[重賞回顧]復活の咆哮、東北より~2022年・福島記念~

毎年、ローカル競馬場の名の冠を持つ重賞レースが開催されると、その開催の終わりを感じるようになってくる。夏で言えば札幌記念に函館記念、新潟記念が挙げられるだろうか。そして秋のローカル名物レースのひとつが、この福島記念である。

毎年、淀(ここ3年は代替え開催で仁川)の舞台で開かれる牝馬最強決定戦の20分ほど前、東北開催をあと1週残しつつも最後となる重賞として、ゲートインを迎える。

そんな福島記念は、優勝馬達の名前も個性的かつ実力馬で、過去10年だけざっと並べてみてもダイワファルコン(12、13)ミトラ(14)ヤマカツエース(15)マルターズアポジー(16)ウインブライト(17)スティッフェリオ(18)クレッシェンドラヴ(19)バイオスパーク(20)パンサラッサ(21)と、かなりの顔ぶれ。個性的な戦法、懸命に走る姿でファンに愛された馬もいれば、この勝利を一つのきっかけとして世界に羽ばたいていった名馬もいる。来年以降の飛躍を誓う各馬達にとって、試金石となるレースといって良いだろう。

そんな福島記念、今年の人気は2頭。着実に経験を積み、前走の札幌記念では実力馬に混じって4着、昨年3着からの巻き返しを誓うアラタと、今年の春に皐月賞・ダービーとクラシック戦線を若きホープと共にひた走ってきたオニャンコポン。ともに善戦はするものの、重賞やG1の舞台では後一歩届かない競馬がこの多かった印象もある。このままでは終われない両馬。来年の活躍を狙ううえで、この福島記念は落とせない。

少し離れた3番人気のサトノセシルも善戦が続く印象。牝馬相手とは言え、府中牝馬Sで戦った相手は牡馬相手でも十分に通用する一線級の牝馬達だった。こちらも後々を考えるならここで活躍する姿を見せたいところ。

4番人気ゴールドスミスは福島無敗の戦績を引っ提げて参戦。ブルーの勝負服に前走オクトーバーSを勝利と、脚質・馬主は異なるものの、どこか前年の覇者を連想せずにはいられない。1桁台に推された馬達は以上だが、2桁オッズを示す各馬にも十分なチャンスはある。そう言わんばかりにオッズの倍率は割れに割れ、11番人気のコスモカレンドゥラまでほぼ差のないオッズでレースの時を迎えていた。

レース概況

ほぼそろったスタートから、ユニコーンライオン、ベレヌス、ロザムール、シャムロックヒルが押し上げて4頭が先行争いへ。スタートして200mもしない間に早くも後続各馬との差は広がり始め、およそ5.6馬身の差が開いてコスモカレンドゥラ、後ろにサトノセシルとオニャンコポンが続く。さらにその内にはアラタ。上位人気に推されている馬3頭が固まる格好となった。一方、ゴールドスミスはいつも通り後方からレースを進め、各馬が1コーナーをカーブしていく。

結局、行き切ったのはいつも通りユニコーンライオン。初めて手綱を握る国分優作騎手が駆る相棒との折り合いはばっちりついたか、リズムよく走っているように見える。2~4番手集団も変わらず、その後ろとの差もまだ開いたままで向こう正面へ。その後ろのコスモカレンドゥラとサトノセシルからはまたさらに差が開いてアラタとオニャンコポン。2馬身後ろに後続集団と、かなり縦に長い隊列でレースは進んでいく。1000m通過は59.4と、淡々とした流れになっていた。

3コーナー中間地点で馬群はやや詰まり加減となり、先行集団からロザムールが脱落。かわって後ろからサトノセシルとコスモカレンドゥラが進出を開始する。……が、コスモカレンドゥラの行き脚はやや鈍く、スパートを開始したサトノセシルにはついていけない。その後ろからアラタとオニャンコポンも位置をあげ、後方に構えていたゴールドスミスは大外を選択して4コーナーのカーブを迎えた。

直線、スパートの合図を出されたユニコーンライオンと後続の差は、未だに3馬身。追いすがるベレヌスとシャムロックヒルに脚はなく後退し、外からサトノセシル、オニャンコポン、アラタと人気3頭が懸命に追いすがっていく。後の各馬はすでに勝負からは遠く、追いすがれる脚色を持ち合わせていない。

200を切って福島の坂、ユニコーンライオンが逃げて粘る、粘る。
そのリードは縮まらない。追いすがる各馬に、逆転の目はなかった。

残り100、それは確信に変わる。結局そのまま、ゴール板を先頭で通過した。

かつて仁川の地で絶対女王に食い下がった獅子が、福島の地で復活の雄たけびを上げたのだった。

上位入線馬と注目馬短評

1着 ユニコーンライオン

1年半ぶりの重賞制覇の勝利の美酒は、同時に怪我を乗り越えた美酒となった。

今年の夏にプロキオンSで復帰して以降、16着、12着、13着と大低迷していた同馬が、華麗に復活。思えば過去にも彼は3勝クラスで大低迷し、突如3着に突っ込んだ1か月後には宝塚記念でクロノジェネシスの2着としたような事例があった。

この馬に常識は通用しない。
また再び、我々をあっと言わせる大激走を近いうちに見せてくれるのではないだろうか。

鞍上の国分優作騎手は3年前の小倉2歳Sをマイネルグリットで勝利して以来3年ぶりの重賞制覇。
人馬ともにうれしい勝利となった。

2着 サトノセシル

好走を続ける同馬の近5走はこれで2→4→2→4→2。
53キロの軽斤量の恩恵もあったとはいえ、牡馬相手でもやれることを改めて証明してくれた。

16戦目とはいえ、もう6歳となった。そろそろ念願の重賞タイトルが欲しいところだろう。牝馬限定戦に出走するようなことがあれば、大注目の1頭か。

また、1着のユニコーンライオンともどもサドラーズウェルズ系の血を持つ。昨年の覇者パンサラッサ、20年の3着馬テリトーリアルもこの血が入っていたように、福島記念にはサドラーズウェルズの血が騒ぐか。来年覚えておいて損はないかもしれない。

3着 アラタ

昨年に引き続き、3着に敗れた同馬。

ペースが流れた分やや位置取りの差が出た感もあり、最後の脚も切れてはいなかった。

とはいえ、長くいい脚を使えるのは強み。
2000mを中心に使われてはいるが、もう少し距離が長くても面白いかもしれない。
日経賞や目黒記念あたりに出てくれば、面白い存在になるのではないだろうか。

総評

およそ1年半の時を経て、感動の重賞2勝目を挙げたユニコーンライオン。
大きな怪我から復帰させただけでなく、このように見事な復活劇を遂げさせた矢作芳人調教師には感服の念しかない。バスラットレオンが前日の武蔵野Sで見違えるような成長を見せていたのも含めて、改めてその手腕を感じさせられた。

ユニコーンライオン自体は10番人気と低評価だったものの、かつては最強女王クロノジェネシスに肉薄して食い下がった馬。復帰してからは低迷しながらも、やっと本来の調子に戻ってきたということだろうか。次走は不明だが、もし有馬記念に出走してくるのであれば再度要注意になりそうな1頭となりそうな、そんな予感のするレースだった。

写真:かずーみ

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