[重賞回顧]早目先頭から押し切った「おてんば娘」シングザットソング。2歳女王に挑戦状を叩きつける勝利!~2023年・フィリーズレビュー~

上位入着馬に桜花賞の優先出走権が付与されるトライアルは、計3レース。その中で、唯一本番と異なる距離でおこなわれるフィリーズレビューは、どちらかといえば短距離志向の強い馬が出走するレースといえる。

そのため、桜花賞と同じ舞台でおこなわれるチューリップ賞組のほうが本番で好走しやすいのは、ある意味当然の話。そして、阪神競馬場に外回りコースが新設されてから、この傾向はいっそう強まることとなった。

その初年度。07年の桜花賞は、典型的な結果といえるのではないだろうか。

前年の阪神ジュベナイルフィリーズ。一騎打ちを演じたのはウオッカとアストンマーチャンの2頭で、ハナ差競り勝った前者は、桜花賞の前哨戦にチューリップ賞を選択。永遠のライバル、ダイワスカーレットとの初対決に勝利し、続く本番では雪辱を許したものの、ともに日本競馬を牽引する存在となった。

一方のアストンマーチャンは、フィリーズレビューに出走して難なく勝利。桜花賞では、前述した2頭のマッチレースに加われなかったが、秋のスプリンターズSで古馬を一蹴し、短距離界の頂点に立った。

これは、スプリンターズSがGIに昇格後、なおかつ秋に施行時期を移してからは初の3歳馬による勝利。以後、3歳馬の勝利は、21年のピクシーナイトまで14年間も実現しないほどの快挙だった。

また、フィリーズレビュー組が本番で苦戦を強いられてばかりかというと、もちろんそんなことはなく、17年の2着馬レーヌミノルは、断然人気のソウルスターリングや後の年度代表馬リスグラシューを撃破。見事、桜の女王の座に就き、22年の2着馬ナムラクレアも、本番で勝ち馬から0秒1差の3着と好走している。

そんなフィリーズレビューに今年もフルゲートの18頭が出走し、最終的に5頭が単勝10倍を切る混戦。その中で、1番人気に推されたのはブトンドールだった。

2頭出走していた重賞ウイナーの1頭で、3走前に函館2歳Sを勝利した本馬。さらに、今回と同じ舞台でおこなわれたファンタジーSでも2着に好走している。父は高松宮記念を制したビッグアーサーで、前走の阪神ジュベナイルフィリーズは距離が長かった可能性もあり、200m短縮で臨む今回、改めて注目を集める存在だった。

票数の差で2番人気となったのがシングザットソング。10月のデビュー戦を勝利した後、白菊賞5着をはさんで臨んだ前走は、数多くのGI馬を送り出してきた出世レースのエルフィンS。結果は、勝ち馬から0秒5差の3着とまずまずの内容だった。それも含め、デビューからの3戦すべてで上がり最速をマークするなど、末脚は確実。ただ、現状では1勝クラスに出走できる身だけに、なんとしても権利を手にしたい一戦だった。

3番人気に推されたのがリバーラで、こちらがもう1頭の重賞ウイナー。その2走前ファンタジーSでは、ブトンドールの猛追を抑えて逃げ切り勝ちを収めている。前走の阪神JFは大敗したものの、こちらも距離が長かった可能性があり、ハイペースを先行した点も敗因の一つ。重賞を勝った舞台に戻って巻き返し、2つ目のタイトルを獲得するか。大きな期待を背負っていた。

以下、未勝利戦と1勝クラスの萌黄賞を連勝中のルーフ。同じく、未勝利戦と1勝クラスを連勝中の関東馬ポリーフォリアの順で、人気は続いた。

レース概況

トウシンカーリンが枠入りを嫌がったものの、なんとかゲートイン。予定より4分ほど遅れてスタートが切られると、内からイコノスタシス、ジューンオレンジ、プウスカンドゥールの3頭が出遅れ。ニシノトキメキも、良いスタートを切ることができなかった。

一方、前はわずかに好スタートを切ったシングザットソングがすぐに控え、内からジョリダム、中からエコロアイとリバーラが先行。さらに、ややいきたがる素振りを見せながらトラベログも続き、これら4頭が集団を形成した。

1馬身差でポリーフォリア、シングザットソング、イティネラートルが固まり、ルーフはちょうど中団に位置。一方、1番人気のブトンドールは、そこから2馬身差の11番手に控えていた。

前半600mは、33秒2のハイペース。先頭から最後方のニシノトキメキまでは20馬身近くの差で、かなり縦長の隊列となった。

その後、3~4コーナー中間に入ると、トラベログとシングザットソングが1つポジションを上げ、前は6頭の集団に。さらに、4コーナーで中団以下の各馬も仕掛け始めると、ニシノトキメキ以外の17頭が10馬身以内に固まり、レースは直線勝負を迎えた。

直線に向いてすぐ、リバーラが逃げるエコロアイに並びかけようとするも、2頭をまとめてかわしたシングザットソングが、坂下で先頭に立つと、先行勢はここで失速。かわってムーンプローブとジューンオレンジ、ルーフの3頭が末脚を伸ばし、懸命に前との差を詰めようと試みるも、シングザットソングの勢いはなかなか衰えない。

その後、坂を駆け上がり、残り50m付近でシングザットソングの脚色は鈍ったものの、最終的には後続の追撃をクビ差凌ぎ切り、1着でゴールイン。激戦の2着争いはクビ差でムーンプローブが制し、3着にジューンオレンジが続いて、これら3頭が桜花賞への優先出走権を獲得した。

