[重賞回顧]3歳世代が好調のルーラーシップ産駒から、また1頭新星が誕生~2023年・きさらぎ賞~

クラシックが始まるまでの3歳重賞で、近年、出世レースとしての地位を大きく高めているのがシンザン記念と共同通信杯ではないだろうか。前者は、三冠馬を複数送り出し、後者はクラシックの中でも、とりわけ皐月賞と抜群の相性を誇っている。

ただ、牡馬クラシックとの相性でいえば、きさらぎ賞も決して見劣りはしない。スペシャルウィークやナリタトップロード、ネオユニヴァース、サトノダイヤモンドらが、このレースを制した後にクラシックも制覇。一方、2011年のきさらぎ賞を勝利したトーセンラーも5歳時にマイルCSを制したが、そのとき3着に敗れたオルフェーヴルは、続くスプリングSから年末の有馬記念まで、牡馬三冠レースを含む重賞6連勝を達成した。

そんなきさらぎ賞も、京都競馬場改修工事の影響で、3年連続となる中京競馬場での開催。例年、少頭数とはいえ、12日間続いた開催の掉尾を飾るレースとしてはやや寂しい8頭立てで争われることとなり、下馬評では2頭の一騎打ちムード。その中で、フリームファクシが断然の支持を集めた。

デビュー戦こそ、年末のGIホープフルSで1番人気に推されたミッキーカプチーノの2着に敗れるも、続く未勝利戦と、今回と同じ舞台でおこなわれた1勝クラスを連勝している本馬。血統面でも、国内外のGIを制した名牝ディアドラの半弟という良血で、大きな注目を集めていた。

これに続いたのがオープンファイア。フリームファクシがセレクトセール1歳市場において税込1億5400万円で落札された高馬なら、こちらは同市場において税込3億3000万円で落札された超高馬。国内に6頭しかいないディープインパクト産駒の1頭で、今回と同じ舞台でおこなわれたデビュー戦を快勝している。前走のアイビーSは3着に敗れたものの、リステッドで入着した実績は上位。こちらも注目を集めていた。

以下、こちらも出世レースのエリカ賞を制した紅一点のレミージュ。3戦連続上がり最速をマークし、前走、未勝利戦を脱出した関東馬ロゼルの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、フリームファクシがわずかに好スタート。その内のシェイクユアハートも、まずまずのスタートを切った。

前は、その2頭がいこうとするところ、スタートでやや後手を踏んだレミージュが挽回。1コーナー入口で先手を奪い、フリームファクシ、シェイクユアハートをはさんで、クールミラボーとロゼルが4番手を併走していた。

そこから2馬身差でオープンファイアが続き、同じく2馬身差の7番手にノーブルライジング。そして、さらにそこから4馬身差の最後方にトーセントラムが控えていた。

前半1000mは1分1秒2の遅い流れ。後方各馬がバラバラで追走したため、先頭から最後方まではおよそ12~3馬身と、少頭数にしてはやや縦長の隊列となった。

その後、3コーナーに入ってもペースは上がらず、残り600mで最後方のトーセントラムがノーブルライジングとの差を詰めると、全体が8馬身ほどに凝縮。すると、逃げるレミージュがようやくといった感じでペースを上げ、後続を引き離そうとしたものの、フリームファクシが楽な手応えでこれについていき、そのままレースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、川田将雅騎手がフリームファクシを馬場の真ん中に誘導し、単独先頭。一方、内ラチ沿いに進路を取って懸命に粘り込みを図るレミージュに、オープンファイア、ロゼル、シェイクユアハート、クールミラボーの4頭が襲いかかり、直線半ばでこれをかわしたものの、このときフリームファクシとの差は2馬身半に広がっていた。

それでも、セーフティーリードと思われたこの差を一気に詰めてきたのが、2番人気のオープンファイア。残り100mでエンジン全開となり、ゴール寸前で馬体を並べるところまで迫ってきたものの、この猛追をなんとか凌ぎ切ったフリームファクシが1着でゴールイン。アタマ差2着にオープンファイアが入り、3馬身差の3着にクールミラボーが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分59秒7。下馬評どおりの一騎打ちを制したフリームファクシが、3連勝で重賞初制覇。現3歳世代が好調のルーラーシップ産駒から、また一頭、新星が誕生した。

