過去2年、この路線の絶対的存在であったグランアレグリアがマイルCS連覇を達成。感動的な走りで引退の花道を飾ってから、早1年が経過した。
その後、ソングラインが安田記念を制したものの、1着から17着が1秒以内に収まるという歴史的大接戦に。そのため、この路線は依然として混迷を極めており、2022年のマイルCSは、レース名どおり真のマイル王を決める戦いとなった。
もちろん、その中心となったのは既存勢力で、そこへ牝馬のマイル王や3歳馬4頭。さらにはサマーマイルチャンピオンも参戦し、GI馬5頭を中心とする重賞ウイナー14頭が集結。米国に遠征予定(喉頭蓋の腫れで取りやめ)だったソングラインを除けば、考え得るこの路線のベストメンバーが顔を揃えた。
そのため、高いレベルで混戦模様となり、単勝10倍を切ったのは6頭。その中で、1番人気に推されたのはシュネルマイスターだった。
2021年のNHKマイルCを制し、続く安田記念が3着。さらに当レースでも2着と好走し、次期マイル王は間違いないと思われた本馬。今季初戦のドバイターフで8着に敗れ、この路線が混迷する原因となってしまったが、安田記念では2着と巻き返しに成功。前走9着に敗れたスプリンターズSは、明らかに叩き台といった感じの度外視できる内容で、今度こそ真のマイルチャンピオンになることが期待されていた。
これに続いたのが牝馬のソダシ。芝1600mは4戦4勝で、阪神JF、桜花賞、ヴィクトリアマイルと、3つのGIを勝利しているこれ以上ない得意舞台。秋華賞からチャンピオンズCに参戦した昨年は当レースに出走しておらず、満を持して臨む今回、現役屈指の人気馬が、牡馬も交えた真のマイル王になれるかどうか、大きな大きな注目を集めていた。
3番人気となったのが5歳馬のサリオス。3年前の朝日杯フューチュリティSを好タイムで制しクラシックでも期待されたが、皐月賞とダービーはコントレイルに及ばず2着惜敗。その後、毎日王冠を制したものの、一転してそこからスランプに陥ってしまった。それでも、今春の安田記念で3着に好走すると、前走の毎日王冠は完全復活を印象づけるレコード勝ち。悲願ともいえる3年ぶりのGI制覇に注目が集まっていた。
そして、4番人気に推されたのが3歳馬ダノンスコーピオン。この春、アーリントンCとNHKマイルCを連勝してGIウイナーの仲間入りを果たすと、前走の富士Sでも、勝ったセリフォスから0秒1差の3着に好走。休み明け2戦目の上積みが期待される今回、3歳マイル王から真のマイル王へ一気に駆け上がることが期待されていた。
以下、当コースで行なわれたGⅡマイラーズCを勝利したソウルラッシュ。前哨戦の富士Sで、ソウルラッシュとダノンスコーピオンを撃破したセリフォスの順に人気は続いた。
レース概況
ゲートが開く直前でウインカーネリアンが立ち上がるも、全馬ほぼ揃ったスタート。むしろ、ウインカーネリアンの出が一番良く、逃げの手に出ようとするところ、ロータスランドとピースオブエイト、ホウオウアマゾンがこれをかわし、3頭の逃げ争いに。その後、600m地点を通過するところで、今度はファルコニアが一気に上がっていき、ハナを奪う展開になった。
6番手にソダシがつけ、ダノンスコーピオン、シュネルマイスター、ソウルラッシュらが中団を追走。さらにそこから2馬身差、後ろから4頭目にセリフォスは控えていた。
前半800mは46秒6の平均ペースで、先頭から最後方ベステンダンクまでの差は、およそ13~4馬身。その後、3、4コーナー中間でソウルラッシュがスパートし、これについていくようなかたちでエアロロノアも進出を開始。4コーナーを回るところで全17頭が一気に凝縮し、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入ってもファルコニアは快調に逃げ、リードはおよそ1馬身。ピースオブエイトとロータスランドがこれを捕まえにかかり、4番手は、ソダシやソウルラッシュなど7頭が横一線となった。
