[重賞回顧]府中1800に潜むスパイスは勝利の隠し味~2022年・東京スポーツ杯2歳S~

毎年、クラシック戦線に向けて重要な役割を占める2歳重賞。その中でもひときわ有力馬を輩出している名物レースが、東京スポーツ杯2歳Sである。東京芝1800で行われるG2競走だが、G3時代含め、その勝ち馬には歴代の名馬クラスが名を連ねている。G1を勝った馬だけに絞って名を挙げても、キングヘイロー、アドマイヤコジーン、アドマイヤマックス、ナカヤマフェスタ、ローズキングダム、サダムパテック、イスラボニータ、サトノクラウン、ワグネリアン、コントレイル、ダノンザキッド、イクイノックス……と凄まじい。G1に直結するレースと言って良いだろう。

今年は、抜けた人気を集めた馬がいた。ハーツコンチェルトと名付けられた鹿毛のハーツクライ産駒は、2ヶ月前の中京競馬場で2着を8馬身突き放す圧勝劇をを演じてみせる。その勝ち方が大きく評価された。来年、新緑の府中を見据えるならばここでの好走は欠かせない。本馬の真の実力が問われる一戦でもある。

2番人気は同じハーツクライ産駒のダノンザタイガー。2020年のセレクトセールにおいて2億7000万円で落札された同馬は、前走の新潟未勝利を快勝した。デビュー戦は同距離の東京芝1800mで2着と実績も十分。鞍上にはダノンの勝負服といえばこの人という印象も強い川田将雅騎手を迎え、黄金タッグで飛躍の一戦を目指す。

3番人気のフェイトは新種牡馬リアルスティール産駒。先週仁川を逃げ切ったオールパルフェと同じ父を持つ矢作厩舎所属の新星は、福永祐一騎手を背に据えて臨む。こちらも新潟の新馬戦を5馬身ぶっちぎって乗り込んできた。

以下、サトノクラウン産駒でこのレースと同舞台の新馬戦を制しているタイセイクラージュ、上がり33.3の切れ味を持つガストリックが続く。オッズ的には3強構成ながらも、まだまだ未知数な勢力も多い一戦。期待の新星となるのはどの馬か、戦いの火蓋が切って落とされた。

レース概況

やや立ち上がる格好でハーツコンチェルトが出遅れ、最後方からの競馬に。ガストリックとテンカノギジンもそれほどいいスタートではなく後方からのレースとなり、ややバラっとしたスタートとなった。

好スタートを決めた黒い帽子シルトホルンがそのまま先頭に立っていくと、それに続くように前走ダートで初勝利を遂げたドゥラエレーデが2番手へ。鞍上の横山武史騎手がやや抑えながらタイセイクラージュ、ジョウショウホープとロッククリーク3頭が馬体を合わせて3番手集団を形成する。だがタイセイクラージュは鞍上に背くかのように口を割っていきたがるしぐさをしきりに見せていた。やや離れてフェイトとダノンザタイガーが追走し、単独で追走する2頭を見ながら後方に4頭。ガストリック、シルバースペード、テンカノギジン、そして出遅れたハーツコンチェルトがややポジションを押し上げながら追走する形となっていた。

西日を浴びる大欅の向こう側、馬群は先団と後方馬群がきっぱり分断されて3コーナーを迎える。

依然先頭を走るシルトホルンと、その外にドゥラエレーデ。折り合いの付かなかったタイセイクラージュもようやく落ち着いて3番手と、ほぼスタートから馬群は変わらずに勝負どころの4コーナーを迎える。人気の3頭、ダノンザタイガー、ハーツコンチェルト、フェイトのいずれもが外目を回して、府中の直線526mに入ってきた。

400のハロン棒。先頭では粘るシルトホルンとドゥラエレーデの2頭が繰り広げ続けている一方、先団でこの争いに割って入らんとしたロッククリーク、ジョウショウホープは脚色が怪しい。タイセイクラージュは前半の引っ掛かりが響いたか、すでに馬群に沈み、先頭争いからは大きく後退。外に出して伸びてきた人気3頭も、フェイトは坂の登りで脱落した。ダノンザタイガーとハーツコンチェルトがじわりじわりとその脚を伸ばしていく中、内から赤い帽子、水色と赤の勝負服が差し脚を伸ばす。

その馬こそ、新馬戦で33.3の上りを繰り出したガストリック。

伸びあぐねるフェイト、ジョウショウホープを置き去りにし、一度は交わされかけたダノンザタイガーにも食い下がる。そのままドゥラエレーデを捉えると、迫るダノンザタイガーとの追い比べ。ハーツコンチェルトはやや遅れて3番手までが精いっぱい。

抜かすか抜かされまいか、残り100mで最後まで火の出るようなたたき合いを繰り広げられた両頭の勝者は、ガストリックだった。

偉大なる先輩たちに続くべく、大きな大きな重賞勝利を遂げて見せた。

注目馬短評と上位入線馬

1着 ガストリック

3年前このレースを快勝したコントレイルのノースヒルズ軍団から、また楽しみな1頭が現れた。

道中は中団からの競馬を展開。直線、唯一内をついて伸びたその強心臓は、来年のクラシック戦線でもしっかりと通用するであろう。

父ジャスタウェイは11年前の当レースで4着。父が踏めなかった皐月賞の舞台へと進むには──そして父が11着に敗れたダービーの舞台へと進むには、十分すぎる勝利。今後の成長が非常に楽しみになる走りだった。

鞍上の三浦皇成騎手は2週連続の重賞勝利と、波に乗る。年末の重賞戦線でも引き続き注目したい。

2着 ダノンザタイガー

後方から進め、直線外から一気に伸びてきた同馬が2着。

やや内が伸びやすいトラックバイアスも若干影響した感はあるが、鞍上の川田騎手は「2戦目よりはるかにいい」と好感触を掴んでいるようで、来春への期待は高まったと言える。

ハーツクライ産駒らしく、まだまだ成長分を残しているようにも見受けられる。

3着 ハーツコンチェルト

スタートで出負けし後方からの競馬を余儀なくされながらも、最後は2着のダノンザタイガーと共に突っ込んできた。

前走のように進出して先団から前をとらえるという競馬ではなかったが、今回も上がり最速の末脚を繰り出しているように、敗因はスタートで遅れた分だと考えられる。次走も引き続き注目なのは、間違いない。

総評

1~3着までがいずれもハーツクライの血を引く馬という結果となった。

ハーツクライの血はどこかのタイミングで爆発的に成長、もしくは走る条件が変わると勢いよく激変するような傾向があるだけに、ここから距離の伸びる皐月賞・ダービー、果ては菊の舞台まで、この3頭からは目が離せなくなるのではないだろうか。

3着に敗れたハーツコンチェルトを筆頭に、まだまだ伸びしろをかなり残していそうな馬たちも多く、来春のクラシックの舞台までにさらなる成長を見せてくれそうな予感がある。

そして近5年のうち4頭がG1馬、そのうち2頭はダービー馬と大きな出世レースになっている当レース。タイムだけに限って言えば1.45.8はここ10年でも2番目に早く(1番は2019年のコントレイルの1.44.5。これに次ぐのが2013年のイスラボニータ 1.45.9)、ここだけで短縮比較するならばG1クラスの持ちタイムともいえるだろう。

ガストリック自身も、直線での追い比べの強心臓、そして勝負根性にはかなり期待のできるものがありそうだ。タイムが速くなるなかでもしっかり勝ち切ったのは評価してよさそうで、クラシック戦線に向けて大注目の1頭となりそうだ。

写真:shin 1

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