2023年も、残すところあと1ヶ月を切った先週末。砂の頂上決戦チャンピオンズCがおこなわれた。
既に発表されているとおり、来たる2024年はダート路線が拡充され、その目玉となるのがクラシック三冠競走の創設。それに伴って複数の前哨戦が新規に格付けされ、古馬混合のレースもさきたま杯がGⅠに昇格するなど変更点がいくつかある。2024年以降のチャンピオンズCも、これまで以上に様々な路線から有力馬が出走してくるレースとなるだろう。
そんな中おこなわれた2023年のチャンピオンズCは、やや混戦ムード。4頭が単勝10倍を切る卍巴の様相で、最終的にレモンポップが1番人気に推された。
2走前のドバイGSこそ大敗したものの、国内では12戦9勝2着3回とまだ底を見せていない本馬。今季は、根岸SとフェブラリーSを連勝しGⅠ初制覇を成し遂げると、ドバイ遠征をはさんだ前走のマイルCS南部杯は、なんと2着に2秒0差をつける圧勝だった。コーナー4回の競馬と1800mは自身初。さらに、このレースでは断然不利とされる大外枠からの発走など、懸念材料が複数あるものの、実績と勢いは明らかに上位。史上4頭目となる、同一年のJRAダートGⅠ制覇が懸かっていた。
これに続いたのが3歳馬セラフィックコール。2月のデビュー戦を8馬身差で圧勝した後、2~3ヶ月に1走のペースで条件戦を勝ち上がり、前走のみやこSも素晴らしい末脚を繰り出し完勝。重賞初挑戦初制覇を成し遂げ、デビューからの連勝を5に伸ばした。5戦すべてで上がり最速をマークするなど末脚は確実。無傷の6連勝でビッグタイトル獲得なるか、注目を集めていた。
僅かの差で3番人気に推されたのがクラウンプライド。GⅠタイトルはいまだ手にしていないものの、前年の当レースも含め2着3回とあと少しのところまで迫っている。4度目の海外遠征となった前走のコリアCは、これまでの鬱憤を晴らすように、2着に1秒7差をつける圧勝。それ以来3ヶ月ぶりの実戦となる今回、待望のGⅠ制覇が懸かっていた。
そして、4番人気となったのがテーオーケインズ。2年前の当レースを含めてGⅠを3勝し、今回のメンバーではメイショウハリオに並ぶ実績を残している。6歳となった今季は勝利こそないものの、GⅠを4戦し2、4、3、3着と安定。既に、年内での引退と種牡馬入りが発表されており、残された戦いは、多くても今回と東京大賞典だけ。有終の美に向けて2年前の再現なるか。こちらも、大きな注目を集めていた。
レース概況
ゲートが開くと、ダッシュがつかないウィルソンテソーロとセラフィックコールが後方からの競馬。一方、前は大外枠からレモンポップがハナを切り、ドゥラエレーデが2番手。さらに、テーオーケインズと出ムチを入れられたケイアイシェルビーが続く展開。
その後ろにジオグリフとクラウンプライドがつけ、グロリアムンディとメイクアリープをはさんで、中団やや後ろにハギノアレグリアスとメイショウハリオが位置。2番人気のセラフィックコールは、後ろから2頭目に位置していた。
前半800m通過が48秒8、1000m通過は1分0秒9で、パサパサの馬場を考えれば平均的なペース。先頭から最後方のアーテルアストレアまではおよそ10馬身で、全15頭はほぼ一団。続く4コーナーでさらに馬群が凝縮する中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入るとすぐドゥラエレーデが前に並びかけようとするも、レモンポップがスパート。再び1馬身半のリードを取った。2番手は、盛り返したドゥラエレーデとテーオーケインズ。さらに、その後ろからメイショウハリオとメイクアリープが末脚を伸ばそうとするも、レモンポップがもう一段加速してリードを2馬身に広げると、後続と同じ脚色になり、残り100mで勝利を決定的なものにした。
焦点は2着争いとなり、後方から勢いよく追い込んだウィルソンテソーロがドゥラエレーデとテーオーケインズをまとめて交わしさり先頭に迫ったものの、着差以上の強さで逃げ切ったレモンポップが1着でゴールイン。1馬身1/4差2着にウィルソンテソーロが入り、ドゥラエレーデがクビ差の3着で続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分50秒6。すべての懸念材料を圧倒的なスピードで吹き飛ばしたレモンポップがGⅠ連勝。史上4頭目となる、同一年のJRAダートGⅠ制覇を成し遂げた。
各馬短評
1着 レモンポップ
自身初となるコーナー4回の競馬と1800m戦。さらに大外枠からのスタートなど、複数の懸念材料があったものの、持ち前のスピードを活かした逃げで払拭。2着馬に迫られるも、着差以上の強さで勝ち切った。
