[重賞回顧]ミルコ・マジック炸裂! 勝負所でまくりを決めたコスモキュランダが重賞初制覇~2024年・弥生賞ディープインパクト記念~

3着までに皐月賞の優先出走権が与えられる弥生賞ディープインパクト記念。ただ、このレースから本番を制した馬は2010年のヴィクトワールピサが最後。近年は、ダービーや菊花賞と関係性が強くなっている。

とりわけ、2022年の覇者アスクビクターモアは、皐月賞5着、ダービー3着と着順を上げ、秋に菊花賞を制覇。また、2着ドウデュースも、後の世界最強馬イクイノックスを降してダービーを制し、さらに2023年の有馬記念も勝利するなど、古馬になっても活躍している。

例年、出走頭数は少ないものの、クラシックが終わった後に振り返ると、少数精鋭でレベルが高かったと結論づけられることが多い弥生賞ディープインパクト記念。牡馬が出走可能な3歳限定戦としては年内最初のGⅡで、それも当然といえば当然だが、このレースなくしてクラシック三冠を占うことはできないだろう。

2024年も例年どおり頭数は落ち着き、11頭が出走。そのうち3頭に人気が集まり、最終的にトロヴァトーレが1番人気に推された。

トロヴァトーレは、2023年の新種牡馬レイデオロの産駒。重賞初挑戦とはいえ、今回と同じ中山芝2000mのレースを上がり最速で連勝しており、さらにリーディングトップを快走するクリストフ・ルメール騎手とのコンビ再結成も叶った。

3代母ソニンクの一族からは、ロジユニヴァースやディアドラ、ソングラインをはじめ、GⅠ馬はもちろん、重賞ウイナーも続出。これらの大物に続くことができるか、注目を集めていた。

わずかの差で2番人気となったのがダノンエアズロック。2022年のセレクトセール1歳市場において同セール史上7位の税込4億9,500万円で落札され、半姉に重賞3勝のプリモシーンがいる良血馬。

今回が4ヶ月半ぶりの実戦とはいえ、前走のアイビーSで負かしたレガレイラは、シンエンペラーを差し切ってホープフルSを勝利し、皐月賞の有力候補とされている馬。他のライバルにはない実績を持っており、トロヴァトーレと同じく、デビュー3連勝での重賞制覇が期待されていた。

3番人気に推されたのがシンエンペラー。こちらは2020年の凱旋門賞馬ソットサスの全弟という世界的良血で、ここまで3戦2勝。出走馬中、唯一の重賞ウイナーでもある。

前走のホープフルSは2着に敗れたものの、淀みないペースを先行して早目先頭に立つ競馬で、負けて強しの内容だった。実績面では頭一つ抜けており、外国産初の牡馬クラシック制覇へ、今回は内容も問われるレースだった。

レース概況

ゲートが開くと、ほぼ横一線のスタートからシリウスコルトが飛び出し、内からシュバルツクーゲル、外からダノンエアズロックが先行。その後ろにシンエンペラーとトロヴァトーレが続いたことで、人気3頭は中団よりも前に位置し、4番人気ファビュラススターも、さらにそこから2馬身差の6番手につけていた。

前半1000mは1分0秒4で、やや遅いペース。先頭から最後方のアドミラルシップまでは15馬身ほどの差で、11頭立てにしては縦長の隊列となった。

その後、残り800mの標識を過ぎる直前から、ファビュラススターの直後につけていたコスモキュランダが一気にポジションを上げ、3、4コーナー中間で2番手まで進出。この動きを見て、中団以下に構えていた馬も前との差を詰める中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入るとすぐ、コスモキュランダがシリウスコルトに並びかけ、坂下で単独先頭。後続に1馬身のリードを取った。ダノンエアズロックとトロヴァトーレは伸びを欠き、替わってシンエンペラーが前2頭を追うもジリジリとしか伸びず、ゴール寸前でシリウスコルトを交わすのがやっとだった。

結局、後続に1馬身1/4差をつけて楽々と押し切ったコスモキュランダが先頭でゴールイン。2着にシンエンペラーが入り、逃げたシリウスコルトが同じく1馬身1/4差で続いた。

良馬場の勝ち時計は1分59秒8のレースレコード。勝負所でまくりを決めたコスモキュランダが、早目先頭から押し切り重賞初制覇。本番への切符を手にし、父アルアインに産駒初の重賞タイトルをプレゼントした。

各馬短評

1着 コスモキュランダ

これぞミルコ・デムーロ騎手の真骨頂、ミルコ・マジックともいうべき、まくりが炸裂。2010年有馬記念のヴィクトワールピサや、18年大阪杯のスワーヴリチャードのように、まくり切るところまではいかなかったが、中間点を過ぎたところからスパート。逃げ馬の直後まで押し上げると、直線早目に抜け出し、伸びあぐねる上位人気馬を尻目に悠々と押し切った。

例年、皐月賞は淀みないペースで流れることが多く、今回の再現は難しいかもしれないが、早目に動いて勝ち切った点は評価できるポイント。ただ、レースレコードで制したとはいえ、基本的には時計のかかる競馬が理想だろう。

2着 シンエンペラー

スタンド前でトロヴァトーレとの位置争いがあり、少し絡まれるような場面はあったものの、1コーナー以降はスムーズに追走。ところが、3、4コーナーでバランスを崩したそうで、その影響か、勝負所で川田騎手が促しても前との距離をなかなか詰められず、それが最後の差に繋がった。