各馬短評

1着 フリームファクシ

1コーナーでレミージュに前を横切られて立ち上がる不利があり、さらに道中は、終始力みながらの追走。それでも早目先頭から押し切る横綱相撲で、着差以上に強い内容だった。

母系は、いわゆるソニンクのファミリーで、半姉ディアドラはもちろんのこと、同じ一族からダービー馬ロジユニヴァースや、ノーザンリバー、ランフォルセ、ジューヌエコールなど、重賞ウイナーが続々と誕生している名門の出身。

今後に関していえば、ダービーよりは皐月賞のほうが良さそうで、力みながらの追走だったとはいえ、小回りの中山で先行力は大きな武器になるはず。また、かなり先の話にはなってしまうものの、持久力や底力が問われる古馬のGI。例えば、宝塚記念などでも狙ってみたい。

2着 オープンファイア

エンジン全開になるまで時間はかかったものの、過去2戦と同様、最後はさすがの伸び脚。直線半ばでは絶望的と思われた差を一気に詰め、勝ち馬を脅かした。

ディープインパクト産駒で、今回も33秒台の上がりをマーク。とはいえ500kgを超えるパワフルな馬体の持ち主で、460kg前後の馬体で活躍した(している)コントレイルやシャフリヤールと、少しタイプは異なるかもしれない。

もちろん、ダービーで好勝負してもおかしくないが、皐月賞に出走したとして、例えば2009年や16年のように、レース当日、最後の直線に差し・追込み馬にとって有利な強い追い風が吹けば、逆転する可能性もある。

3着 クールミラボー

上位2頭には決定的な差をつけられたものの、初めての芝のレースにしては上々の内容だった。

父ドレフォンに母父キングカメハメハの組み合わせは、皐月賞馬ジオグリフや、その前哨戦、若葉Sを勝利したデシエルトなどと同じ。賞金を加算できなかったのは痛いが、今後ダート戦に戻った際はもちろんのこと、デシエルトと同じく若葉Sに出走することがあれば注目したい。

レース総評

前半1000mが1分1秒2に対し、同後半は58秒5=1分59秒7で後傾ラップ。馬場差などがあるため単純比較はできないものの、中京でおこなわれた直近3回のきさらぎ賞では、最速タイムだった。

現4歳までの6世代で、種牡馬ルーラーシップが送り出したGI馬はキセキとメールドグラースの2頭。一方、血統構成がほぼ同じドゥラメンテ(ともに父がキングカメハメハで、前者は母が、後者は母母がエアグルーヴ)は、3世代で5頭のGI馬を送り出した。

ただ、現3歳世代に関していえばルーラーシップ産駒も大健闘といえる内容で、朝日杯フューチュリティSを制したドルチェモアを筆頭に、重賞連対馬はこれが4頭目。さらに、ホープフルS3着のキングズレインも同産駒で、母の父としても、デイリー杯2歳Sを勝利したオールパルフェ(父リアルスティール)を送りだしている。

そして、重賞で3着内に好走したことのあるこれら5頭が、イコール現3歳世代におけるルーラーシップ産駒の獲得賞金上位5頭(2月3日時点)。そのうち、フリームファクシの母父はスペシャルウィークで、それ以外の4頭はすべてディープインパクトを母の父に持つ。

種牡馬ルーラーシップの大きな特徴といえば、サンデーサイレンスの血を持たないことで、母系からその血を入れることが必須。逆に、サンデーサイレンスの血を持っているかいないかが、同じような血統構成を持つドゥラメンテとの唯一にして最大の違いといえる。

ただ、母系からサンデーサイレンスの血を入れたとしても、サンデーサイレンス直系の種牡馬やドゥラメンテ産駒に比べると、スピードや瞬発力勝負ではやや分が悪いルーラーシップ産駒。現3歳世代は早くから活躍しているものの、自身が本格化したのは古馬になってからで、菊花賞や底力が問われる宝塚記念、有馬記念でこそルーラーシップの良さがでてくるのではないだろうか。

また、キングカメハメハの後継という意味では、ロードカナロアや、今春産駒がデビューするレイデオロなど優秀な種牡馬が多数いるが、残念ながら、ドゥラメンテは2021年にこの世を去ってしまった。そのため、現3歳世代の活躍を踏まえて良質な繁殖牝馬が回ってくれば、さらなる大物が出てきてもなんら不思議ではなく、ルーラーシップ産駒の逆襲は、まだ序章に過ぎないのかもしれない。

写真:バン太

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