスとガイアフォース、プラダリアの人気どころが固まっていた。

対して後方グループでは、ドゥラドーレスが中団やや後ろの11番手に控え、立ち後れたボルドグフーシュはその1馬身後方に位置。そして神戸新聞杯2着のヤマニンゼストは、後ろから4頭目に控えていた。

後方4頭がバラバラで追走したため、先頭から最後方のヴェローナシチーまでは、およそ25馬身と縦長の隊列。快調に飛ばすセイウンハーデスは、最初の1000mを58秒7で通過し、これは平均よりほんの少し速いペース。これに引っ張られるようにして、他の17頭も1周目のスタンド前に姿を現わした。

その後も隊列に大きな変化はなく、レースは2周目に突入。ここで後方4頭が差を詰め、一度は全体の差が少し縮まったものの、セイウンハーデスがすぐにリードを5馬身に広げ、隊列は再び20馬身超の縦長に。3コーナーに入る手前、2000mの通過は2分1秒4だった。

そして迎えた、3~4コーナー中間の勝負所。ここでアスクビクターモアが早くもセイウンハーデスに並びかけ、残り500mで単独先頭へ。さらに、4コーナーでは後続との差を4馬身に広げ、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入っても、依然アスクビクターモアのリードは4馬身。追ってきたのはボルドグフーシュとジャスティンパレスの2頭で、ガイアフォースは坂下で失速。圏内は、これら3頭に絞られた。

その後、坂を駆け上がると、さすがのアスクビクターモアも苦しくなり、2番手の2頭が猛追。中でもボルドグフーシュの伸び脚が顕著で、最後の最後、アスクビクターモアと馬体を併せたところがゴールだった。

写真判定の結果、アスクビクターモアが先着しており、ボルドグフーシュは惜しくもハナ差及ばす2着。そこから2分の1馬身差の3着にジャスティンパレスが続いた。

良馬場の勝ちタイムは3分2秒4のコースレコード。田辺裕信騎手と田村康仁調教師はともにGI3勝目で、クラシック初制覇。生産馬がワンツーを決めた名門、社台ファームの牡馬クラシック制覇は、ロゴタイプの皐月賞以来、実に9年ぶりだった。

各馬短評

1着 アスクビクターモア

今回のメンバーでいえば、皐月賞、ダービーとも最先着馬で実績は断然。そのとおり、田辺騎手が相棒を信じ切って自分の競馬に徹し、強気のスパートを敢行。最後は2着馬に際どく迫られたものの、春の雪辱を果たした。

母父は、96年の年度代表馬となったサクラローレルを輩出し、自身、そして産駒のソーマレズも凱旋門賞を制したレインボウクエスト。その影響か、ディープインパクト産駒とはいえ、アスクビクターモアはスタミナや持久力で勝負するタイプ。中山競馬場で5戦3勝2着1回と良績を残しており、むしろ直線での伸び、瞬発力が問われるダービーで3着に好走したことのほうが驚きだった。

この先、有馬記念や天皇賞・春に出走することがあれば、引き続き期待したい。

2着 ボルドグフーシュ

最後の差だけを見ると、返す返すもスタートで立ち後れたことが悔やまれる。

父はスクリーンヒーローでロベルト系に属するが、日本では、主にグラスワンダーからスクリーンヒーロー、そしてモーリスに派生した系統と、シンボリクリスエスからエピファネイアに派生した系統に分けられる。

後者は、エピファネイア自身が菊花賞を勝ち、その産駒も過去2年で3頭が3着内に好走。一方、前者のラインからは、セイウンワンダーとゴールドアクターの3着がこれまでの最高着順だったが、今回ボルドグフーシュがあわやというところまで迫った。

ちなみに、ゴールドアクターとボルドグフーシュはともに吉田隼人騎手が騎乗。2レースともレコードで決着という共通項がある。

今後でいえば、父スクリーンヒーローや、代表産駒のゴールドアクターが本格化したのは4歳秋。ともに、アルゼンチン共和国杯で初重賞制覇を成し遂げているが、来年、ボルドグフーシュがアルゼンチン共和国杯からジャパンC。もしくは有馬記念に参戦すれば、大いに注目したい。

3着 ジャスティンパレス

こちらも、母父がヨーロッパ系の種牡馬ロイヤルアンセムで、瞬発力よりも、持久力で勝負するディープインパクト産駒。母父を3代遡るとヌレイエフに行き着くが、2着ボルドグフーシュも母系にヌレイエフの血を持っている。

再びの好走により、神戸新聞杯の圧勝がフロックではないことを改めて証明。半兄アイアンバローズも長距離で活躍しているように、こちらも天皇賞・春に出走してきた際は注目したい。

レース総評

最初の1000mは58秒7で、真ん中の1000mが1分2秒7。同後半1分1秒0=3分2秒4。上がり3ハロンは37秒0を要し、阪神の菊花賞らしく、持久力や底力が問われるレースとなった。

この流れを、前半、先頭からさほど差のない2番手で追走。早目スパートで勝ちにいったアスクビクターモアの強さは、2着馬にハナ差まで迫られたとはいえ際立っていた。

ディープインパクト産駒は、デビューした2011年から12世代連続でクラシックを勝利し、通算24勝という圧倒的な実績。菊花賞は、これが通算5勝目で、そのうちコントレイル以外の4頭は、母父がヨーロッパ系の種牡馬だった。

周知のとおり、同産駒は現2歳世代がラストクロップ。先日、アイルランド調教馬の同産駒が英国の2歳GIを勝利というニュースも入ってきたが、国内外ともに血統登録されているのは6頭ずつ。今回が、最後のクラシック出走となる可能性もある。

それでも、あらゆる記録を塗り替えてきた不世出のスーパーサイアー。なんとか来年も産駒を晴れ舞台に送り込んでほしい。

一方、勝ち馬の臨戦過程に注目すると、当年の弥生賞を制し、なおかつ前走セントライト記念で1番人気に推された馬が2年連続で勝利。2023年以降は京都競馬場に戻るため、この傾向が続くかどうかは分からないが、阪神の菊花賞で求められたのは、瞬発力よりも持久力。そして底力だった。

そのアスクビクターモア。半姉に英仏のGIを2勝したケマーがいる良血で、2020年セレクトセール1歳市場において、1億8700万円(税込)で取引された高馬。同じ社台ファーム生産。かつセレクトセールにおいて高値で取引された菊花賞馬といえばマンハッタンカフェを思い出すが、同馬はこの後、有馬記念と翌年の天皇賞・春も制している。

今後のローテーションが気になるところで、同じような脚質で菊花賞への臨戦過程も同じだったタイトルホルダーと、例えば有馬記念で激突するようなことがあれば、非常に興味深い一戦となるだろう。

写真:かぼす

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