バリバリのヨーロッパ血統で、この日のようなやや緩い馬場はむしろ歓迎かと思われたが、バランスを崩したにしても、さほど動けなかったことは意外。本番に向けてお釣りのある状態で、前哨戦としては悲観するほどの内容ではなかったものの、本番で人気しすぎるようであれば、疑ってかかるのも一つの手かもしれない。

3着 シリウスコルト

絶妙なペースで逃げ、出走権を確保。勝負所でコスモキュランダにプレッシャーをかけられたのは誤算だったかもしれないが、人気を考えれば十分な内容だった。

同じ中山芝2000mの芙蓉Sを勝利しているものの、おそらくベストは1600m前後で、1800mが上限。小回りや直線の短いコースが、主戦場になるのではないかとみている。

レース総評

前半1000m通過が1分0秒4で、同後半が59秒4=1分59秒8はレースレコード。当日のお昼過ぎに良馬場変更となり、メインレース時点でもやや緩い馬場だったが、その状態でレースレコードの決着となったことは少し驚きだった。

しかも、1着コスモキュランダは道中で自ら動いての勝利。レースレコードだからといって、即、高い評価となるわけではないが、上位人気馬の凡走に助けられた勝利というわけでもない。

そのコスモキュランダは、アルアインの産駒。全弟でダービー馬のシャフリヤールとは対照的に、アルアイン自身もディープインパクト産駒としては異色の持久力タイプで、2017年の皐月賞をレースレコードで制した。

この世代が初年度産駒で、同じく新種牡馬のスワーヴリチャードやレイデオロも同じ2014年生まれ。現役時、アルアインは皐月賞を制した一方で、瞬発力勝負となったダービーでは5着に敗れており、そのとき勝利したのがレイデオロ。2着がスワーヴリチャードだった。

また、新種牡馬の中では、ブリックスモルタル、スワーヴリチャードに次ぐJRA重賞制覇となった。

一方、母サザンスピードは、オーストラリアのビッグレース、コーフィールドCを勝った名牝。引退後はノーザンファームで繋養されていたものの、2020年の繁殖セールに上場され、ビッグレッドファームが税込2,310万円で落札した。そのとき受胎していたアルアインの仔がコスモキュランダで、今回は母の古巣ノーザンファーム生産馬を撃破しての勝利だった。

他、4着以下に敗れた馬で、まず触れなければならないのが、1番人気6着のトロヴァトーレだろう。

こちらは、スタート後すぐのスタンド前でややクビを上げるような仕草。さらに、ゴール板を過ぎる辺りでルメール騎手が内に入れようとしたところ、隣のシンエンペラー&川田将雅騎手が度々激突しながらもガッチリとガード。結果、1頭分とはいえ外を回らされることになり、前に壁を作ることができなかった。

その後しばらくはスムーズに追走していたものの、今度は3コーナーに進入するところで、まくりを開始したコスモキュランダと、内にいたダノンエアズロックに挟まれるようにして前をカットされてしまい、なおかつ馬場も気にしていたとのこと。リズムを乱される要因が複数あった。

レイデオロ産駒の中でも素質はピカイチで、管理する鹿戸雄一調教師によると、ルメール騎手もレース後「こんなはずではない」と、話していたそう。ただ、レイデオロ産駒は牡馬に比べて牝馬の成績が極端に良くなく、一筋縄ではいかないタイプも少なくなさそう。今回の敗戦をトロヴァトーレ自身が引きずらないよう、願うばかりである。

対して、2番人気のダノンエアズロックは7着。

こちらは4ヶ月半ぶりの実戦で、前走から馬体重が18kg増。そこまで太いようには見えなかったが、その前走時も20kg増で、やはり中身ができていなかったのだろうか。

また、モーリス産駒は前向きな気性の馬が少なくなく、ダノンエアズロックも道中ややいきたがるようなところを見せていた。

朝日杯フューチュリティSで出遅れながらも引っかかり気味にポジションを上げ、途中から逃げる格好になったシュトラウスは極端な例だが、モーリス自身がそうだったように、産駒も多くは晩成タイプ。中山記念を制したマテンロウスカイのように、中身が伴った古馬ならまだしも、2歳や3歳春の段階で、引っ掛かりながらも先行して押し切るのは至難の業だろう。

さらに、トロヴァトーレとダノンエアズロックには、これが今季初戦という共通点があった。

弥生賞ディープインパクト記念において、今季初戦となる馬。すなわち、前走が2歳戦で2ヶ月以上の間隔を開けてくる馬は、むしろ好成績。しかし、その大半は前走重賞に出走した馬である。

逆に、前走が2歳限定の条件戦だと、サンプル自体少ないものの、過去10年(今回は含めない)で[0-2-0-9/11]。好走したのはシュバルツクーゲルの半兄シュヴァルツリーゼと、次走NHKマイルCを勝利することになるシュネルマイスターだけだった。

ダノンエアズロックのように、前走2歳限定のオープン特別(リステッド)に出走した馬は過去10年で0頭だったため、こちらについてはなんともいえないが、前走2歳の条件戦に出走した馬が当レースで上位人気に推されているケースは、過剰に評価されている可能性がある。

写真:shin 1

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