良馬場の勝ちタイムは1分20秒7。ハイペースを早目先頭から押し切ったシングザットソングが重賞初制覇を飾り、同じドゥラメンテ産駒の2歳女王に挑戦状を叩きつけた。

各馬短評

1着 シングザットソング

デビューからの3戦すべてで上がり最速をマークした一方、スタートしてすぐ外へ逃避する癖があり、中間はゲート練習が中心に。さらに、ハミを変えるなどの工夫をしてレースに臨んでいた。

ただ、今回は良く見えたスタートも、騎乗した吉田隼人騎手によると紙一重で、怪しい挙動も見せていたそう。また、鞍上が左鞭で矯正しながら4コーナーを回っており、依然として課題は残っている。

とはいえ、後述する「歴史的」ハイペースを3コーナー6番手、4コーナー4番手で追走し、早目先頭から押し切った内容は着差以上の強さ。ドゥラメンテ産駒で1400mがベストとは思えず、フィリーズレビュー組というだけで人気を落とすようであれば、本番でもマークしたい存在。

2着 ムーンプローブ

中団追走から最後はジューンオレンジとともに勝ち馬を追い詰め、あと少しのところまで迫った。

わずかながら、最も良いスタートを切ったのは本馬とシングザットソングで、結果的にこの2頭が1、2着。3着ジューンオレンジにとっては、いっそう悔やまれる出遅れとなってしまった。

桜花賞と同じ舞台でおこなわれた2走前の白菊賞ではシングザットソングに勝利しており、ハイペースを先行して大敗した前走の阪神ジュベナイルフィリーズは、白菊賞から中1週ということもあって、なおさら度外視できる内容。本番でも、今回のように控える競馬ができた上で同じようにペースが速くなれば、激走する可能性は十分にある。

3着 ジューンオレンジ

結果だけみると、非常に痛い出遅れ。ただ、これによって腹が決まり、後方からレースを進めたのが功を奏したか、ムーンプローブとともにあわやの場面を作った。

2代父ハーツクライは3月9日にこの世を去ってしまったが、出走18頭中、同馬の血を持っているのはこの馬だけ。一方、母系をみると、3代母ツィンクルブライドは94年の当レースで4着に敗れたものの、本番では巻き返し、勝ったオグリローマンのハナ差2着に惜敗した実績がある。

また、デビュー7年目の富田暁騎手とコンビを組む点も、不思議と応援したくなる気持ちが湧き出てくるポイント。桜花賞はもちろん、その先も温かい目で見守っていきたい存在。

レース総評

前半600mは33秒2のハイペースで、11秒7を挟み、同後半が35秒8=勝ちタイムは、1分20秒7だった。

フィリーズレビューは、近年、毎年のようにハイペースとなり、33秒台のラップが刻まれることは決して珍しいことではないが、それでも今回は飛びきりのハイペース。この前半600m33秒2は、しっかりとしたデータが残っている1986年以降のフィリーズレビュー(報知杯4歳牝馬特別も含む)はおろか、阪神芝1400mでおこなわれた重賞の中でも史上最速タイの猛ペース。また、重賞に限らず、86年以降に阪神芝1400mでおこなわれたすべてのレースをみても、4位タイのハイペースだった(1位は、00年7月9日におこなわれた3歳オープン菩提樹Sの32秒7)。

結果的に、4コーナーを3番手以内で回った馬は軒並み下位に敗れ、2着ムーンプローブから7着サラサハウプリティまでは、道中、中団から後方に構えていた馬が占めた。そのため、先行勢では唯一上位に食い込むどころか勝ち切ったシングザットソングは、2着との差がクビとはいえ、着差以上の強さだったといえる。

桜花賞トライアルの3レースは、この日、中山でおこなわれたアネモネSも含めてすべて終了。18日におこなわれるフラワーCの上位入着馬が、桜花賞に駒を進めるかどうかだが、優先出走権を獲得した8頭が決まったことで、出走予定馬の大枠は見えてきた。

序列としては、やはり2歳女王のリバティアイランドが最上位で、これに続くのがシンザン記念を制したライトクオンタム。さらに、クイーンCの勝ち馬ハーパーや、阪神ジュベナイルフィリーズの2着馬シンリョクカの順になるだろうか。

ただ、近年の桜花賞は枠順が勝負を分けるポイントとなっており、明らかに内有利の傾向。そして、もし今年も同じ傾向になれば、枠順次第で前述した序列があっさりと崩れ、シングザットソングを中心とするフィリーズレビュー組や、チューリップ賞組が台頭してもおかしくなく、リバティアイランド一強とは言い切れない部分がある。

シングザットソングに話を戻すと、課題はいくつかあるものの、今回の勝ち方を見る限りポテンシャルは非常に高い。また、生産牧場こそ違うものの、黄色と黒の縦縞の勝負服を身に纏うドゥラメンテ産駒で桜花賞を勝利したのが、22年の二冠牝馬スターズオンアースである。

黄色と黒の縦縞の勝負服=社台レースホースが所有する3歳馬は他に、上述したライトクオンタムや、京成杯を圧勝したソールオリエンスなど逸材揃い。また、古馬でも、フィリーズレビューの10分前におこなわれた金鯱賞をプログノーシスが勝利しており、国内外の重賞を連勝中のシルヴァーソニックなど、スターズオンアースに次ぐ大物候補が続々と登場している。

写真:かぼす

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