エスポワールシチーやトランセンドなど、過去のダートチャンピオンは逃げて後続を圧倒していたイメージがあるが、チャンピオンズCの舞台が中京に替わってから、4コーナーを先頭で回った馬は連対なし。それを、不利といわれる大外枠からの逃げ切りで覆したレモンポップは、過去の名馬に匹敵する実力を持っているといっても過言ではない。
間もなく6歳を迎えるものの、大切に使われており、今回がまだ14戦目。1400m~1800mでは、まだまだこの馬の天下が続くのではないだろうか。
2着 ウィルソンテソーロ
スタートでダッシュがつかず、道中は後方でじっと我慢。ただ、外には常にアーテルアストレアがいたため、勝負所でもインに進路を取らざるをえなかった。
とはいえ、ノンコノユメやサウンドトゥルー、ウェスタールンドなど、過去のチャンピオンズCで追込みを決め、連対したのはまさにこのパターン。直線に入ってすぐ追い出しを待たされたものの、残り200m地点から猛然と末脚を伸ばし勝ち馬を追い詰めた。
父はキタサンブラックで、世界最強を証明したイクイノックスと同じ。産駒は、芝・ダートで勝率、複勝率がほぼ同じながら、JRAのダート重賞で連対したのはこれが初。また、距離に関しては、1800m以上あったほうが良さそうで、来年の当レースでも好走が期待できるだろう。
3着 ドゥラエレーデ
こちらはジャパンC2、3着馬と同じドゥラメンテの産駒。ダートは3度目で、国内では、実に未勝利戦以来の2度目。しかし、UAEダービー2着の実力は伊達ではなく、前王者のテーオーケインズに競り勝って3着を確保した。
2022年の1~3着馬は、いずれも父か母父がキングカメハメハ。今回、キングカメハメハ系種牡馬の産駒で好走したのはドゥラエレーデのみかと思いきや、1着レモンポップの2代父は、キングカメハメハの父キングマンボ。2024年以降も、チャンピオンズCでは「キングマンボ持ち」に注目したほうが良いだろう。
レース総評
前半800m通過は48秒8で、12秒1を挟み、同後半が49秒7=1分50秒6。競り掛けられなかったことや、3ハロン目が12秒9とペースが落ち、息が入ったことでレモンポップにとっては楽な展開となった。
とはいえ、GⅠの大舞台において、なおかつ1番人気の立場で思い切ったことはなかなかできるものではない。言い換えれば、それをやってのけるのが一流ジョッキーの証しともいえるが、26歳の坂井瑠星騎手はいとも簡単にそれをやってのけた。
坂井騎手にとって、この勝利が2023年のJRAにおける99勝目。自身初の年間100勝は、ほぼ間違いなく達成されるだろう。
また、日本調教馬かつ外国産馬のチャンピオンズC勝利は、ジャパンCダートとしておこなわれていた2002年のイーグルカフェ以来21年ぶり(外国調教馬を含めると、翌03年のフリートストリートダンサー以来)で、連対も2016年アウォーディー以来。一方、4コーナーを先頭で回った馬の勝利は、2011年のトランセンド以来12年ぶりで、大外枠からの勝利もそのとき以来。いずれも、舞台が中京に替わってからは初めての勝利だった。
さらに、1400mの根岸Sを勝利した馬が、後に1800m以上のダートGⅠを勝利するのも今回が初と、まさに記録ずくめの勝利。裏を返せば、あらゆる不利な要素を払拭しての勝利で、国内で連対率100%の戦績も含め、レモンポップは、ダート界の過去の名馬に匹敵する実力の持ち主といえるだろう。
管理する田中博康調教師は、南部杯を勝利した後「ここ(チャンピオンズC)で結果が出るようならサウジも視野に入ってくる」とコメントしており、次走がサウジCになる可能性もある。
2024年は、さきたま杯に加え、JBCスプリントも佐賀の1400mでおこなわれるため、筆者が勝手に期待しているのが1400m~1800mの3階級制覇。もっといえば、2000mとの4階級制覇で、間もなく6歳シーズンを迎える中でもむしろ凄みを増している現在のレモンポップであれば、それだけのことをやってのけてもなんら不思議ではない。
そして、最後に触れたいのが、ウィルソンテソーロを2着に導いた原優介騎手である。
デビュー4年目の原騎手は、JRA通算58勝ながら、2023年は自己最多を大きく上回る25勝。GⅠは2022年の阪神ジュベナイルフィリーズ以来2度目で、その時も了徳寺健二ホールディングスが所有するミシシッピテソーロに騎乗し、16番人気ながら5着と好走している。
今回勝利した坂井騎手も含め、JRAのGⅠで20代の日本人ジョッキーが1、2着したのは、2022年の秋華賞以来(坂井騎手1着、横山武史騎手2着)。ただ、その前となると、2014年のNHKマイルC(当時25歳の浜中俊騎手が1着。24歳の三浦皇成騎手が2着)まで遡る。
コロナ渦以前のように外国人ジョッキーが続々と来日する中、20代の日本人ジョッキーが大舞台で活躍している点は見逃せないことで、今後も、関東であれば横山武史騎手。関西であれば、岩田望来騎手や坂井騎手に続くホープが誕生することを願わずにはいられない。
写真:かぼす