その後、ファルコニアをかわしたピースオブエイトとロータスランドが後続の追撃に激しく抵抗。残り100m地点でも、8頭ほどにチャンスがある好勝負となったが、ここでセリフォスの末脚が一気に爆発。大外から、あっという間にこれらをまとめてかわしさると、最後は1馬身4分の1突き抜け1着でゴールイン。ダノンザキッドが混戦の2着争いを制し、2分の1馬身差でソダシが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分32秒5。好メンバー、好勝負の一戦を制したセリフォスが、ダイワメジャーとの父仔制覇を達成し、これはレース史上初の快挙。4度目のGI挑戦で、念願のビッグタイトルを獲得した。
各馬短評
1着 セリフォス
春2戦は4着に終わったものの、NHKマイルCは休み明け初戦で、安田記念は古馬との初対戦。後者に関しては、むしろ大健闘といえる内容だった。
選出されていた香港マイルの出走を辞退しており、年内はこれで休養となる可能性が高いが、もちろん来年も楽しみな存在。今が競走馬としての全盛とはとても思えず、マイル路線にセリフォス時代がやってくるか注目される。
一方、血統に目を向けると、父ダイワメジャーに、母父が仏ダービー馬ルアーヴルという構成ながら瞬発力タイプで、「天才は例外」を地でいくような馬。来年22歳を迎える父は、2歳戦で相変わらずの好成績を残しており、今年もJRAで13頭が勝ち上がり。一方、母の父としてもアルテミスS勝ちのラヴェルを出すなど素晴らしい活躍で、JRAの2歳ブルードメアサイアーランキングでも3位につけている(2022年11月18日時点)。
2着 ダノンザキッド
リピーターが多い当レースで、前年3着馬が再び好走。
この日は、デビュー以来最高となる530kgの馬体重も、まるで太く見せるようなところはなく、パドックの外側をキビキビと歩いて絶好のデキ。狭いスペースを割って出てくる力強い末脚で、見せ場たっぷりの内容だった。
3戦3勝で制したホープフルS以来およそ2年ぶりの連対となったが、勝ち馬から1秒以上も離されたのは、皐月賞と中山記念だけ。それ以外は大きく負けておらず、父ジャスタウェイが本格化したのは、まさに4歳秋。真価発揮がこれからであっても、なんら不思議ではない。
また、騎乗した北村友一騎手は、昨年5月の落馬負傷から復帰後、1年半ぶりのGI騎乗でいきなり2着。人馬とも、完全復活の日は近そうだ。
3着 ソダシ
キャリアを重ねるにしたがって瞬発力勝負に対応できるようになっているものの、この馬にとっては厳しい展開。それでも、持ち味の勝負根性を発揮してかわされてからも辛抱し、最後まで見せ場を作った。
今後どういった路線を歩むのか、ある意味、最も注目される存在。芝ダート両方のGI制覇を狙うのか。それとも芝のマイル路線に専念するのか。引き続き、今後の動向から目が離せない。
レース総評
前半800mは46秒6、同後半が45秒9=1分32秒5。直近2年ほどではないものの瞬発力勝負となり、道中、中団付近に位置していた馬が上位を占める中、4コーナー13番手から前をまとめて差し切ったセリフォスの強さは際立っていた。
これまでも素晴らしい瞬発力を発揮してきたようにみえたセリフォス。しかし、陣営によると末脚があまり長続きしないそうで、前走も、藤岡佑介騎手が追い出しをギリギリまで我慢しての勝利だったとのこと。今回、殊勲の手綱をとったのはレーン騎手だったが、陣営や藤岡騎手もそのことをしっかりと伝えており、これまでの経験が活かされる結果となった。
また、中内田充正調教師はこれがGI4勝目で、すべて阪神芝1600mのレース。過去3年の当コースの勝ち頭で、抜群の信頼感を誇っている。
一方、セリフォスを生産した追分ファームは、ペルシアンナイトで制した2017年の当レース以来、これが5年ぶりのGI制覇となった。
ただ、昨年も開場以来の最多勝をあげるなど名門復活の予兆があり、今年は、生産馬がGIで3度(NHKマイルC、安田記念、菊花賞)1番人気に。結果こそ出ていなかったものの、ついに久々のGI制覇を成し遂げ、セリフォスはもちろんのこと、ガイアフォースやイルーシヴパンサーといったスター候補とともに、ビッグタイトルのさらなる上積みが期待される。
写真:shin 1